第12話 第101魔法旅団戦闘団

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「旅団戦闘団への改編、正式名称『第一〇一魔法旅団戦闘団』の組織図は資料にある通りだ」


『第一〇一魔法旅団戦闘団』の戦力内訳は以下のようになっている。


【第一〇一魔法旅団戦闘団組織図】

 ◾︎第一特務連隊(実数:943/定数:950)

 ・連隊麾下部隊に変更無し。ただし、特務連隊本部中隊は旅団戦闘団本部中隊へと変更。また、旅団戦闘団本部中隊麾下に米原中佐以下二〇名の特務小隊を配置する。


 ◾︎北方特務戦闘団(実数:990/定数:1000)

 ・戦闘団本部中隊、戦闘団各大隊共に戦闘団麾下部隊に変更無し。


 ◾︎第一〇一旅団戦闘団後方支援大隊(定数:600)

 ・大隊本部

 ・本部中隊

 ・補給中隊

 ・野戦整備中隊

 ・魔法能力医療中隊

 本部小隊

 治療小隊

 ・前方支援中隊(魔法歩兵)×3

 ・前方支援中隊(魔法偵察)

 ・前方支援中隊(魔法工兵)


 ◾︎第一〇一旅団戦闘団工兵大隊(定数:600)

 ・大隊本部

 ・本部中隊

 ・魔法戦闘工兵中隊 ×2

 ・通信支援中隊

 ・前方支援中隊


 ◾︎旅団戦闘団総合計定数:3150



「――とまあ、ざっとこんなくらいだ。従来の旅団戦闘団組織の一部は第一特務や北特団の部隊で代用可能であるから減らしたが、概ね我が国の陸軍や海兵隊の一部の部隊が採用している旅団戦闘団を踏襲した」


「正直な感想を申してもよろしいでしょうか?」


「構わん」


「ありがとうございます。本旅団は旅団戦闘団となっておりますが、魔法軍組織に照らし合わせるのならば旅団以上、師団以下の兵力と見てよろしいでしょうか」


「大体その認識で良い。増強旅団と捉えてもらえれば合っている。これまで第一特務も北特団も短期間は別としてそれ以上の期間は同地で作戦を実施している部隊の補給と支援を受けていた。だが、第一〇一は違う。旅団戦闘団であるから独立しての作戦行動が可能だ。外征型の旅団戦闘団と違って国内での運用が基本であるから、一部の補給や後方支援はこれまで通り後方支援部隊から受けることになるが、独立的に作戦へ投入されると思ってくれ」


「了解致しました。それにしても、参謀本部は随分思い切った改編を行いましたね。いくつかは非能力者部隊ですが、大半が魔法能力者部隊です。魔法軍の総兵力を考えれば、この編成を達成させるのは簡単ではないはず。ですが私の手元にこの資料があるということは、既に目星もついて後は訓練をするだけでしょう?」


 璃佳の感想は最もだった。魔法軍は陸軍に比べると兵力は約五分の一で、海兵隊より少し多いくらいだ。一個大隊を新設するにしてもそれなりの労力を要するが、今回はそれを大きく上回る増強旅団規模の改編。いくら主軸となる第一特務連隊や北特団はそのままスライドさせたとはいえ、付随する工兵大隊や後方支援大隊は魔法軍や陸軍、海兵隊の各部隊から一部を抽出したというのだから参謀本部の苦労がしのばれる。


「ああ。来月初頭までには旅団戦闘団に編入される全部隊が伊丹へ集まる事になる。幸い基地には一個旅団戦闘団を配置させるスペースがあるから、予定通り事は進むだろう。互いの連携を確認する訓練が完了すれば、実戦に向かうこととなるだろう。第一特務と北特団は何度か演習を行っているが、双方共に旅団戦闘団規模での運用を想定した訓練はあまり行っていない。あくまで俺個人の考えでは、この訓練を終えてから投入したいと考えている」


「私も同感です。師団以上単位の部隊と行動を共にする事がほとんどでしたから。旅団戦闘団の指揮は初めてですから、訓練は必ずしておきたいですね……」


「で、あろうな。俺とて貴官の立場なら同じことを言うだろうさ」


「ちなみにでありますが、参謀本部は旅団戦闘団をどう運用するつもりですか? 季節的にはこれから冬であり、地理的にはこれから進出する地域は山岳地帯が多いところですが」


 璃佳はコーヒーを口につけて一息置いてから中澤大将に質問をする。自身が指揮官となるのだから、想定される運用方法はある程度察していたとしても確認したかったのである。


「第一〇一が投入されるのは、短期的には北関東もしくは南東北と想定している。そこが終われば北部東北や北海道。いずれも冬の寒さが厳しい地帯だな。第一〇一に北特団を編入させたのは気候的な関係もある。北特団は冬季戦については第一特務以上の実力を持っており、山岳戦にも強い。その上、大戦前の北特団の拠点は北海道。あの地に進出した際には心強い水先案内人になってくれるだろう。練度についても再編成後とはいえ問題無いだろう」


「北特団が冬季戦に非常に強いのは身をもって経験しておりますから、共に戦えるのならばこれほど心強い事はありませんね」


「ああ。故に北特団を編入させた。もし九州方面への進出なら迷わず西特大なのだが、今回は真逆であるし西特大の強みは島嶼戦だ。ほぼ全員が高度にフェアルを扱え、奇襲や強襲を仕掛ける点にある。これは第一特務の第二大隊と被る所があるから、西特大は選択肢から外れたという経緯があったのだ」


「なるほど。現場側から見ても的確な配置だと思います」


 中澤大将の話した内容に璃佳は首を縦に振って同意する。

 なお西特大が第一〇一への編入候補から外れた結果、北関東以北における作戦での西特大の役割はフェアルによる機動的攻撃になったのだが、ここでは直接関わらないので詳細は割愛とする。


「部隊の詳細は以上だ。他に何か質問はあるか?」


「いえ、ございません。細かい点は資料をチェックしようと思います。これまでに比べて三倍以上の部下を抱えることになりますから、まずは部隊の仕組みを事細かに知ろうかと」


 璃佳の言葉に中澤大将は満足気に頷くと、


「分かった。作戦の内容は決定次第説明をするが、貴官が指揮する第一〇一魔法旅団戦闘団は今後実施される数々の作戦において、兵力こそ増強旅団規模ではあるが数字以上に大きな存在となる。作戦において重要な鍵にもなる。それはすなわち、我が国の命運にかかるという事でもある。故に、貴官の益々の活躍を期待する」


「はっ。必ずやこれから待ち受ける戦争の任務を全う致します」


 璃佳は中澤大将にそう言うと、新設部隊の話はこれで終わりとなった。


(これから日本軍は全土奪還に向けて大きく動き始める。上はかなり本気みたいだね。それは多くない魔法軍の兵力を再編させ新設させた第一〇一の中身を見ても伝わってくる。責任は重たくなるし今までより多くの部下を任せられることにもなる。けど、必ず責務を果たさないとね。異世界の侵略者連中からこの国全てを取り戻す為に。皆の大切な人を守るためにも、さ。)


 中澤大将の執務室から退室後、璃佳は廊下を歩きながら心中でこう語り、決意を改にするのであった。

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