第11話 四人の魔力と古川少将の依頼
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古川少将から発せられた『帰還者』という単語に
孝弘達は強く反応を示した。
宇宙の中に地球に類似する環境の惑星がある可能性がゼロではないように、異世界に転生ないし転移者が存在していて彼等が元の世界に帰還した可能性もゼロではない。現に孝弘達が帰還しているからだ。
(『帰還組』か……。古川少将の口振りからして、俺達以外に異世界からの帰還者がいるのは確定っぽいな。嘘をつくにしては意味が薄いし、そもそも異世界から侵略者が来ている時点でいてもおかしくは無い。問題は俺達が今日帰還してバケモノであるCTと戦闘してからまだそんなに経っていないのに、俺達の事を『帰還組』かどうか聞いてきたことだな……。まあでも、これについては俺達の大学時代の資料があれば報告との差は判明するのか……)
「…………違ったのならすまない。だが、行方不明から六年も経過して綺麗な格好な上に身体の健康状態が良いのは普通はありえない。神隠しか、異世界に飛んでいないとありえないわけだが」
「あぁ、すみません。何といえばいいのかと思っておりまして」
孝弘が思考の海にしばらく潜っており返答出来なかった事を詫びると、古川少将は構わない。混乱するのも仕方ない。と返す。
孝弘は三人を見回すと、頷く。話して良さそうだった。
「古川さんが仰るように、私達は『帰還者』と呼ばれる類です。本当なら、自分達はあの事故で死んでいたはずでした。しかし、そうはならなかった。異世界にに転移しました」
「やはりか」
「どうやって判断したのか、気にはなりますが。なので、貴方達軍が私達の事を聞きたいのならば、私達にも気になることや聞きたいことがあるので話してください」
孝弘は古川少将に対してきっぱり言う。福地少尉はやや驚き、翔吾は目を見開いていた。二人にとって古川少将は雲の上の存在だ。にも関わらず孝弘は取引を持ちかけた。大学時代を知る翔吾はその変わりよう――将官を前にして動じないことなど――にさぞ驚愕したであろう。最も、六年も戦場に身を費やし、初手でアルストルム世界の重鎮達と話すような経験をしたと知れば納得するだろうが。
古川少将は少し間を置いたが、すぐに返答する。
「分かった。引き換え条件というわけだな」
「はい。タダではお渡しできません」
「『帰還者』という者はどうにも度胸のある者ばかりで驚かされる。まあ、話を聞くうちにそうもなるかと感じたが。あぁ、先に言っておくが他の『帰還者』には自分達以外の帰還者がいることは伝えている」
「分かりました」
孝弘達は首を縦に振る。
「では、改めて聞こうか。君達帰還者が経験した事を、どんな道を歩んで帰ってきたのか」
それから孝弘達は自分達が歩んだ六年間を話した。
ただし、全ては話さなかった。故郷の軍とはいえ、相手を完全に信用したわけではないからだ。
異世界に転移させられ、征服をせんとする帝国に対して六年間戦ったこと。
苦難に満ちていたが、四人の誰も欠けず勝利したこと。
最初からの約束で帰還することになっていたから、今日帰ってきたこと。
そうしたら今度は故郷がこの有様だったこと。
かなり簡潔ではあるが、要点だけを話していった。
「皆に、そんなことがあったなんて……。せっかく帰ってきたら今度は世界がこのザマ……。そりゃびっくりもするよね……」
「断片を聞いただけでも、お辛い経験を何度もされたんでしょう……。私にはこれしか言えませんが、おかえりなさい。でも、今世界は、日本はお話した状況なんです……」
壮絶な六年間を聞いた翔吾と福地少尉は言葉を失い、やっと出せたのが今言ったことだった。
古川少将も、話を聞くうちに表情を変えて同情的な視線を送っていた。
「…………そうか、君らは戦う方だったか。今の話を聞くだけでも激戦続きであっただろう。軍人として、戦い抜いた君達へ敬意を評したい」
すると、古川少将は四人へ敬礼した。本来ならば民間人への敬礼などありえないが、古川少将は四人をこの時だけは同じ軍人として扱った上で気持ちを示したかったのだろう。翔吾や福地少尉も慌てて敬礼した。
四人はというと手馴れたもので、アルストルムの王国方式ではなく日本軍方式で答礼した。
