第17話 地下壕にいたのは
※段落一字下げ処理が未了だったので修正しました。(2021/01/31)
・・17・・
認識阻害魔法が解けて現れたのは地下壕の出入り口のような穴。高さは二メートル程度。幅は人がすれ違っても余裕を持って歩けるくらいだろうか。認識阻害が解除されても人が出てくる様子は無かった。
「知花、探知の方はどうだ?」
「うーん……、ジャミングが酷くて見分けるのに苦労しそう。中も探りにくいね……。とりあえず分かるのは、深さは最深部で一五メートル程度かな」
「ビル五階分程度の深さか……。結構あるな……。トラップはどうだ?」
「トラップは中に入ってみないと分からないかな……。この規模を崩落させる何かがあるのならなんとか探知出来るけど、それが無いってことは大規模トラップの心配は無いと思うよ」
「ま、入ってみなきゃ分かんないってやつだねえ。ここを崩落させようとしても私達ならどうとでもなるよ。君達もそうでしょ?」
「ええ。魔法障壁を展開するなり方法はいくつか」
「なら行こー。ただ何も使わないのは無策になるし、茜」
「うむ」
孝弘達はあれこれと対策を話しながら地下壕の中に入っていく。
恐らく敵側が使用していた時には照明が灯されていたのだろうが、今はついていない。そこで茜は術式を詠唱。狐火を幾つか出した。
「こうすれば明るいじゃろ。二つあれば十分に視界は確保出来るからの。残りは探索に充てようかの」
茜は指をクイクイと動かすと、狐火達は地下壕の先に進んでいった。
茜が狐火を出したことで地下壕の中はかなり明るくなった。今のところ敵が現れる気配は無い。
「どう、茜」
「随分と大きい地下壕の割に人の気配が無いのう。璃佳よ、儂が探知した情報を思念で送るゆえ、皆に共有せい」
「おっけー」
「すごい……、これならジャミングがあってもだいぶ分かりやすくなる」
茜が璃佳を経由して送ったのは狐火を介して得ている地下壕内の通路と様子だった。マジックジャミングで魔法探知が出来なかったが、これなら地下壕の全容が掴めると喜んでいた。
「この大きさの地下壕にたった一〇〇人ちょっといるのは不自然な気もするけど、ああでも横幅があんまり無いんだ……。縦幅で補ってるのかな。そもそもさっき五〇人は倒したから、ここに居るのは何人だろ……」
「私達以外に『理性のある敵』に接触の確認は無いから少なくとも三〇人くらいはいると思うんだけどねえ。もしかして立てこもってる?」
「どうでしょう……。だとすると、まだ探知出来てない先。下層の方にいることになりますが……」
「だよね、関少佐。となると考えられるのは二つ。下層で待ち受けているか、 脱出経路があるか」
「情報が乏しすぎて判断に迷うのう。まあ良い。狐火は動かし続けるかの」
「よろしく、茜」
「んむ」
彼等が地下壕に入って既に五分が経過しているが、人っ子一人出てこない。それどころか生き物すらいない。人がすれ違って歩ける位には広い地下壕なら小型CTがいてもおかしくないにも関わらずだ。
途中、倉庫になっている部屋を見つけたが、そこにあったのは乾パンのような糧食と缶詰があるくらいでつまりは食糧庫。ただし缶詰の仕様が数十年前の古いタイプである点と、地球言語では無い文字で書かれた印字だった点は敵を知る上で収穫と言えるだろう。
それからも彼等は人とは合わなかった。
遂には。
「探知が九割完了じゃ。残すは最下層のみじゃの」
「そこが最後だね。敵がいるなら捕虜にしたいけど、あくまで理想なのは変更無しで」
『了解』
璃佳の言葉に孝弘と知花は頷く。
「ふうむ、当たりじゃな。誰かおるようじゃ。数は少ないの。五、六人かの? こちらには気付いておらぬ」
「ありがと茜。米原少佐、関少佐。警戒は最大限に。米原少佐は取り回しのしやすい自動拳銃だから、任せたよ」
「七条大佐はどうされますか?」
「デスサイズは使えないからこれでいくよ」
璃佳は閉所戦闘用に魔法効果を付与できる魔法短剣を二つ持っている。今回はそれを使うらしい。
「関少佐は補助を頼むね。戦い方は任せるけど」
「了解しました。ゼロ距離戦闘も米原くんほどではないですが経験はありますので、敵が余程強くなければ戦えます。魔法も閉所用のなら幾つもあります」
