第35話 映画のお誘い

 その翌日、紗良の体調は完全に復活していた。


「おはようございます。兄さん」

「おう、おはよう。良くなったみたいで何よりだ」

「はい、お陰様で。看病してくれてありがとうございました」

「妹なんだから当然だよ」


 春輝は、味噌汁をかき混ぜていた。


「朝ごはん出来ているぞ」

「はい!」


 今日の朝食は、味噌汁にご飯、焼き鮭である。


「おぉ、今日は和食なんですね」

「おう、日本人だからな!」

「ですね!」


 紗良の分と、自分の分の配膳が終わると、二人で手を合わせる。


「「いただきます」」


 二人は、向かい合うような形で座り、食事を進めていく。


「和食もいいですね!」

「だろ? やっぱり味噌汁だよなぁ」


 何も変わらぬ日常。

紗良と過ごすようになってから、春輝の日々も明るくなったような気がしていた。


「「ごちそうさまでした」」


 食べ終わると、二人でシンクに行き、洗いものをする。

これも、日常になっていた。


「兄さん、明後日って、何してますか?」

「どうせ、もう、高校は休みだからな、特に何もしていないと思うぞ」

「な、なら、映画、行きませんか?」


 紗良が、遠慮がちに聞いてきた。


「いいよ。映画か、久々だな。何かみたい映画あるの」

「はい、これです!」


 そう言って、紗良は手を拭くと、スマホの画面を春輝に見せてきた。


「これって、今話題の恋愛映画か?」

「そうです! ずっと見たかったんです」


 春輝も、テレビで予告をやっていたので、知っていたのだ。


「いいんじゃないか。それを見に行こう。小説家が主人公何だっけ?」

「そうなんですよ! 兄さんもよく知っていますね」


 確か、元ベストセラー作家だった、小説家が、ある過去から小説が書けなくなってしまう、といった感じの内容だったと思った。


「ああ、テレビで予告やってたしな」

「確かに、よく見ますね。人気みたいですからね」

「予約していった方がいいかな?」


 今は、簡単にネットから予約が出来るようになっている。


「あ、確かにその方がいいかもしれませんね」

「分かった」


 そう言って、春輝はスマホを操作し、予約の手続きを進めていく。


「何時からがいい?」

「そうです、午後の1時くらいでしょうか」

「おう、なら、1時15分ってのがあるからそこでいい?」

「はい!」

「座席も選べるみたいだけど」


 春輝は、スマホの画面を見せた。


「この辺の、真ん中とかでどうでしょう」

「おう、じゃあここ、横並びで取っちゃうな」


 春輝は、真ん中の見やすい席を横並びで2つ取った。


「よし、これで、大丈夫だ」

「ありがとうございます!」

「いいよ、俺も出来るだけ並ぶのは避けたいし」

「ですよね」


 こうして、二人が映画デートが決定したのであった。

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