幕間1 防人達の新年隠し芸大会

※物語がシリアス続きだったので肩の力を抜けて楽しめる幕間を書いてみました。作者の私自身も楽しんで書けました。お楽しみくださいませ。


 ・・Φ・・

 2037年1月1日

 午前1時前

 兵庫県伊丹市日本軍伊丹基地・統合司令本部

 第2本部棟・士官用食堂


 戦時中の軍人にとって年越しイベントとは数少ない息抜きが出来る催し物である。約半月後には再び戦地に赴くのだから羽目も外したくなるというもの。だから将官級の軍人達はこの日に限って節度のある賑わい方なら黙認していたし、佐官級の軍人も士官用食堂で楽しむものが多かった。

 さて、九時半から始まったこのイベントだが酒の入り始めは紅組と白組に分かれての歌合戦よろしくカラオケ大会が行われ、ビンゴ大会も行われた。この辺りはイベントとしてはよくある光景だ。それはそれは賑わった。

 だが、年が明けてはい解散。などなる訳がない。新年を迎えての午前一時前。周辺に配慮して防音魔法が掛けられた事でさらなるどんちゃん騒ぎが行われようとしていた。


「皆、盛り上がってるかー!!」


『いぇぇぇぇい!!!!』


「今日は休みだ!! まだまだ楽しむぞぉ!!」


『ふぅぅぅぅ!!!!』


「会場あったまってるな! なら始めるぞッッ、余興イベント『新春隠し芸大会』だぁぁぁ!!!!」


「ひゃっほぉぉぉぉうう!!!!」


 さらなるどんちゃん騒ぎとはこれのことだ。題して、『新春隠し芸大会』。普段は上官らしく振る舞う彼等の威厳はどこへやら。会場の様子は忘年会や新年会の会場と大して変わらない様子だった。


 さて、この大会だが実は軍人達の間では割と定番イベントになっていた。規模の大小の違いはあれど毎年いくつかの基地では開催されているもので、今の伊丹には各地から人が集まっている。


 だったら、せっかくだし年明けの余興にやるのがいいんじゃない?

 と、意見が出るのは当然で将官級の軍人達も若かれし頃の思い出でもあるから快諾した。

 そうして『新春隠し芸大会』は行われることになったのである。

 さて、その大会だが最初から大盛り上がりだった。

 プログラムの途中までを紹介していこう。


《細すぎて伝わらんモノマネのヤツ》

 かつてテレビでも放送されたアレである。多くの者が知っている内容だからウケがよかった。


「お題! 陸軍マスコット、『防人くん』の仕草」


「お前一時期広報に配属されてたから上手いに決まってんだろ!!」


「ぷ、はははっ!! マジで防人くんだわ!!」


「すげえ、宣伝映像とかでみるやつだ!」


「二番行きます! 音ゲーマーがミスった時の様子!」


「本当に細すぎるだろ!」


「分かるやついんのかよー!」


「学生時代にゲーセン行ってたから、よーおったわ」


「てかアレ俺だわ。やったやった」


「三番! ハマの赤い電車の車掌! ……ダァシエリイェス」


「こまけぇなぁ!」


「く、んぐっふ……、めちゃくちゃ似てる!」


「関東勢しか分かんないやつだ!」


 この後も何人かが披露したが、場は十分に盛り上がっていた。


《早押し! エンジン音でどの機体か当てろクイズ!》

 これは空軍の参加者五名が参加した。タイトル通り、エンジン音でどの機体かを当てるクイズである。

 なお勝利者は整備科の者ではなく輸送機パイロットだった。しかも圧勝。彼は筋金入りの飛行機オタクだったのである。


「なんで開始三秒で分かるんだよ……」


「乗ってる機体だけじゃなくて、戦闘機も全部答えやがった……」


「つーかなんで小型機まで全部答えられるんだよ……」


「ヘリも全問正解とかえげつねぇ……」


 後に圧勝した彼は部隊内で博士と呼ばれるようになったらしい。


 尊敬の眼差しを受けた彼が話題をかっさらった早押しクイズの後も隠し芸大会は続く。いくつかのプログラムを終えると、次は孝弘達四人の番が回ってきた。実は一〇日程前にこういうのは初参加だしやってみないか? と第一特務の大隊長達が孝弘達に参加を持ちかけたのだ。

