想い出図書館 第二部

傘ユキ

第一話 夏祭りの記憶

1-1

 夜半過ぎ、ジー、ジーと、夏の虫が鳴いている。

 夏休みが始まってすぐになぎなた部の合宿が始まった。三泊四日、高校の敷地内にある合宿所で寝泊まりして練習をみっちり行うのだ。

「次、楼子ろうこちゃんの番だよ。とっておきの話あるんでしょ?聞かせてよ」

 暗闇の中でも目をきらきらさせてるんだろうなと思わせるはずんだ声で、向かいの布団で寝転ぶれいちゃんがわたしにささやいた。

 三日目の夜。

 消灯時間を過ぎたので本来なら静かに寝てる時間だった。

 でも、先月三年生が引退してわたしたち二年にとっても最後の合宿……更に言うと最後の夜。

 気心の知れた仲間でちょっと羽目を外してしまうのは仕方ないと思う。女子が四人寄り集まってする話題と言えば恋バナが定番だろうけど、女子校だし部活に明け暮れているし、そもそも色気より食い気なわたしにみんなが期待するのは別の話題だった。

 わたし、皆川みながわ楼子は怖い話や不思議な話を聞くのが好きだ。だから自然、そういった話を集めるのを趣味にしていた。みんなもわたしの趣味を知っていて、合宿とか、こういった時は必ずわたしに話を振って来る。期待されるとわたしも悪い気はしない。

「それじゃあいっちょ、語りますかあ!」

 顧問の先生に気づかれないよう、控えめな拍手が沸き起こる。わたしはわざとらしく咳ばらいをひとつした。

「怖い話じゃあないんだけどー、こないだ不思議な話を友達から聞いたんだよ」

 そう前置きしてから語り始める。

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