Vtuberの同期が因縁の相手だった件

適当にもほどがある

再開1


「こんましゅー!コンコンと白宮 マシュロ参上。今日はお待ちかねのティシューとオフコラボです」


パソコンの画面に映る、狐耳をはやした金髪の美少女のイラストが口をパクパクと開き、それに合わせたように快活で楽しそうな声が聞こえてくる。


その声を出してる張本には頬を引きつらせて、眉間にシワがよっている。

彼女の名前は中川つばさ。

動画サイトWetubeで活動している、外見が架空のキャラクターで活動しているVirtual Wetuber、略してVtuberとして活躍している、人気上昇中のライバーだ。

妖狐をイメージした狐耳娘の白宮ましゅろというキャラクターが、つばさちゃんのVtuberとしての姿。


そんなつばさちゃんは隣に居心地悪く丸まってる、私に目配せする。

わかったと、私は首をたてにふる。


「よろしゅー、朝美ティシューだよ。ましゅろにお呼ばれして、家にお邪魔してるんだぁ」


私は幼くおっとりした声を意識して喋る。

するとマシュロの隣にいる褐色の猫耳娘のイラストの口が動く。


翼ちゃん同様私もVtuberとして活動している。

私の名前は浅倉桃子、今年で25歳になるライバーだ。

朝美 ティシューが私のVtuberとしての姿。

褐色で巨乳の猫耳娘。スコティッシュ・フォールドをイメージした垂れた猫耳とふっくらとした柔らかそうな輪郭が特徴的なキャラクター。


私の第二の体としてはあまりにも可愛すぎて、少し気が引けてしまうが、最近はティシューとして振る舞うことに馴れつつある。


現在、私とつばさちゃんはVtuberのコラボとしてつばさちゃん宅で配信中だ。


「ましゅろとはずっとオフコラボしたかったから、嬉しいな」

「私も嬉しいよ、今日はオフということでお泊まり会もするから、今夜が楽しみ」


「ましゅろエッチなことしたらヤだからね」

「それってどこまで、一応ね、聞いた方が今後の参考になるから」



「何かする気満々じゃん…まぁキスまではいいかな」

「え!!いいのティシューたん」

「鼻息すごいなぁ、ちょっと嫌になったかも」

「そんな~」


金髪狐娘のましゅろと銀髪猫娘のてぃしゅーは微笑ましい雰囲気に包まれ、なんとも素敵な空間をつくってる。

私はリスナーの生の反応が見れるコメント欄に目を向ける。


コメント:

『ましゅティシュてぇてぇ』 

『末長く爆発しろ』

『尊い』 

『いちゃいちゃたまらん』 

『ましゅろの変態ムーブいいぞ』


などコメント欄は大変盛り上がってる。


これは上々な滑り出しじゃないか。良い配信になりそうだな。

リアルの私とましゅろの本体である、つばさちゃんとは一切目を合わせてないけど。


つばさちゃんは声では楽しそうに喋ってるのに、私と距離を取り、本人の顔は引きつったままもとに戻らない。

私も彼女の引きつった顔に釣られないように、ティシューとしてのんびりと可愛い声でマシュロとの会話につとめる。


流石プロというべきか、私と彼女の感情は複雑ではあるが、配信中ではその気は一切出さず進行していく。


株式会社Vento(フェント)が運営している、Vtuberグループ『キャラタイムズ』。

数多くのVtuberが所属している大手グループで、ましゅろとティシューはそこに所属しているVtuberだ。

私とつばさちゃんは企業に勤めた、配信活動で収入を得ているプロなのだ。


例え今の状況がどんな地獄だろうと、この配信を視聴者に楽しんでもらうため、二人に漂う険悪な空気を感づかれては駄目である。


「今日はオフでしかできない、レトロゲームを一緒にやっていきまーす」

「おー!」

狐耳がぴょこぴょこ動くマシュロに思わずキュンとしながら私も同調する。


狐耳娘最高っすよね、、、


ゲーム配信は、ゲームの実況やプレイのリアクションをとったりと、会話の間が持ちやすいためコラボ配信でもよく扱われるコンテンツであったりもする。

なので、配信の流れはとてもスムーズに進む。

二人の会話は主にゲームの話題になり、視聴者からのコメントには二人の身の上話を求めるコメントもあったが、スルーしていただいた。


ほんと申し訳ないとは思いながらも、楽しい雰囲気はなんとか保ちつつ1時間の放送も終わりに近づいた。


「ここらへんで配信は終了するけど、ティシューとはこの後もいちゃいちゃしちゃうからね」

「お泊まり会がどうなったかは後日談配信するね、もちろんましゅろのセクハラも報告する」


「そんな、どんだけ私を信用してないのさ!」

「まぁ、ましゅろだったらいいけどねぇ」

「え!まって今なんて言った、小さくて聞こえなかったのでもう一度」

「い~わない」


コメント:

『ましゅろんを通報しました』

『でかした』

『ほんまてぇてぇやでぇ~』

『レズ狐逮捕案件』

『後日談全裸待機』

『この猫誘ってやがる』


私たちはリスナーが喜びそうな会話を、意思疎通しながら即組み立てる。

これに関してはオンラインでコラボした時もよくしていたし、私たちの思考は似通っていて会話が上手く噛み合っていた。


ティシューとましゅろの関係性を簡潔に言うと百合である。

そして、公にはしないがそんな百合カップルの二人が今夜一夜を共にする、何も起こらないはずはなく…と

視聴者を百合の園に誘うように私たちはいちゃいちゃして視聴者の妄想を掻き立てる。



百合営業と言われればそうだが、私も今夜はましゅろと楽しくオフトークができると息巻いていた。

いろいろ聞きたいこともあるし、女の子といちゃいちゃするのも正直満更でもない。

今回は初のオフコラボなのだ、視聴者の期待値も鰻登りだろう。




ましゅろの本体が中川 つばさでなければの話だったが




「ではでは、配信を見てくれてありがとうございます!チャンネル登録とTwitterのフォローがまだの人は是非お願いしますっ」

「ましゅろのはしなくてもいいからね。僕のだけ宜しくたのむよぉ」

「ちょっとそんなこと言っちゃうの。そんな悪いてぃしゅーはいたずらしないとね!ぐへへへ」

「通報しました」


「…では、おつシュまろ~で終わりますか」

「は~い」

「じゃあ、せーの」


「「おつシュまろ~」」


愉快な会話を、終始引きつった顔で配信を終えた私とつばさちゃん。


つばさちゃんが配信を切る。

途端に二人の会話がピタリと止まる。


沈黙、つばさちゃんは無言のまま下を向いている。

何を考えてるのかも前髪で隠れて表情も確認できない。

かく言う私も、元から猫背な体をより丸め、視線をパソコンディスクから離せず黙りこくっている。


とんでもない雰囲気だ。

ここは7つ年上の私が間を取り保たないといけないのかな。


「お、おつかれさまです」

5分ほど沈黙だった気まずい空気に終止符を打つため、私はとりあえず言葉をしぼりだした。


「ええ、お疲れ様」

ましゅろとして会話していた声とは打って変わって、冷たく抑揚のない声がつばさちゃんから発せられる。


「いやぁ~まさかましゅろがつばさちゃんだったとはね、驚いちゃったよ会うのいつぶりかな?」

黙ってても埒が明かないから私は会話を続ける。


「………」


しかしつばちゃんからは返答が返ってこない。


会話終了!ほんとさっきまでのテンション高いましゅろはどこにいったのだ。


正直な気持ちを言えば、私はつばさちゃんに聞きたいことは山ほどある。

ましゅろのご本人としてではなく、1年前突如姿を消した、大人気生主の「つばさちゃん」として。


「てぃしゅーの声で私に話しかけないで、浅倉さん」


下を向いていたつばさちゃんの目線が私に向く。

切れ長のつり目が私を睨む。

ましゅろは大きく丸っとした可愛らしい目だが、つばさちゃんの目は切れ長の美しい美人さんの目だ。


「こ、これでいいかな」

てぃしゅーの声をやめろと言われ、普段から使い慣れた地声に戻す。

ティシューの声は、ばりばりにつくった声だ。

普段は可愛らしさの一つもない、がさついた低い声なんです。


はい、さっきまでの私は可愛い声を全力で作っていました。


だって自分の地声嫌なんだもん…

つばさちゃんはましゅろの時とは違うローテンションな声だが、声質は変わってない。

声を作らずとも可愛いく特徴的なんてずるい。


「いつもどこからあんな声出してるの?声が違いすぎて、てぃしゅーがあなただって気づかなかったわ」

「私だって前と雰囲気違うから、ましゅろがつばさちゃんだとは思わなかったよ。良いキャラだと思うよましゅろ」


「……なんであんたが私の部屋にいるのよ」

「え、ましゅろとティシューのお泊まりオフコラボだからでしょ?」

「ティシューは自宅に招待したけど、浅倉桃子と言う女は呼んでないわ」

「横暴すぎない?私がティシューだから必然的に私が来るのは仕方いよ」


「黙りなさい」

「は、はい」


年下に凄まれて萎縮してしまう25歳の女が私です。


目線をキョロキョロ行き場を失っていると、つばさちゃんは立ち上がり、私の大きめなボストンバックを持ち私に押し付ける。


「帰って」

「え?お泊まり会は」

「あんたとするわけないでしょ、さっさと帰りなさい」

「でもせっかくの再会だから積もる話もあるじゃん」

「私はない、さようなら」


つばさちゃんは私を無理やり立たせて、玄関へぐいぐいとひきずられる。

この娘力強い、つばさちゃんの思うままに玄関までつれてこられる。


「ちょっと、明日お泊まり会の後日配信するって言ってるよね?配信後に追い出されましたって言えばいいのかな」

土俵際のお相撲さん如く、家から追い出されそうになる私はギリのところでふんばり抗議する。


私は今晩つばさちゃんの家に泊まらなければ、明日に控えた配信枠がすべてぱあになってしまう。

それは避けたい、期待を裏切る行為はリスナーを落胆させ、離れていく原因にもなるんだ。

リスナーの同接数やチャンネル登録者数も軌道に乗ってきたとこなのに、お泊まり後日談配信という、人を集めることのできる機会を潰してたまるか。


「風邪をひいて、仕方なくお泊まり会は中止しましたでいいじゃない」

「さっきまであんなに元気だったのに?詮索されてありもしない不仲説がファンの中で噂されるかも」

「実質私とあなたは仲がいいとは言えないけど」

「つばさちゃんと私との話じゃないよ、てぃしゅーとましゅろの関係が不仲だと言われるかもしれないことを言ってるんだ」


私の言葉に一瞬たじろぐつばさちゃん。

彼女だってライバーのプロだ。

個人の感情で動いて良いことと、悪いことはわかってるはずだ。

互いにお泊まり会の後日配信をすることは決まっている、それをねじ曲げることは許されない。


だからこそ、今回は我慢してもらって私を泊めさせていただきたい。

ふりでもいいから仲良くしてもらいたいわけだが。


「それは誰のため?」


少しの沈黙の後つばさちゃんの声のトーンが変わる。

先ほどまでのつっけんどんではなく、弱々しく呟くような声だった。


「視聴者のために決まってるよ、てぃしゅーとましゅろのいちゃいちゃは人気があるんだ。今回の配信も反応良かったでしょ?」


話を聞いてくれる気になったのか、彼女は私の言葉に耳を傾けてくれてるようだった。

説得するならここがチャンスだ。


「人気…ね」

「そうだよ、今回のお泊まり会の時だけでも良いから仲良くしようよ。絶対視聴者さんが喜ぶから」


「違う、あんたは視聴者の喜ぶことをしてチャンネル登録者数を増やしたいだけ。ましゅろと……私と仲良くしてたのも、全部自分のためなんだわ。

あんたは人のことを思ってるような口ぶりでその実自分がのし上がりたいだけ。昔と変わってないわ」


つばさちゃんの眉が垂れる。

かわいそうな人を見る目で私を見る。


なんだよ、なんでそんな目で見るんだ。


「だからなあんたの前から去ったのに」


彼女の言葉に何も言えず、抵抗する力もなく外に出された。


「お泊まり会の内容は適当にでっち上げてくれて構わないわ。それに私も合わせるから。得意でしょ浅倉さん」

嘲笑と軽蔑が混じった声を最後に、つばさちゃんは扉を閉めた。

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