それから古川少将は再び話し始める。
「『帰還者』については二タイプある。両方とも事例は当然少ないが、内政に携わった者。それから君達のような戦いに身を投じた者だ。戦闘を経験したのなら、報告書の内容も納得だ。余裕を持って戦えたのも頷ける」
「数は多かったですが、統率の無いバケモノ相手でしたから。あれが一個大隊の軍隊となると違ったかと」
「だとしても、だ。――さて、話は変わるが君達の魔力を計測させてくれないか。これについては『帰還者』全員に行っている。検査だと思ってくれ」
「ま、そうなるわな」
「私達が転移前に比べて色々変わったのは、自分達が一番自覚しているものね」
「具体的な数値は分からないけど、結果は読めてるかなあ」
「俺もだ。詳しい数値こそ分からないけども、気になるな。アルストルムでも計っていたけれど、一回か二回だけだったし。――というわけで、全員同意です。お願いします」
「協力感謝する。福地少尉」
「はっ。ここに計測機器があります。皆さん魔法能力者ですから、計測方法はご存知だと思います」
テーブルに出されたのは四人にとって馴染み深い魔力計測機器だった。PCに接続された魔力計測機器に手を置けば魔力を計ってくれるもので、高校や大学では年に一回は計測が義務付けられている。だから四人にとっては何度も見ていた。
「俺からやるよ。あとの順番はどうする?」
「次は私ね」
「んじゃその次はオレだ」
「最後はわたしかな」
「では、まずは孝弘さんからお願いします」
孝弘から始まり、三人も計測をしていくが、古川少将は目を大きく開き、福地少尉と翔吾は四人の計測結果にひどく驚愕した。
四人の魔力は以下のようだったからだ。
【四人の魔力計測結果】
孝弘:12107(S相当)
水帆:14077(S相当)
大輝:11980(S相当)
知花:13360(S相当)
※参考・日本魔法省能力者ランク魔力目安
・S:10000以上
・A+:8000〜9999
・A:6000〜7999
・A-:4000〜5999
・B:2000〜3999
・C:1000〜1999
・D:〜999
※飛行魔法部隊採用基準はBランク
※魔法軍某精鋭部隊下限はAー。
※Sランクホルダーは日本で13人。
※日本魔法軍最高魔力保持者は16750。
参考にもあるように、四人全員が文句無しのSランク相当だった。日本に僅か一三人しかいないSランクに、彼等は該当したのである。ちなみに転移前の四人のランクは水帆を除いてCランク。水帆でBランクであった。
「全員S!?!? しかも高崎さんに至ってはSランク六位相当だって!?!?」
「こんな数値初めて見ました……。畏れながら古川少将閣下、『帰還者』は皆こうなのですか……?」
「全員ではないがな。魔法能力者では無い者が魔法能力者になって帰還した事例がある。また、魔法能力者は戦闘経験があるとかなり魔力が上がっているな。だとしても、この数値には驚いたが……」
「…………まぁ、六年で色々と、ね」
「色々、としか言えねえな……」
「うん、色々……」
「そういうことなんだ、翔吾。転移した上で六年戦ってたらこうなった」
「いやいやならないって!! 普通ありえないって!! なんなのさ四人揃って五桁って!!」
「豊川中尉。旧友がとんでもなく化けて帰ってきて顎が外れかねないのは十二分に理解するが、落ち着きたまえ。私も落ち着かねばならんが」
「し、失礼しました……!」
「構わん。これで冷静にいられる者の方がどうかしている。ああ君ら当事者は別だぞ」
古川少将がこめかみに指を当てながら言うと、四人は苦笑いする。
やや経って、気を取り直した古川少将は表情を引き締めた。四人はこの時点で何かを察する。
「君達の魔力が分かったことで、なおさら提案せねばならなくなった。今から話すことは無茶も承知だ。断られる覚悟もしている。だが、聞いて欲しい」
「分かりました。まずは、聞くだけなら」
「感謝する。――君達四人へ、これはお願いだ。自分は頭を下げるつもりでいる。君達の能力を見越してだ。どうか、魔法軍に入りこの国を、この世界を救ってくれないだろうか」
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