異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

プロローグ ハッピーエンドは夢幻と消えて

 ・・Φ・・

 四人の眼前に広がるのは、彼等が待ち望んでいた姿とはかけ離れたものだった。


「なんだよ、これ……」


 米原孝弘まいばらたかひろは、その光景に唖然とする。


「どうして……、何があったの……」


 孝弘の傍らにいた高崎水帆たかさきみずほは、思わず手を口に当ててしまう。


「嘘だろ、クソッタレ……」


 孝弘の右にいた川島大輝かわしまだいきは悪態をついた。


「なんで……。私達、帰ってきたのに……。地球に帰ってきたのに……」


 関知花せきともかは声を震わせた。

 何故ならば、目の前にあった景色は彼等が想像していたような、勝利を掴んだ末に帰還を果たした平和な世界故郷の日本ではなく、明らかな異常だったのだから。


 六年前。


 大学二年生になって大学生活を謳歌していた四人はとある大事故に巻き込まれたにも関わらず死ぬことなく、異世界に転移させられてしまった。


 あまりにも突然の出来事かつ創作でしか見聞きしたことの無い事態に当初は受け入れられなかった。

 しかし、これもまたまるで創作の話のようであったが転移させられた世界は、魔王率いる闇夜帝国あんやていこくによって滅亡の危機が迫っていたということ。

 このまま諦観したところで遠からず滅亡し死ぬこと。

 自分達が特別な力を転移にあたって与えられたこと。

 異世界転移させてしまった自分達が何も果たさ無いわけがなく、最大限のバックアップを行い共に戦うということ。


 そして、帝国の魔王が持つ宝玉の魔法エネルギーがあれば帰還は可能であるということ。

 ただの学生を転移させるなんてとんでもない話だがあのままだと自分達はどうせ死んでいた。それに、物語にありがちな後はお前らに任せた的な投げやりではなく、呼び出した側が国を挙げて全力でバックアップをする上に軍も共に戦うという比較的真摯だったこともあって四人は半ば諦観もあったが六年間も転移先世界の戦争に身を投じる。


 戦争は厳しいものだった。

 いくら彼等が元々いた世界(地球世界)に魔法が存在していて、『魔法科学』と呼ばれる高度に体系化された分野があって、魔法に対する馴染みと知識があっても日常と戦争は全くの別物である。


 苦しい訓練。

 激しい戦闘。

 数々の苦難と試練の連続。

 多くの出会いと別れ。

 戦闘では避けられない、現地で親交のあった人物との別れ。

 戦いを経て固く結ばれる絆。


 いつしかそれは、孝弘と水帆。大輝と知花という二組の恋仲を生まれさせた。

 大長編として語られても何らおかしくない様々な出来事の末に、それでも四人は誰一人欠ける事無く見事闇夜帝国と魔王を倒すことに成功した。


 当初の約束通り、四人は転移先世界の人達に惜しまれながらも元の世界である地球に帰還。

 これが創作ならばここでハッピーエンドで終わり後日談になる。


 はずだった。


 ところが、四人の前にある景色は彼等が想像するものと遠くかけ離れたものだった。


 大量の乗り捨てられた車。

 時折漂う異臭。

 それは現代的文明機械を除けば転移前世界では慣れきってしまった、しかし平和だったはずの故郷の世界ではありえない異常な光景。


 ハッピーエンドで終わり、元の生活に戻るはずだったのに。どうしてこんなことになっているのか。


 一般人なら打ちひしがれても当たり前なのだが、六年の経験を経た彼等の思考は歴戦の猛者のそれとなっていた。

 彼等が取った行動はその場に立ち尽くすのではなく、例え絶望的であったとしても生存者の捜索。そして今後に備えての食糧と飲料の確保という、経験者でないと即断即決出来ないものであった。


 見つからない生存者。車に残されたレシートや新聞が、随分と時間が経過してしまっていることを表していた。

 いつから元の世界はポストアポカリプスみたいになっているんだ。と思わないでもない四人だったが、異世界に飛ばされる経験をしていると、こうなったらもう何でもアリだろと割り切るようになっていた。


 ところが、彼等に襲う事態はこれだけでは無い。人がいる所まで歩き抜くなどという生易しい展開にはならなかった。

 それぞれが捜索をしていた時だった。


「孝弘くん!! 魔法探知マジックレーダーに感あり!! 距離一五〇〇、私から見て十一時から一時方向、わたし達が来た方角!!」


「なんだって!? 全員集結!! 俺の所まで集まって戦闘配置!! 知花、敵の数と速度は!」


「数は約一〇〇! 速度は二種類! 速いのは時速三〇キローラ、じゃなかった時速約三〇キロ! 遅いのが時速約一〇キロ! 目視まで約四〇秒!」


「時速約三〇は人間じゃないぞ……。何が、何が来る……!」


 孝弘をリーダーとして四人は染み付いた癖のように警戒フォーメーションあっという間に作る。異世界での戦争経験の賜物だった。

 高速で迫るナニかと人が走る程度の速度で迫るナニか。

 待ち構えていた四人の前に姿を現したのは、信じがだくあってほしくないものだった。


「おいおい嘘だろ……。冗談キツイぜ……」


「絶対、地球じゃありえないものじゃない……」


 四人の前に姿を現したのは、異形の集団。

 人の姿をギリギリ保ったバケモノと、犬のカタチを辛うじて残している四足歩行のバケモノ。


 それらを前にしても孝弘達はあくまで頭は冷静だった。

 いつから故郷の世界はおかしくなってしまったのだろうか。

 どうしてこの世界はこんなことになってしまったのか。

 そして、一体何が起きてしまっているというのか。


(ああ、少し前の、起きたばかりの頃がもう懐かしいな……)


 時は孝弘が心中で独りごちる数時間前に遡る。

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