第14話 お出かけの誘い

 夜、12時が回った頃、俺は出版社から頼まれている題字を、何パターンか作っていた。


「もう一度読み返すか」


 出来るだけ、作品の世界観に沿った文字を書きたいと思っている俺は、貰った本を何度も読み返していた。

そう思い、本棚に手を伸ばそうとした時、扉がノックされた。


「兄さん、ちょっとよろしいですか?」

「おう、いいぞ」


 そう言うと、部屋の扉を開けた。


「入るか?」

「は、はい……」

「うん、どうぞ」


 俺は、紗良を部屋の中に招き入れた。


「そこ、座っていいよ」


 俺はベッドに、紗良は椅子に座らせた。

紗良は、部屋の中をキョロキョロと見回している。


「それで、どうかしたか?」

「兄さんの部屋、芸術家って感じですね」

「そ、そうか? まあ、俺の仕事空間でもあるからな。ああ、これ」


 自分が題字を担当した本を、とりあえず、3冊渡した。


「あ、ありがとうございます」

「そのシリーズ、6巻まで出てるから、読み終わったら言ってくれ」

「分かりました」


 紗良は、3巻までを受け取った。


「あ、ごめん。紗良も何か用事があったんだよな?」

「は、はい。その、日曜日って空いていますか?」


 モジモジしながら言った。

その姿も凄く可愛い。


「日曜日っていうと、明後日、もう明日か」

「は、はい」

「空いているけど、どうかしたか?」

「な、なら、買い物に付き合ってくれませんか? 服が欲しいと思いまして」

「おう、いいぞ。一緒に行こうか」


 せっかくの休みをただ、寝て過ごすというのも勿体無い。

兄妹で出かけるのも悪くないだろう。


「では、日曜日、よろしくお願いします」

「おう、楽しみにしておく」

「うん、私は、そろそろ休みますね。おやすみなさい」

「おやすみ。ゆっくり休んでくれ」


 そう言うと、紗良は部屋を出て、自分の部屋へと戻って行った。


「さて、もうひと頑張りするかな」

 

 インスタントのコーヒーを淹れ、それを飲みながら、俺は机に向かった。


「終わったぁ」


 出版社に題字のデータを担当さんに、メールで送り終わった頃、時計の針は、深夜の2時を指していた。


「もう、こんな時間か。俺も寝よう」


 机の上を一通り片付けると、ベッドの中に入った。

疲れていたのか、すぐに意識を手放した。



「兄さん、兄さん。起きて下さい」


 俺を呼ぶ声で目を覚ました。


「お、おう、おはよう」

「すみません、あまりに起きてこないので、勝手に入ってしまいました」

「いや、構わない。起こしてくれて、ありがとうな」

「兄さんが寝坊とは、珍しいですね」

「ああ、昨日遅くまで仕事してたからかな」


 春輝はベッドから起き上がった。


「顔洗ってくるわ」

「はい!」


 今日は土曜日、休日だ。

二人で昼食を取ると、リビングのソファーに座り、テレビを眺めていることで、1日が過ぎ去っていった。

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