第14話 セルトラが語る彼等の世界の歴史
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「ワタリビトによって建国したとされる、ですか」
「…………米原中佐、だったカナ。思ったより驚かないんだネ。キミが知りたそうにしていた情報だと思うケド」
「これまでの捕虜尋問で、あったとされる。といった記録が残っておりますので。ただ、確定的な情報が得られたのは初めてなのでこれでも驚いていますよ」
「ふゥン。でも、ここから先の話はダレも話してないだろうから、披露してみせようカ。もしかしたら、この戦争の核心に迫る内容かもしれないヨ?」
「最重要機密にあたりますが、話してくれるのですね?」
「私は属国にされた国の軍人ダヨ? 今の戦争に直結する情報はともかク、我々の世界の事を話したところですぐに困ることはナイサ。すぐには、ネ。それに困るのは神聖帝国サ。じゃ、歴史を話そうカ」
「お願いします」
それからセルトラは彼の国のことを話し始めた。
セルトラの祖国が建国されたのは向こうの暦で約三〇〇年前。当時は帝国が建国約一〇〇年の頃で、今に比べればまだずっと国土が小さい頃だった。帝国が大陸南東部を発祥地であったのに対して、カルラネプラ王国は南西部を発祥地であったのもあるだろう。
だから帝国とは相対しておらず、距離も随分離れた国という意識だった。
カルラネプラ王国は大きい国では無かったが決して小さい国でも無かった。建国以来戦争などで徐々に国土を広げていき、帝国に攻め込まれる前の最大版図の頃で、帝国の約五分の一というのだから地域大国程度であるといえる。
技術力や軍事力についてはワタリビトが建国しただけあって、周辺各国よりは一世代ないし二世代近く進んでいた。建国初期から中期にかけて大きく国土を広げられたのはそれも要因だとセルトラは語った。
ただ、カルラネプラ王国は帝国ほど侵略欲が無かった。過去の戦争の半分は向こうがけしかけてきたから応戦したというのだから、随分大人しい国家といえる。また、王国上層部は不相応に国土を広げて却って国力を落とすことを嫌っており、無駄な侵略戦争をするくらいなら内需と交易で稼ぎ国力を高めることをよしとしたから、同格の国家に比べると国土はいうほど広くはなかったらしい。もちろん、それが後に仇となってしまうなど王国上層部はおろか、民衆も思ってなどいなかった。
大陸全土の雲行きが怪しくなったのは今から約五〇年前くらいからだった。帝国が軍事拡張主義に走り始めた頃と重なる。ただ、まだその頃は王国は平和だった。
しかし、約二五年前からカルラネプラ王国もいよいよ他人事と言えなくなってきた。隣国の隣国が攻め滅ぼされたのだ。この頃には帝国は急速に軍事力を高めていたのだ。そして次は隣国が。遂には、カルラネプラ王国が。
そうして今から約五年前。カルラネプラ王国は四年も戦ったが奮戦虚しく、敗戦した。
「今思えば、この頃に我が国も軍事力をより高めなければならなかったのかもネ。でも、手遅れだったヨ。何せ帝国は、我が国を凌駕する科学力と軍事力をつけていたのだかラ」
この時ばかりかはセルトラは悔しさを顔に滲ませていた。カルラネプラ王国は決して軍事力も科学力も、魔法や魔法科学も劣っていなかったはず。なのに、帝国はそれ以上に強かった。ただ数でゴリ押しするだけではなく、質的優位も用いて侵略してきたのだ。もう勝てる相手では無くなっていたのだった。
しかし、軍人としては悔しくて悔しくてたまらないだろう。今や属国軍の軍人になっているのだから。
孝弘も璃佳も、彼の心情はよく理解できた。同じ軍人であるし、自分達も押し返しつつはあるものの侵略されている側だから。
「これまでの捕虜尋問記録と貴官が話してくれた帝国侵略の歴史は一致します。神聖帝国が急速に力を付けた時期についても。そこで一つ質問です。帝国は一時大陸北部及び北東部国家群に押されたいた時期があったはずですが、それは何故かご存知ですか? また、どうして大陸北部及び北東部国家群は滅亡したのですか? 捕虜尋問記録である程度の情報は得られていますが、理由が知りたいです」
