第10話 双子の白ローブとの戦い

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 四対二の戦闘は双子の白ローブは槍を持つ姉が前衛に、長杖を持つ妹が後衛に。孝弘達は璃佳と茜が前衛、大輝は中衛、孝弘が後衛のフォーメーションで始まった。

 先手は孝弘達サイド、茜による多数の狐火の攻撃だった。

 茜の狐火は白ローブの姉、アルクレアに向かい一つ残らず爆発する。

 炎と煙に包まれたアルクレアに向かって突っ込んだのは璃佳。命を刈ろうと大鎌を振るうがしかし、後方の妹、イルクレアの詠唱が終わっていた。


「『顕現ここニモいるのよ実影投写もう一人ノお姉サマ』」


「この槍は見た目通りじゃナイのよぅ」


「ちぃ!! 多節棍か!!」


「影分身じゃと?! また珍しい術を!!」


 イルクレアの魔法は古風に言うのであれば影分身であった。アルクレアが二人に増え、影の方が高く跳躍する。

 それだけで十分に驚愕に値するのだが、それだけでは無い。璃佳と対峙していたアルクレアの持つ槍はただの槍ではなく多節棍。見た目の何倍もリーチのあるシロモノだった。

 想定外の範囲から攻撃を受けかけた璃佳だったが、とっさの判断で大鎌の持ち方を変え、多節棍の穂先を弾き返す。


「…………!!」


「ぬぅ……!!」


 影の方は攻撃先を茜に定めていた。高くジャンプしていたアルクレアの分身は落下しながら多節棍を振り下ろす。

 落下エネルギーも加わったその一撃は尋常でないほどに重たかった。だが茜はそれを受け止めきる。


(中々に重たい一撃じゃのぅ! 影でこれということは、璃佳あるじは。)


 一撃を与えられないと判断した影が間を取って対峙したタイミングで茜は璃佳の方を見る。ちょうど璃佳がアルクレアの二撃目を受け止めていた。


(見た目に反してとんでもない馬鹿力じゃんか……!)


 続けて三撃目が飛んでくる。槍ではありえない所からの攻撃だが、多節棍ならば有りうる。だとしてもその動きはデタラメに過ぎていた。

 それを弾き返したのは大輝の薙刀だった。


「んだこれ、重ってぇ!!」


「川島少佐助かった! けど米原少佐を――」


「ご心配なく。召喚体に任せました」


「ああ、あれね」


 璃佳がチラリと左奥の方を見ると、孝弘の後ろについて行く者が見えた。土属性の人形。格好は忍者そのものだった。大輝は僅かな間に召喚体を顕現させていたのである。

 視点は変わって孝弘に。彼は二人に増えたアレクレアに対して璃佳と茜、大輝まで張り付く羽目になったのは想定外だったものの、相手が推定Sランクともなれば想定外が当たり前なので焦りは無かった。自分の目標は妹のイルクレア。姉の方に三人が集中しているし、妹のイルクレアは長杖であることから中遠距離を得意とするはず。であるのならば、同じく中遠距離からの攻撃がメインの自分が適任と判断したのだ。


(大輝の土忍か。助かる!)


 孝弘は後ろからついてくる忍を一瞥すると、視点をイルクレアへ。まずは牽制として二発の無属性魔力弾を発射した。

 イルクレアが展開していた魔法障壁は一〇枚。そのうち四枚が破壊される。孝弘の銃弾の威力にイルクレアは目を見開くが、まだ表情に余裕があった。


「魔力弾」


「ちっ! 短縮詠唱でこんなにとは!」


 イルクレアが呪文を発すると、現れたのは多数の魔法陣。現れた魔力弾は高速で次々と着弾していく。孝弘と忍はそれらを急速機動で避けつつ魔法障壁を二、三枚犠牲にして全てをかわしきる。


「へぇ、やるジャない」


「魔力弾ハイチャージ。速射ラピッドショット


「さすがに避けないと危ナイわぁ」


「意外とすばしっこい……!」


 イルクレアは孝弘の銃撃だけでなく忍のクナイによる攻撃もまるで踊るかのように避けていく。


「だが、殺れないことはない……!」


 孝弘はイルクレアとの距離を縮めると、息を小さく吐いて。


「属性変更。火属性爆発系。トリプルショット!」


「ちょ、これハ流石に――」


 イルクレアを襲ったのはハイチャージ状態の火属性爆発系弾。三発全てがイルクレアの魔法障壁に衝突すると複数の破壊音が孝弘の耳に入った。


(破壊数は四。けど、それだけ壊せれば十分!)


