魔王子転生
物語創作者□紅創花優雷
第0話 勇者は儚く散る。
彼は勇者だった。
王に命じられ、国を侵略しようとする魔王達を阻止すべく立ち上がった一人の少年。彼の歳は十五、進学した矢先に国からお呼びを受けた。
赤色のカーペットの左右には、兵士が目を光らせ少年を監視する。粗相はおかせぬこの状況で、少年は王座の前に跪いていた。
王座に座るは、たっぷりと髭を蓄えた老人。名はキーグ。その横に立っているのはその息子であり王子のセスト、ちょうど少年と同い年だ。
鮮やかな赤が霞んで見える。騒ぐ心臓を押し殺し、声を引き出した。
「国王陛下、わたしくに何用でございましょうか」
少し間が空いて、王のかすれた声が聞こえる。
「よく来た。レソルと申したか」
「レイソでございます」
「レイソが、すまない年のせいで物忘れが酷くての」
ごほんと咳ばらいを一つし、王はレイソに「面を上げろ」と言う。
視線をあげると、レイソは眩しい金色の壁に目を細めた。王に視線をうつし、その神妙な表情をしていた。
「主に頼みたい事があるのだ」
「頼み事ですか……?」
一般民衆の自分に、王が自ら頼み事。固唾をのみこみ、レイソはそれはなにか訊ねる。
「魔王の討伐を頼みたい。勿論、褒美は用意しよう」
その答えに、レイソは耳を疑った。
「魔王の討伐、わたしくがですか?」
この国には軍も備えてあるし、優秀な剣豪や魔法使い、格闘家などの戦闘には持ってこいの人材は豊富だ。それなのになぜ、自分に話が来るのか。
不思議に思っていると、これまで黙っていた王子が口を開いた。
「レイソくん、この前の抜き打ち検査覚えているかな?」
そう言われて、ハッとした。
何故か行われた抜き打ち検査。学力、技術力、精神力の三つを検査されたのだ。やる理由を教師に訊いても「王の命令」としか答えられなかった。
卒業間際で成績はそこそこいい結果だった。三つの分野共に頂点と言う訳でもないが、真ん中よりは上で教師に「凄いね」と言われるくらいだ。
「それで勇者に適した伸びしろのある人材を探した結果、君が選ばれたんだよ」
「なるほど……」
納得できた。現時点での実力よりも伸びしろを優先された結果、自分になったわけだ。しかし、この緊急事態でなぜそうしたのか。尋ねたいところだが、王の前で無礼になりかねない。これは依頼形式ではあるが、実質国王命令だ。
「承知しました。この国の未来のため、精一杯努力させていただきます」
そう答え、レイソは勇者となった。彼はやる気に満ちた目をしていた。
王様は「流石に未成年の主を一人で生かせるわけにはいかない」と、三人の仲間を用意してくれた。魔法使いのキャミルというお姉さんと、射手のハール、剣士筋肉隆々な肉体派ダイトだ。
初の顔合わせ、三人がよく集まるという酒場でレイソは落ち着きなく水を飲んでいた。勿論レイソは年齢的に酒は飲めない。
三回目の水のお代わりをした時、店の扉の鈴が鳴る。来たか? と視線をそちらに向けた。
言われた通りの三人組。その中のセクシーなお姉さんが店を見渡し、レイソを見つけると微笑んだ。
こちらにやってきて、前の席に座る。
「君がレイソくん? よろしくね、私はキャミルよ」
キャミルはどこか蠱惑的な笑みを見せる。前かがみに見詰めてくる彼女に、非常に目のやり場が困り、視線を外す。するとフフッと声を漏らし、「初心でかわいい」と。
なんだか恥ずかしくって、赤面しているとその隣のすらりとした男の人が割って入った。
「キャミル、可愛いからってからかっちゃダメですよ。僕がハールです。これからよろしくお願いします、レイソさん」
「俺はダイトだ! レイソ、宜しく頼む」
そのデカい声に驚き、瞬発的に身を引く。それをみてダイトは「すまない」とすことしょぼくれたので、悪い人ではないのだろう。
なんだか仲良くなれそうだ。レイソの緊張は少しだけ和らいだ。
「あっ、初めまして。レイソです。よろしくお願いします……」
少しだけおどおどした声で挨拶をすると、三人は快く引き受けてくれた。
「これから一緒に冒険をすることになるのですから、さっそく親睦会でもしますか」
ハールがそう言い出し、レイソにニコっと微笑む。
ありがたいことにこちらの気を使ってくれているみたいだ。おかげで緊張は随分ほぐれた。怖い人だったらどうしようと不安だったが、この人たちとなら冒険だって出来そうだ。
「あぁ、そうするとしよう。とりあえず生だな」
「待ちなさいダイト、未成年がいるってのに酒を呑むつもり?」
早速注文しようとするダイトを、キャミルが止めた。
威圧のある瞳で睨み、ダイトが若干萎縮してしまう。
「そうだったな……今日はよしておこう」
「別に気を使わなくていいですよ、僕は問題ありませんから」
「いいえ、よしておきなさい。この人、酔うとダル絡みして来るから」
「えぇ、未成年に見せていいものではありません」
キャミルもハールも、絶対にダメだと念を押してくる。そこまで言われると気になるが、これは五年後の楽しみとしておこう。
レイソはオレンジジュースを頼み、四人でしばらく歓談していた。
帰ろうとした時にはすっかり日は暮れ、フクロウの声が聞こえる。
これから一緒に過ごす仲間だ。今日はお試しで、町の宿に泊まることになった。二階の四部屋を借り、一人一人そこに入る。
レイソが部屋に入ろうとすると、キャミルがその肩を叩いた。
「レイソくん、怖いならお姉さんが一緒に寝てあげるわよ」
艶美な素振りでそう誘ってくる。勿論冗談だろうが、どうしてもその胸に目が行ってしまいそうになるのを必死で堪え、断る。
「だ、大丈夫です! 子供じゃないんで」
そそくさと扉を閉める初心な反応。それが面白いようで、キャミルはうふふっと笑った。
次の日。
四人が宿から出て、レイソが実家の両親に挨拶をしてから町を出る。
さあ、ここから冒険の始まり。どうなるかは分からないが、レイソの心は高揚していた。
馬車で移動する事数時間。門の外には、のどかな草原が広がる。その風景には反し、ここから外はモンスターが生息しており、危険地帯と言われている。本来なら出ることは出来ない。
顔を合わせて頷き、レイソが外へ一歩踏み出した時だった。
それはあまりにも一瞬のことで、理解が追い付かなかった。ただ、胸がカッと熱くなり視界が霞む。仲間になったばかりの三人が呼ぶ声が朧げに脳に響き、草の感触が全身に伝わった。
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