教えてMEで民意にそった小説づくり

ちびまるフォイ

自分の言葉で伝える気持ち

民意を問いかけて教えてくれるアプリ「教えてME」。

これにどれだけ救われたかわからない。


スマホを買ってほしいとせがむのは、スマホがほしいわけではない。

民意を知るためにスマホがほしい。


「いらっしゃいませーー。なにになさいますか?

 今日はおいしいお魚が入ってますよ」


「教えてME。ここのお店でおいしいものは?」


《4番目の品です。それが民意です》


「じゃ、4つ目の肉料理をお願いします」


教えてMEは手軽に全人類の民意を吸い上げて教えてくれる。

友達を選ぶときにも、志望高校を選ぶときも、悩んでいるときはいつも寄り添ってくれた。

最近では国民投票を教えてMEで決めてくれるという話もある。


「なんて公平で平等な世界なんだろう!

 みんなの気持ちひとつひとつを大事にしている!」


誰もが当たり前に"民意"を利用するように世界を変えたこと。

それに感動した俺は思い切って就職活動をすることに。


「俺は! この教えてMEを小さい頃から使っています!

 どんなときも民意に助言されて助かっていました!

 その恩返しのために仕事をしたいんです!!」


面接で熱い気持ちをぶつけたとき、合格率0.000001%の教えてME本部から合格通知が届いた。

案内状に従って本社へと向かう。


「ここが教えてMEの本社……」


「今日から君はここで教えてMEのサーバー管理を任せるよ」


「サーバー管理! まかせてください! がんばります!

 たくさんの人の民意を回収しているサーバーを監視して

 みんながいつでも民意にアクセスできるようにします!」


「さぁ、中へ」


教えてMEのサーバールームに通された。

サーバーとは名ばかりで、中にはせいぜい金魚の入っている水槽しかなかった。


「あ……あれ? サーバーは?

 もっとスーパーコンピューターのサーバーみたいなのが

 ずらっと並んでいるのをイメージしていましたけど……」


「そんなものはないよ」


「で、でも! それじゃ毎日たくさんの人から回収している

 多くの民意はいったいどこで選別されて抽出されて保存されているんですか!?」


「民意はコレ、さ」


管理者はサーバールームの中央に置かれた水槽をぽんと叩いた。

音に驚いた水槽の金魚がくるりとUターンした。


「民意……? 金魚、ですよね……?」


「この金魚のランダムな動きをもとにランダムな数字が生成される。

 それを"民意"として返信しているだけさ」


「はぁ!? それじゃ、俺がいままで民意として信じていたのは!?」


「この金魚のきまぐれな動きから生み出された

 なんの意味もないランダムな答えだよ」


「国民の脳や行動解析をしているんじゃないんですか!?

 それらのビッグデータをもとに民意を出しているんじゃないんですか!?」


「このサーバールームを見てくれよ。そんなものはないだろう。

 あるのはこの金魚だけ。君の仕事は金魚の餌やり、それだけだ」


「民意を信じてる人みんなを騙してるってことですよ!?」


「だがみんな民意を信じて幸せになっているじゃないか。何が悪い?

 みんな自分の意見を後押ししてくれる民意がほしいだけだ。そうだろ?」


「俺は! あんたらが嘘をついていることが許せないだけです!!」


「それは君の気持ちか? それとも民意で正しいとされた感情か?」


「もういい!!」


あれほど信仰しあがめていた民意がただの金魚だったなんて。

水槽にいる金魚の移動場所で勝手に進路が決められていたなんて考えたくもない。


これ以上、自分のような被害者を作るわけにはいかない。

この真実を多くの人に伝えるのが俺の義務だ。


「みなさん! 教えてMEはでたらめです!

 みなさんの民意なんかこれっぽっちも反映してないんです!」


「……誰アレ?」

「ヤバい人だよ……ほら民意でもYesってなってる」


やばめの宗教団体と誤解されて誰も近寄ってこない。

だったら言い逃れも、目を背けることもできない事実を突きつけるしか無い。


「みなさんコレを見てください!

 これが教えてMEの真実です!!」


本社から持ち出した本物の内部資料を公開した。

そこには民意なんかちっとも吸い上げてないこと。

実は金魚のテキトーな動きでそれっぽく民意だと騙していたこと。


それらが1点の矛盾なく、事実としてしっかりと証明されているものだった。


「これを見ても民意を信じますか!?

 あなた達が民意だと信じているのは金魚の気分から導かれた答えなんですよ!」


「でも……民意では"そんなことない"って」


「そんな民意をいつまで信じているんですか!

 この事実を知ってもなお、どうして民意を信じるんですか!」


「みんなあんたみたいに自分の意見を抜き身で言えるわけじゃないんだ!

 批判は怖いし、否定されて反論できなかったらもう負けだ。

 だったら民意の答えに沿ったものを選びたいじゃないか!」


「民意のお墨付きがないと、自分の意見すら言えないのか!」


「民意に合っていない意見を言って、論破されたらどうするんだ!」


さまざまなところで民意の穴を伝えてみても効果はなかった。

みんなの心の深い場所に民意は浸透していて、そうそう変えることはできない。


民意がそう言っているから。

民意に沿っていないから。


気軽な判断基準に慣れてしまうと抜くことは難しい。


「こんなデタラメな民意に人間の心を奪われてたまるか……!」


民意ではなく自分自身の意見を持ってほしいと思っても効果はない。

だったらせめて、本物の民意を教えてあげたいと考えた。


水槽の金魚が行き来するだけで答えが変わるようなあやふやな民意ではなく。

本物の、みんなの心から吸い上げた確かな「民意」を提供するしか無い。


「うおおおお! やってやるーー!!」


そして、ついに完成の日が訪れた。


あらゆる思考や好み、判断基準を解析して蓄積するために

最先端のスーパーコンピューターが何十代も並ぶサーバールーム。

コレを使えば人間の考えをたくさん集めて、その民意を正しく返すことができる。


「みなさん聞いてください! ついに本物の民意測定器ができました!!」


民意を否定していたときは誰も寄り付かなかったのに、

民意を肯定するようなことになるとみんな興味深そうに寄ってくる。


「これまでの教えてMEは実は金魚からテキトーにはじき出された答え。

 みなさんの民意なんてこれっぽっちも反映していなかったんです!」


通販番組を見て鍛えた俺のプレゼンが光る。


「俺はみなさんの本当の民意を集める機械を作りました!

 これからもう偽の民意に踊らされることはないんです!

 本物の民意で、本当に正しい選択を選べるようになりますよ!!」


見ている人たちから「おお」と歓声があがる。


「そのために、みなさんにはこのシールを頭に貼ってもらいます。

 みなさん個人の頭にある考えや判断基準、知識などを集計し

 民意総合センターへビッグデータとして管理します!」


その瞬間、聞いている人の目の色が変わった。




「ええ!? 勝手に自分の考えを分析されるの!? そんなの嫌よ!!」



あれだけ民意に頼っていた人たちが、初めて自分の意見を叫んだ瞬間だった。

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