第6話 高円寺まで到達するも、現れるは新たなアンノウン

 ・・7・・

 12月4日

 午後2時40分

 東京都杉並区高円寺付近


『所沢方面より立川HQ。朝霞に到達。引き続き埼玉大宮方面へ前進を続ける』


『鎌倉方面より小田原HQ。戸塚方面の部隊と港南台にて合流。磯子方面に前進する』


『青葉台方面より小田原HQ。新百合ヶ丘方面の部隊とあざみ野にて合流。鷺沼、溝の口方面へ前進する』


『調布方面より立川HQ。登戸まで到達。溝の口方面にて友軍と合流する』


『第一特務連隊セブンスより立川HQ。陸軍、海兵隊等と共に高円寺西近郊に到達。敵の密度がさらに増加。前進速度が低下する可能性あり。さらなる機甲部隊の増援求む』


『立川HQよりセブンス了解。燃料弾薬補給の完了した戦車中隊一個を向かわせる。他戦区においても敵密度増加の報告が相次いでいる為、Sランク能力者が集まる戦区にこれ以上の増援は難しい』


『セブンス了解。増援感謝する。終わり』


『反撃の剣』作戦第三段階が始まって約三時間半が経過した。

 第三段階が始まった瞬間から、東京都心部に向かう日本軍は大戦始まって以来の最大火力を持って前進。害虫を駆除する殺虫剤を散布するが如くあらゆる火力が投射され、各戦域では概ね六キロから一〇キロの前進を達成していた。

 孝弘達や璃佳達のいる吉祥寺を始点とする部隊も約七キロ前進し高円寺西近郊まで到達。まずまずの戦果を得られていた。

 しかし、都心部に近づくにつれてCTの密度は大幅に増加している。それが証拠に、道中にあったマジックジャミング装置を破壊した瞬間表示されていたのはおびただしい赤色の点。すなわちCTや神聖帝国軍等を表すマークがレーダーに出されていた。集合体恐怖症の者なら寒気を感じるレベルである。

 孝弘達はこの表示にため息をつきながらも徐々に大きく見えてくる新宿のビル群を励みに攻撃を続行していた。


『セブンスよりキャスター1から4へ。高円寺駅付近環七を境にした地点を確保の後、小休止を。戦車部隊やキドセン部隊が前面を耕してくれたお陰で一旦CTの数が減っている。後方より増援に来てくれる戦車中隊の到着まで多少の余裕があるからね。都心突入に備えて君達は不可欠。魔力回復薬も飲用しておいて』


『キャスター1《孝弘》よりセブンス。了解しました。拠点確保の後、一旦小休止します。戦車中隊到着はいつ頃になりますか?』


『セブンスよりキャスター1。現時刻は一四四六ヒトヨンヨンロクで、戦車中隊の到着予定時刻は一五二〇ヒトゴーフタマル。レーダーを見る限りだとあと五分もすれば確保出来そうな感じだけど、どう?』


『キャスター1よりセブンス。たった今、バタリオンリーダー1と海兵隊部隊が共同で確保。戦車部隊とキドセン部隊が二キロ先のCTに火力投射中。キャスター4《知花》、周辺の敵の様子は?』


『キャスター4よりセブンス。当戦区におけるCTの数は減少。一旦落ち着きそうです。海兵隊部隊及び第一特務第一大隊が奪還域を広め、高円寺付近を一時拠点になるよう構築中。陸軍も同行し、周辺にあるマジックジャミング装置破壊に向かっています』


『キャスター4よりセブンス。了解。それなら君達が休む余裕はあるね。いくらSとはいえ人間だ。大黒柱だからこそ休んで欲しい』


『キャスター1よりセブンス。ありがとうございます。小休止しつつ、中野及び東中野方面への進出に備えて打ち合わせをしておきます。そちらはどうですか?』


『セブンスよりキャスター1。そっちより余裕が少ない練馬方面もだいぶ落ち着いてきた。東中野方面で合流出来ると思う。そっからは新宿だしね』


『キャスター1よりセブンス。了解しました。お気をつけて』


『セブンスよりキャスター1。そっちもね。通信終わり』


 孝弘は璃佳との無線通信を終えると三人に、


「一五二〇まで小休止にしよう。七条大佐の言うように朝からほぼぶっ通しで戦闘になってるし、都心方面に到達すればいつ休めるかも分からない。一息ついておこう」


「そうね。魔力残量は問題ないけど、照準固定ロックオンでちょっと目が疲れたわ」


「オレもゴーレムの操作で休みたいとこだったからちょうど良かったぜ」


「わたしも……。情報管制は頭を使うから、少し疲れたかな」


 四人は座るのにちょうどいい場所を見つけ、そこで小休憩をすることにした。数百メートル先は味方と敵の境界面で今も銃撃音に砲声が聞こえており、今も機動戦闘車が一両通っていった――車長が孝弘達に手を振り、孝弘達は手を振り返していた――が周りは味方の兵士ばかり。少しは安心して息がつける場所だった。

 とはいえ、街にあるベンチで寛ぐようなことまでは出来ない。四人とも昨今の研究成果で美味しく飲めるようになっている魔力回復薬を口に含み、ふぅ、と呼吸を整えるくらいだった。