 孝弘達は少々迷ったがせっかくの年越しイベントだしと首を縦に振って頷いた。それから軍務中の合間を縫ってそれぞれが練習していたのだ。順に見ていこう。


《私の歌を聴きなさい! 高崎中佐の歌声披露》


 カラオケ大会があったにも関わらず彼女だけ参加していなかった。その理由が二つあるのだが、理由の一つがこれである。別枠で用意されていたのだ。

 もう一つの理由は、孝弘や大輝に知花は知っているが他の者はあまり知っていなかった。しかし、どうして別枠になったのかこの場にいた軍人達はすぐに知ることになる。

 水帆が選んだ曲は、歌うのが非常に難しいと言われる人気女性歌手のそれもアップテンポの曲だ。


「めちゃくちゃうめぇ……」


「えっぐ、すっご……」


「マジかよすっげえ!!」


 歌の出だしから、水帆は皆の心を掴んだ。早速拍手が起きた。

 だがこの曲はメロよりサビが難しいとされる。


「おいおいやべえな!!」


「あの高音出しきんのか!!」


「サイリウムが、サイリウムが欲しいっ!!」


 しかし水帆は歌いきってみせた。しかも、最後まで完璧に。

 曲を歌い終える時には、会場は大喝采が起きていた。


「ひゅー!!!!」


「もう一曲!! もう一曲!!」


 会場からはアンコールの声が響き渡る。当然の結果だった。水帆は飲酒も相まって気分が良くなっているから、司会進行役の人に確認を取って自分がよく歌った曲を選定。音源はあったようで、それも披露することになった。

 後に水帆は、あちこちで『歌姫』とも呼ばれるようになるのだった。


《二丁拳銃(トゥーハンド)使いの孝弘によるガン・カタ》


 孝弘の主武装と戦地での活躍から隠し芸ではない気がするのだが、ウケが良さそうということで披露することになった。

 流石に実弾は使えるはずがないので、AR端末の訓練機能を使った実演である。やられ役については第一特務のノリがいい者が十数名ほど集まった。

 結果から言うと、孝弘のガン・カタは多くの者が感心しつつ楽しめる程に盛り上がった。漆黒のロングコートを身にまとった孝弘とやられ役をやるスーツを着た十数名が本気でやったこともあるだろうし、会場のテーブルをかなり除けて広めのスペースを取ったのも良かったかもしれない。孝弘が全員を倒した時にとある映画でよく知られているお決まりのポーズを取ったのもあって、ベテラン勢のウケも良かった。

 孝弘自体も、


「あの映画は何度か観てたから自分が役になりきれてめちゃくちゃ楽しかった。最高に気持ちよかった」


 とニコニコしており、充実した時間を遅れたと満足げだった。


《ゴーレムのようちえんby大輝・知花》

 タイトルだけ見ればさっぱり意味が分からないが、大輝の名前があった事で何があるかを皆は理解した。大輝は召喚士だからである。

 じゃあ、知花は? と周りはなるのだが、孝弘と水帆は知花が何の役目で出るのかすぐさま理解した。知花の趣味にも繋がるからである。

 それは、知花が会場に現れた時に孝弘と水帆以外の全員も理解することとなる。


「はーい、ゴーレムちゃん達ー! こっちだよーっ!」


 現れた知花は衣服から仕草まで幼稚園の先生になりきっていた。というのも、知花は高校生時代に演劇部でキャスト(役をする人のこと)をしており、高校三年の頃からコスプレイヤーも参加可能な同人誌即売会に行ったこともある。しかも衣装は自作。これは趣味の裁縫や衣服作成が役に立った。異世界に飛ばされた後も空いた時間で裁縫や衣服作成は続けていたからよりスキルを磨けていたし、メイクについては異世界で何度もする機会があったから腕を上げていた。なので、今彼女が着ている衣服もメイクも全部自分で手がけるのは楽勝だったのだ。

 それだけでは無い。


「すげえ! ちっちゃなゴーレムが幼稚園の制服みたいなの着てる!」


「かわいいー!!」


「動きも愛らしいなあ」


 知花の後ろをてくてくと歩いてついてきていたのは体長三〇センチくらいのゴーレムだった。しかもゴーレム達は幼稚園に通う子達が着るようなスモッグを身にまとっていた。

 マスコットみたいな動きをするゴーレムに会場からは和やかな声が出ており、微笑ましそうに皆が見ていた。

 ゴーレムを操作しているのは言うまでもなく大輝なのだが、彼はゴーレムを小さくして召喚することも可能である。精密な動きも彼だからこそ可能な芸当だった。


「みんなー、とーまーれっ!」


 知花が普段とは違う可愛らしさ重視の声音でゴーレムへ声を掛けると、ピタリとゴーレム達が動きを止める。


「それじゃあみんなで、かけっこしよっか! いっくよー!」


 知花がゆっくりと歩き始め少し小走りになると、プチゴーレム達はてちてちとついていく。会場にいる者達の口角は緩みきっていた。

 この後も数分間、大輝がゴーレムを操作し知花が役になりきって、二人は『ゴーレムのようちえん』の演目披露は終わった。

 今までと違うタイプの隠し芸に会場は大いに盛り上がった。

 誰もが笑い。誰もが楽しむ。

 たとえ半月後には戦地に行くと分かっていても、今だけは笑いあって、和気あいあいと過ごしたかった。だから皆が皆、ちょっとした非日常をとにかく楽しんでいた。

 隠し芸大会の演目はまだまだ続く。

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