「頼もしいね。茜はいつも通りで」
「儂の判断で動くから構わぬ。……む、敵が減ったのじゃが、これは仲間割れかの」
「えぇ……。急がなきゃいけないじゃない」
既に対象の位置は割れている。孝弘達は走って対象のいる場所へと向かった。
何やら喚く声が聞こえてくる。内容は聞き取れない。
「反応が四、三、二、減ってるよ……!」
「まずいな……」
小さな声で孝弘と知花は言う。
孝弘は魔法拳銃二丁をいつでも撃てるようにし、知花は閉所戦闘用の呪文の準備詠唱をし、璃佳はツインダガーを構え、茜は展開していた狐火を集合させすぐに戦える態勢を整えた。
視線の先に灯りが見えた。今までに比べてやや広い出入口だ。
璃佳がハンドサインで突入のカウントダウンを始める。
三、二、一、ゼロ。
孝弘達は出入口に到達し、武器を人がいるであろう場所に向けた。
「手を上げろ!! 抵抗す――」
璃佳が大声で警告を送るも途中で言葉が途絶える。
それもそのはず。彼等の視線の先にいたのは、二〇メートル四方の部屋に立っていたのは一人だけ。白基調で華美な装飾が施されたローブに身を包んだ人物だった。
周りにいたのはこちらも白色の服装だが装飾等から見るに軍人であろう者達。捕虜の軍服は黒だったがこちらは白。ただし、一人残らず死んでいた。周りには様々な書類が散乱しており、古めかしく大きい機械も幾つかあった。地球換算で数十年前のシロモノ。
故に、もっと時代錯誤なローブの人物はこの部屋の中で明らかに場違いと言えていた。
「役たタズの属コク人め……。転がっテルクソどもにしてモそうダ。もう入りコマれたカ」
ローブの人物はため息をついて悪態を付いていた。言語解析が先程までリアルタイムで進んでいたから発言もかなり聞き取りやすくなっていることで、大体何を言っているのかは孝弘達も分かった。声は男。中年くらいか。随分と尊大な言い回しだった。
「手を上げろ!! 抵抗するなよ!! 抵抗すれば撃つ!!」
「撃ツ……? アア、殺されルって事カ。いや待てヨ、お前達、小サイ女、ワタシの言葉ガ分かるノカ……?」
「それがどうした。人類なめんな」
「ホウ。ニホンとやらは手こズルやもしれンと陛下が仰ってオラレたというのはこのコトか」
「ガタガタうるさい、とっとと手を上げろ」
璃佳はローブの人物を睨みながら口汚く命じる。
「これデ良いカナ?」
ローブの人物は両手を上げる。意味を分かってというより、言われたままにといった様子だった。
「壁に向かえ。壁についたらそのままにしろ」
「捕縛するノカ……? 辞メタ方がいいゾ」
「黙ってろ。茜」
「承知。拘束術式、『縛縄』」
「抵抗発動。送リ返セ」
「ぬっ?! 反転術式『
「ホウ、返しヲ返スカ」
「致し方なしだ、米原少佐」
「
茜の拘束術式を跳ね返した時点で只者では無いと判断した璃佳はすぐさま孝弘に命じて、孝弘は予め用意していた風魔法付与をしていた二丁拳銃の弾丸をフルバーストした。
「防壁多重展開。守レ」
「なっ!?」
閉所だからと威力は控えていたが、一度に一〇枚も展開された魔法障壁に阻まれる。八枚までは割れたが、二枚残ってしまった。
カウンターだけならともかく、僅かな間で魔法障壁を多重展開出来る能力者は限られる。全員がこの時点で厄介な相手と認識を改めていた。
「クソッ、推定A+か。手は抜けないね。 ならッッ!!」
飛び出したのは璃佳だった。ツインダガーを構え、瞬時に距離を詰める。
「らァァァ!!」
「貴様ラは興味深いガ、ワタシにハ荷が重スギル相手ダ。コレハ希少デ使いタクナいが仕方ない。悪いが失礼スル。――光ヨ、眩マセ」
「くぅ!
ローブの人物は寸前に迫った璃佳に対して平然とした様子でフラッシュの魔法を使う。閃光手榴弾並の光を発したことで、璃佳は眩しさで視界を奪われ暫く見えなくなるのを防ぐため、やむなくレジストを行う。璃佳の支援法撃をしようとしていた知花は詠唱キャンセルをしてレジストへ切り替え。孝弘や茜もレジストに移った。
十数秒後、視界が元に戻った時には謎のローブ男の姿はまるで最初からいなかったかのように消えてしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます