第8話 高円寺アースドラゴンバトル(下)
・・9・・
15時33分
大輝・召喚完了まで2分半
「『無属性弾、六〇パーセントチャージ。
白く輝く三六式特殊魔法拳銃から孝弘は二発の銃弾を発射する。放ったのはこれまでの基準とは全く違う、本気を出した場合の六〇パーセント。しかし六〇パーセントと侮ることなかれ。この割合でも今までのフルチャージショットを大幅に上回る威力だった。
「ゴギャァァァァ!!!!」
(よし、ノーダメージじゃない! 高出力なら通りそうだ。)
頭部に二発の銃弾を受けた地龍はほんの少しではあるが痛そうな素振りを見せ、孝弘を睨みながら吼える。本来の拳銃弾ではダメージなど与えられるはずも無いが、孝弘が放ったのは魔力を伴う銃弾でしかも超高密度の魔力が込められている。それが爆ぜることはすなわち、爆弾を食らうのと等しかった。
「米原少佐を援護しろ! 射線に気をつけ、射撃開始!」
周辺に展開したままの攻撃ヘリ三機が機関砲を連射する。孝弘に向いた視線は再び攻撃ヘリに移るが、直接攻撃が届く範囲ではない。
すると地龍はこれまでの鈍足とは考えられない程の速度で攻撃ヘリに向かい始めた。
『A4《エーヨン》-01《マルヒト》、急上昇! 回避に移る!』
『私を忘れて貰っちゃいけないんじゃないかしら? 『
『対戦車ミサイル隊、ロックオン。小隊統制攻撃、撃てぇ!』
攻撃ヘリに接近する地龍に対して放たれたのは水帆の炎属性魔法と数発の対戦車ミサイル。それらは全弾命中すると、僅かに地龍の身体がよろける。
『A4-02《マルフタ》、ミサイル
『お待たせしました! 練馬から駆けつけましたよ! 小隊統制法撃、放てェェ!!』
続けて攻撃ヘリ一機のミサイルに加え、璃佳が寄越した第二大隊の一個小隊が参上。統制法撃を始める。
いずれも攻撃と法撃が全弾命中。地龍は咆哮を上げる。
『
「ったく硬いったらありゃしないな。なら、試してみるか。『火属性に変更。
友軍部隊が気をそらせている間に地龍の背後を取った孝弘は銃弾を二発発射。
放たれた銃弾は命中するがすぐには爆ぜない。薄い魔法障壁の膜にめり込むんでから、爆発術式が起動した。
『ンギャアアアアアア!!!!』
流石に薄い膜を破ってから爆発するとは思っていなかったのだろうか。地龍はダメージらしいダメージを受けて一際大きい咆哮を辺りに響かせる。
『ダメージ少なれど有効判定』
「よし、効いた! 命中箇所周辺の魔法障壁の破壊を確認!」
『遅延術式ね! 任せなさいな! 『
地龍の視線が再び孝弘に向いた瞬間、有効な攻撃方法を耳にした水帆はあっという間に術式を完成させ射出。火属性爆発系の槍が地龍に襲いかかる。前右脚に全弾命中を受けた地龍はバランスを崩して転倒する。
「よくやった水帆! いい加減鱗を剥がしてやる! 『
孝弘が通常より長いチャージタイムで放った銃弾の魔法出力は九〇パーセント。三六式は高出力をものともせず、役目を果たして射撃が行われる。
『ギャアオオオオオオ!!!!』
腹部に一発の高出力爆発弾を受けた地龍は初めて出血。十分なダメージが与えられる。
だが、逆鱗に触れたのだろう。地龍は痛みに耐えたまま孝弘に口部を向けるとほぼノータイムで光線が放たれる。
「あっぶなっっ!?!?」
孝弘はフェアルの急機動で回避するが光線が魔法障壁を掠り、一〇枚展開していたうちの四枚が容易く破壊される。
(冗談きついな。
孝弘の頬に汗が伝う。回避行動をとる間もなくエンザリアCTクラスの光線は甚だしい脅威だ。改めて地龍の厄介さを彼は肌で感じた。
『キャスター4からキャスター1へ。キャスター3の詠唱完了まであと一分切ったよ!』
『キャスター1からキャスター4了解! もう少しの間なんとかする!』
対戦車ミサイルや機関砲の攻撃を受けてもなお地龍は気にもしない様子で体勢を整えていく。
地龍一体でも厄介極まりないが、地上の部隊は突撃してくるCTの対処もしなければならない。
だがしかし、それだけでは敵は終わらせてくれなかった。
『警告、エンザリア型を探知。数、一五。重ねて警告、高出力魔力反応探知。発車まで五秒』
「五秒だって!」
このタイミングで多数のエンザリアCTの出現。幾つもの射線に入っていた孝弘は緊急回避行動を取らざるを得なくなる。
それは攻撃ヘリや付近展開の無人機にも言えるのだが。
『警告、エンザリア型発射、今』
エンザリアCTの数の分だけ光線が空に放たれる。