「米原中佐、それは帝国の内情と他国家のことも知りたいからカイ?」
「はい」
「分かったヨ。それじゃあ、我が国とその周辺国家以外のことについて、覚えている限り話そうカナ」
「感謝します」
「構わないヨ。私が話した時に見せてくれた表情と敵国軍人なのに敬意を評してくれた心。それで少し気が変わったからネ」
セルトラは用意されていた水を一口飲むと、また話を始めた。
カルラネプラ王国のある大陸は広大で、神聖帝国が建国以来版図を広げても所詮は南東部全域をおさめるに過ぎなかった。
神聖帝国にとって災難だったのは建国約二三〇年が過ぎた頃。内乱が巻き起こったのだ。この内乱は約一五年続き、神聖帝国本土は荒廃した。そのタイミングで周辺国家が何もしないはずがなかった。
「ただネ、今思えば問題だったのが、大陸北部及び北東部の国家群の内三つはワタリビトが建国したか、国家中枢部にワタリビトがいたかもしれないということなんだヨ」
「国家名を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
ワタリビトはカルラネプラ王国だけでなく、他の国家にもいた。この事実に孝弘と璃佳は驚愕しつつもなるべく表情には出さないようにし、孝弘はセルトラに問うた。
「大陸北部のビリンレヴン共和国。その東隣に位置するセリンティア連合王国。北東部のナイゼン協商連合。捕虜尋問記録と一致するだろウ?」
「一致してるね……」
「はい、准将閣下。セルトラ少将、この国はいずれも周辺国家より技術力・軍事力など国力の優れていた国でしたか?」
「当時の我が国と同格か一歩上だったみたいだネ。いくつか国を挟んでの遠方交易しかしてなかったし国家間外交も活発じゃなかったカラ、詳細は書物を見てみないと分からナイ。まァ、それも焼かれてしまったけれド……」
「そうですか……」
「すまないネ。話を続けようカ。この三つの国家は友好国と共に圧政に苦しむ民衆を救うことを大義に掲げて内乱で荒廃した神聖帝国に侵攻した。戦争名は『反イルテリラシア国家群解放戦争』。単に『解放戦争』とも呼ぶ。よくある歴史ダヨ」
セルトラの言うように、大陸北部及び北東部国家群にとっては十分な大義のある戦争だった。しかも共同声明で『戦乱に苦しむ民衆を救う』と大々的に公表したたいう。
「歴史書によれバ、当時のビリンレヴン共和国はワタリビトを師とする者が大総統で、セリンティア連合王国の国王はワタリビトの孫。ナイゼン協商連合に至ってはワタリビトが連合議長だったはずダヨ。まァ、ナイゼン協商連合議長がワタリビトと分かるのは少し後のことだケド」
「その解放戦争、結果は火を見るより明らかで反神聖帝国連合が勝利した、と」
「ウン。当時の帝国北西部と北部が彼等の土地になったネ。ただ、彼等の覇権もそこまでだっタ」
「この解放戦争を境に、各国の関係が悪化した。でしたか」
「直接的にではなく、各国の友好国を通して代理戦争みたいな形になったケドネ。小競り合いが続いたはずダヨ」
「そして、その間に帝国は力を蓄えて来るべき奪還の時を待ったと」
「捕虜尋問ではそうなっているんだネ、米原中佐」
「ええ。捕虜尋問記録では。…………実際は違うと?」
「ここからは半ば本当で半ば推測ダヨ。その点は心に留めておいて欲しいナ。たぶん、捕虜尋問記録の相手が帝国本土でも大貴族のような高位階級者じゃないから、肝心な所が抜け落ちているカモ。七条准将と米原中佐、二人とも少し気付いたんじゃないカナ。捕虜尋問記録で神聖帝国の歴史を知り、複数のワタリビトの存在を知った今ならネ」
「…………あくまで可能性の一つではありますが」
「私も七条准将閣下と同じか近い可能性は思い浮かびました」
「なら話が早いネ。たぶン、神聖帝国上層部はこの頃からワタリビトに対して強い憎しみや復讐心を抱いているんじゃないカナ。絶対に許さナイ。征服してやるト。その証明に、歴史の続きを語るとしよウ」
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