「作戦開始からたったの四時間足らずで約七キロの前進ってめちゃくちゃ進んだよな」


「うん。重火力部隊の火力投入量は作戦開始前の二倍以上で、空はひっきりなしに戦闘機とヘリとフェアル部隊もいるからね。エンザリア型もここだけで八体出たけど、対処法が確立してきてるしすぐに倒せてる。そのうち三体は水帆さんだからまさに瞬殺だったけど」


「行動パターンが読めてるだけよ。CTって割と動きが単調だもの。エンザリア型は多少複雑だけど、生身を相手するよりずっとマシね」


「それは間違いないな。数で押すのがCTの特徴だから最も厄介だけど、それ以上の火力で潰すのが今回の作戦。対CT弾装備の部隊がいるのもデカいけどさ」


 ここまでの戦闘を振り返る孝弘達が言うように、情報が即時共有されあらゆる敵の対処パターンが構築されているからこそ各部隊はCTの数に押し負けずに戦えている。対CT弾も役立っており、密度がさらに増した高円寺付近でも海兵隊は難なく戦えていた。

 ただし孝弘達にせよ現場の将兵にせよ不安に感じている事が一点ある。ここまで都心に近づいたにも関わらず神聖帝国軍の姿はあまり無かったのだ。中隊規模、大隊規模との接触は確認されているが旅団規模や師団規模の報告は皆無。都心部における敵の兵力がマジックジャミング装置によってほぼ見えていないだけに、心配になるのは仕方の無いことだった。

 孝弘達はその点も踏まえた上でこれからの方針について話し合いをしていく。


「さっきも七条大佐と通信で話していたけど、練馬方面にいる第一特務の部隊とは東中野で合流予定。ここまで進むと西新宿のビル群や新宿駅方面はもう目と鼻の先で、いよいよ神聖帝国軍の本拠地の一つに入る事になる。今もそうだけど、本格的な市街戦になるだろうね。しかも時間的に、夜戦の可能性が高い」


「夜戦ねえ。視界も悪くなるからあんまり気が進まないんだけど、四の五の言っていられないかぁ。ま、でも条件はあっち《神聖帝国軍》も同じよね。むしろこっちが夜間用装備を全員が持ってる分有利かも」


「ああ。ただ新宿は地下街もあれば地下鉄構内もあるし、路地も無数に存在するから遭遇戦には注意が必要だな。CTだけじゃなく神聖帝国軍もいるだろうし、細心の注意は必要だろう」


「となると、オレたち魔法障壁が使える魔法兵科はともかく、一般兵科は戦車部隊や装甲車と同行が安全だろうな。ていうか、オレたちが盾役か。オレなんてその最たる役目だしな」


「戻ってきてからずっと思ってるけど、相手が何世代も遅れた兵器持ちだと大変よね……。現代軍相手だったらまず魔法兵科が前面なんて有り得ないもの。魔法だけは神聖帝国も私達と同じくらいだから輪にかけて今の戦い方になっちゃうんでしょうけど」


 水帆は魔力回復薬を飲みきって一息ついてから言う。今でこそ神聖帝国軍やCT相手の戦い方がはっきりしているからいいのだが、大戦初期は前時代的な敵を相手にしていたからこその苦労も沢山あったと彼らは璃佳から聞いている。魔法障壁を持ち火力も能力次第では一般兵科を遥かに超える魔法軍兵は良く言えば重宝され、悪く言えば使い倒されているのだ。璃佳がしきりに休める時に休めというのは何も都心方面にもうすぐ到達するからだけでは無いのである。


「何にしても都心に入れば気は張りっぱなしだ。互いに死角を作らないようにしていこう」


「ええ。あと魔力回復薬の残数確認も忘れずに、ね」


「だな」


「うん。情報管制と一緒に皆の魔力残量や魔力回復薬残数も管理しておくね」


 一通り打ち合わせを終えた孝弘達は各々の装備確認をしつつ、増援の戦車一個中隊があと三分程度で到着する連絡が耳に入る。

 そろそろ小休止も終わりか。と若干名残惜しく思っていた時だった。


『立川HQより緊急通報! 無人偵察機がアンノウン出現を確認! 距離約四〇〇〇! 各員に向け映像を共有する!』


「アンノウンだって?」


「東京に来て何度目よ全く……」


 孝弘は眉間に皺を寄せ、水帆は辟易とした表情をする。彼女の愚痴じみた発言も分からんでもない。何度もアンノウンの単語を四人は聞いてきたからだ。

 しかし、その余裕も共有された映像を見たことで消えることになる。

 無人偵察機から送られてきた映像。それは。


「おいおいウソだろ。ここは狩りゲームの世界じゃないんだぜ……?」


 大輝が愕然とした映像に映し出されたモノ。

 そこにいたのは、まるで怪獣映画やゲームで登場する難敵のような存在。いや、そのものとも言うべきか。

 地球世界の創作物で例えるのならば地龍と呼ばれるモノが、孝弘達のいる方へ向かっていたのである。

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