 孝弘の銃撃が命中すると、突撃していったのは大輝の忍。クナイを四本同時に投げるとさらに一枚の魔法障壁破壊音が聞こえた。

 あと一枚。忍が近接攻撃を仕掛けた。孝弘も銃弾を一気に叩き込む為に引き金に指をかけた時だった。

 煙の向こうからイルクレアの声が聞こえたのだ。


「なァんてネ。『重力圧殺』ゥ」


「な!?」


 現れたのは三つの魔法陣。二つは忍に、残り一つは孝弘の直上だった。

 孝弘は咄嗟の判断で魔法障壁一枚を前面展開して足場とし壁を蹴る要領で後ろに下がる。忍も脅威を察知して後ろに退こうとしたのだが遅かった。

 紫色に光る魔法陣から強力な重力場が作られ忍は圧殺されてしまう。孝弘がつい先程までいた場所も地面が激しくへこんでいた。


(うっわ……。あそこにいたら危なかったな……)


「あらあら、あらら。アナタったら凄いノねえ。これを回避しちゃウなんてェ」


 イルクレアが感心した様子で、だが少し焦りも滲ませて言う。どうやら彼女にとってはそれなりの手札だったらしい。

 対して孝弘は舌打ちで返す。アルストルムで六年の経験を積んできた彼だが、目の前の相手は迂闊に近付くと肉塊になりかねないとなると、久しぶりに骨の折れる相手だな。と認識していた。

 だが手を止めるつもりは無かった。一対一となったが孝弘は攻撃の手を緩めず、距離を取りイルクレアの法撃をかわしながら銃撃を続けた。

 再度視点は変わり璃佳達の方へ。

 璃佳達は未だにアレクレア相手に決定的な一撃を与えられないでいた。にも関わらず、璃佳は一つ命令を出す。


「川島少佐、戦友の方に行きな」


「いいんですか?」


「いいから。私と茜だよ」


「はっ。ありがとうございます」


 ごく僅かな間のタイミングで短くやり取りを終えると、影の攻撃の隙を狙って孝弘の方へ向かう。


「あらラァ。数を減らしちゃって大丈夫なノォ?」


「貴様も腕が少し震えているみたいだけどそんなんで戦えるの? 痺れてない? いい医者紹介しようか?」


「御遠慮願うわァ」


「残念。尋問にうってつけな素晴らしい魔法軍医なんだけどね」


「ますますイヤよォ。アナタ達の力は十分に分かっタシぃ、そろそろカタをつけたいのよねェ」


「残念。じゃ、こっちもカードを一枚切るとするよ。茜、一の手を使う」


「ほぅ。では、頂こうとするかのぅ」


 璃佳がニタァと笑い、茜も主と同様の悪い笑みを浮かべたことに、アルクレアは底知れぬナニかを感じる。

 不味い。何か来る。そう判断したアルクレアは影と共に動き多節棍を茜に向けようとする。


「させるかっての」


 しかし、茜の前に璃佳は立ちはだかる。影と本体両方の攻撃を捌き切り、二人を寄せ付けない。

 さらにもう一戟も弾くと、璃佳が。それが合図だった。


「のぅ、白フード。儂の力が真髄をちぃとばかし、味わってみぬか?」


 この時の茜はいつもと違っていた。

 纏う覇気が、魔力の漂いが違う。一種の神々しささえあった。

 彼女の周りは空気が陽炎のように揺らいでいる。まるで神の世に繋がっているのではないかと錯覚してしまうくらいに。

 そして何より、茜の瞳は紅く妖しく、光っていた。


「主より頂きし魔力は美味も美味。故に儂は、契約に従いて己が能力を解き放とう。一人ではなく、一柱としての力の端を。『一の鍵、解錠』」

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