第2話 事態急変と四人の答え
・・2・・
10月1日
午前8時半過ぎ
司令部のあるショッピングモール
四人に手配された区画
翌朝、一番遅くまで起きていた孝弘も含めて良く寝られたようで外の状況を除けば気分よく起床することが出来た。アルストルムの戦争で時に厳しい展開も強いられていた四人にとって、屋根もあれば布団もあり温かい食事まで出るのだからここは最高の寝床だったからである。
起きてから四人は手配された朝食を摂った。軍の糧食だが、彼等がいるのが司令部でフードコートの設備をそのまま使えていることもあって温食だった。
食事を終えて一息ついていた午前八時半過ぎ。急に周りが騒がしくなり軍人があっちこっちにと移動していた。
この変化に、当然四人は気付く。これは悪いことが起きたな、と。
四人が異変に気づいてから割と直ぐに、彼等がいる区画に人がやってきた。翔吾だった。
「朝っぱらからごめん! CTのヤツら、西への侵攻を再開したんだ! 古川少将が四人を呼んでる。大方昨日の事だろうけど、付いてきてくれるかい?」
「だと思った。案内頼む」
「了解した!」
翔吾の案内で四人は区画を出て古川少将のいる場所へ向かう。今少将は事態変化の為に中央司令室にいるらしい。
ただ、四人はまだ民間人の扱いであるから中央司令室には入れない。その手前にある控え室で待って欲しいと翔吾は言っていたがこれは当然の事だろう。中央司令室は機密の塊だからだ。
中央司令室の手前にある控え室には数分も経たずに到着した。
孝弘達が椅子に座ると翔吾は、
「こんな状況だから古川少将がこの部屋に来て頂けるまで少し時間がかかるかもしれない。すまないけど、それだけは承知してくれるかい?」
「分かったわ。直ぐには来れないのは仕方ないもの」
「助かるよ高崎さん。じゃあ、古川少将に伝えてくる!」
翔吾が部屋を後にすると、四人はふう、と息をつく。
それから最初に口を開いたのは知花だった。
「帰還した当日にこれからどうするか聞かれて、翌日にはあのバケモノの大群が押し寄せるなんて、わたし達もしかしたらちょっとツイてないかも……?」
「全くだよな。バケモノ連中も二日や三日くらい待ってくれてもいいのによ。って、無理な事だと思ってても愚痴りたくなるぜ」
知花が苦笑いして言うと、大輝は同意して言う。
「ま、私達はあっちでこんな展開は散々あったから慣れっこだけれども、これが映画やドラマだったらまさに急転直下よね」
「水帆ちゃん、映画やドラマだったらわたし達は今頃ハッピーエンドだよ……。普通は平和に暮らしました。めでたしめでたしだから……」
「あっ……、そうよねぇ……。昨日もずっと思ってたけど、現実の厳しさったらもう……」
おどけて二人が会話するものだから思わず吹き出してしまったのは孝弘だ。
「残念ながらここは現実だからな。平和に暮らせるかと思いきや、故郷は世界規模の戦争の真っ最中。俺達もただの一般人なら良かったけれど、あの六年でどう考えても軍人側の思想に染まってる。おまけにこの世界でも強すぎる力付きでさ。だったらどうするかってのは、皆で話し合ったわけだし」
「そうね。あーあー、私は帰還したら孝弘と結婚式を挙げるつもりだったのにー」
「わたしも。大輝くんとの結婚式、こうなっちゃったらいつになるんだろ……」
「時間を見つけて、規模はともかくどっかでやるさ。それは約束するぜ、知花」
「大輝くん……」
「ちょっと孝弘。二人がクソ甘空間なんだけど」
「いつものだろ。あっちで慣れたんじゃないのか?」
「慣れたけどさあ……。まあいいわ。私も楽しみにしてる。結婚式」
「もちろん」
この四人、状況が切迫している割にはしっかり将来の事を考えてるあたり肝が据わり過ぎていた。
ただ、このような甘い空間も長くは続かない。部屋の向こうから誰かが来そうな音がした。自ずと四人の背筋は引き締まり、雰囲気も緊張したものに戻る。
控え室に入ってきたのは古川少将と福地少尉だった。
四人は起立しようとすると、古川少将は手でそのままでジェスチャーをする。
「待たせてすまなかったな」
「いえ、大丈夫です。古川少将閣下もお忙しいところありがとうございます。どうやら事態が良くない方に転んでいるようで」
「ああ、その通りだ孝弘さん。本当は今から聞く話もゆっくりするつもりだったんだが、状況がそれを許してくれなくなってしまった」
古川少将の半ば愚痴めいた言葉に、孝弘は戦況の急変によって軍自体が芳しく無いことになっている点を暗に察する。
「早速で悪いが、昨日の話の答えを聞きたい。君達四人は、我々に力を貸してくれるか?」
東から迫る敵がいる事もあるのか、はたまたこの状況で四人が力を貸してくれないと答えたら。という不安があるのだろうか。古川少将の額には冷や汗が一筋ついていた。
果たして、四人の答えは。
代表して、孝弘が言った。
「私達はこの世界を守る為に、杖を銃を手に取って戦います。これが私達四人の答えです」
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