第53話 浅草へ

 電車が到着し、それに乗る。

ここから、乗り換えも含め、だいたい30分ほどかかるだろう。


「浅草といえば、雷門ですよね!」

「ああ、そうだな。あそこは有名だからね」


 浅草の定番の観光スポットと言ったら、やはり雷門になるのだろう。


「初めて行くので楽しみです!」


 まぁ、一般的な女子高生が浅草に行くかと聞かれたら、そうでもないだろう。

俺だって、書道家の仕事をしていなかったら、行く機会は無かったかも知れない。


 他愛もない、話をしていると、乗り換えの駅に到着した。


「お、ここで乗り換えだぞ」

「はい!」


 俺と紗良は電車を降り、乗り換えのホームまで歩く。

浅草に行くには、乗り換えホームまで少し歩くのが難点である。

まぁ、それも紗良と2人で歩けば、不思議と、気にならないもんだ。


「あ、ちょうど電車行っちゃたな」

「まぁ、のんびりでいいんじゃないですか?」

「ああ」


 俺たちの目の前で、電車は発車してしまったが、それでもいいと思えるこの余裕は、紗良と2人だからだろう。

 それから、5分ほど待ち、浅草行きので電車に乗った。

都内の凄い所は、数分に1本電車が来るという所だ。


「次ですね」

「おう、そうだな」


 電車の中に『次は浅草』というアナウンスが流れた。


「降りるぞ」

「はい!」


 座席から立ち上がると、電車の扉が開くタイミングで、電車を降りた。


「結構混んでますね」

「ああ、今日は休日だしな」


 地下から地上に上がると、割とそこは混み合っていた。


「よし、まずは飯だな」

「そうですね!」


 紗良が、待ってましたと言わんばかりに頷いた。

 何なんのだ、この可愛い生き物は。

お兄ちゃん彼氏が出来たら心配で寝れなくなっちゃうよ。

幸い、と言っていい事なのかは分からないが、紗良には彼氏は居なかった。


「こっちだよ」


 そう言って、俺は紗良の手を取った。


「へっ!?」


 紗良は手を握られた事で顔を赤くしていた。


「ほら、人多いし逸れるといけないか」

「そ、そうですよね。逸れると……ですよね」


 そのまま、紗良と手を繋いで、行きたいお店へと向かう。

実は、事前に予約を取っていたのである。


「ここだよ」


 俺は、お店の前に着くと紗良の手を離した。

その時、紗良の表情はどことなく、寂しそうだったのだが、俺は気付いていなかった。


「ここ、ですか」

「そう、もんじゃのお店だよ。大丈夫だった?」

「は、はい! もんじゃは好きです」

「それはよかった」


 2人は、店内へと入る。


「いらっしゃいませー! 2名さまですか?」

「予約していた東條ですが」


 俺は予約していた名前を伝えた。


「東條様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 2人は、予約席と札が置かれていた席へと通された。

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