『クソッタレ!! A4-02、ティルトローター部に直撃!! 操縦困難!! 墜落する!!』
『A4-03、同じく後部に直撃!! ちっくしょぉぉぉぉ!!』
回避行動を取ったものの間に合わなかった二機の攻撃ヘリは機体前方の直撃こそ免れたものの後方に直撃を受けてしまう。
バランスが大きく崩れた攻撃ヘリは墜落していく。同じく直撃を受けた数機の無人機も爆発するか墜落していった。
『02、03応答しろ!! クソッ、クソッタレ!!』
『警告。エンザリア型、充填から再発射行動へ』
『させるわけないでしょ。このバケモノ共が』
普段よりずっと低い声で言ったのは知花だった。目の前で人が死ぬのは慣れている。それでも助けられる人を助けたいのが知花の優しさ。彼女が抱いている怒りは、自身の法撃が間に合わなかった、自分への怒りでもあった。
絶対、間に合わせる。
彼女は凄まじいスピードでエンザリア型CT全ての位置を割り出すとロックオン。
「神の怒りをここに。私は神の代行者。主の怒りを、私は放つ。『
知花が上空に創り出した白い白い魔法陣から一〇〇近い光属性の光線が飛んでいく。行く先は一五のエンザリアCT。一体辺り数発のオーバーキルとも言える法撃はたった数秒で、出現した全てのエンザリアCTを撃滅させたのだった。
(相変わらず知花はおっかないな……。墜落したヘリパイ達は……、良かった。重体判定もいるし全員怪我はしているけど生きてる)
孝弘は賢者の瞳の共有画面でヘリパイロット達が死んでいないことに胸を撫で下ろすと、すぐに視点を地龍に向けた。
「ギャオオオオォォォ!!!!」
「耳障りだな……。まずはその巨体を動かなくしてやる。『出力一〇〇パーセント。火属性爆発系、フルパワーショット』」
孝弘が地龍の右前脚に向けて放った銃弾は正真正銘のフル出力。地龍は直撃弾を受けると命中箇所は大きく出血。
地龍は叫び声を上げるがすぐに立て直すが、今度は顔面に直撃弾を受ける。
大きく体勢を崩した地龍はしかし、左前脚で踏みとどまり孝弘を睨む。さらに口を開けた。
(来る!!)
孝弘が回避行動に移ろうとしていた時だった。
『待たせたな!! 召喚完了したぜ!! 出でよ、『
魔法陣が現れた場所。地龍の目の前に現れたのは、全長二五メートルを越える巨体。重厚な甲冑を身に纏い、腰には大太刀が収まる鞘をこしらえていた。見た者をたじろがせるほどの覇気を放つ土人形だった。
ゴーレムジェネラルは出現した直後、主の命に応えるが如く、地龍を殴り飛ばした。
孝弘達四人を除きこの場にいた全員が信じられない光景を目にする。殴り飛ばされた巨体の地龍が宙に舞ったのだ。
『もういっちょおぉぉ!!』
土人形将軍は地響きを立てて走るとまだ地についていない地龍にもう一発。フルスイングのパンチをお見舞する。その景色はさながら特撮映画の巨大ロボが敵をぶっ飛ばすようなものだった。
『ィギャアアアアァァァ!!!!』
『まだまだぁ!!』
地龍は地面に激突し、複数の雑居ビルを圧壊させる。だがそれで終わらない。終わるわけが無い。土人形将軍はドシン、ドシンと大きな音を立てながら走り、地に倒れた地龍の傍まで辿り着く。
この状況を無人攻撃機のカメラ越しに目にしていた操縦士はこう言ったらしい。
「これが現実か目を疑ったよ。甲冑の巨大ゴーレムが自分よりデカい地龍を持ち上げて投げ飛ばしたんだぜ? しかも一本背負いで」
操縦士が現実なのかと思ってしまうのも無理はない。魔法があるこの世界とはいえ、全長二五メートル越えのゴーレムが体長約四〇メートルに迫る地龍を柔道の一本背負いのように投げる。映画のCG以外では見たこともない光景がそこに実際に起きていたのだから。
「やっぱド迫力だな。あの時も相手は地龍だったっけか」
孝弘は無線をこの時だけは切って独りごちる。そしてこうも思った。
もう俺の出番は無いな。と。
『終いにしてやれ、土人形将軍!!』
大輝の命令を受けた土人形将軍は頷くと、大太刀を鞘から抜く。
そして呻き声を上げて立ち上がれない地龍の頭部めがけて、一刀両断に振り下ろした。
舞う血しぶき。切断される地龍の頭部。
『地龍、沈黙。死亡、消失を確認』
賢者の瞳の無機質の音声など無くても誰もが理解出来た。
『地龍、討伐完了ッッ!!』
大輝の宣言の直後、大歓声が巻き起こった。
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