第157話 姉の方は天賦の才があるからの
『会場にお越しの選手の方々にご連絡いたします』
ビックマウスでもヘンゼンでもない者の声が拡声機を通して会場に響く。
『5戦目を希望する『不倒』選手との試合に応じられる方は、金網闘技台にお入りください』
試合用の砂時計がひっくり返されており、
『時間内に相手が現れなかった場合、『不倒』選手の5戦目は不戦勝とさせて頂きます』
砂が落ちきった場合、ヨコヅナが不戦勝になることを告げた。
つまり、裏闘の進行係はヨコヅナの次の対戦相手を見つけるのを諦めたのである。
Bランクのトップ選手に尽く圧勝、最強と呼ばれていた『閃光』までも無残に敗北。
そんなヨコヅナとの戦いを受けれる選手はもうBランクにはいないと判断されたのだ。
『まさかの不戦勝告知だぁ!!5連勝で『不倒』はAランク昇格なるんだ、昇格試合が不戦勝とか前代未聞だぜぇ!!』
『……過去のデータを見るに、何人かいるようだがな』
『え!?そうなのか?……でも『不倒』ほど若い選手はいないだろ』
『あぁ、若い選手では……いや、古いデータだが一人いるな、登録名は……『武神』だな』
『オイオイ!それって伝説の大将軍じゃねぇか!?』
『当時は軍人ですらないがな』
『つまり、アレかぁ?『不倒』の強さは伝説の『武神』並みってことかよ!?』
『……あくまで今のBランクで敵無しの強さというだけであって、『武神』と同じ強さという訳ではない』
『でも、裏格闘試合の長い歴史に新たな一ページを刻んだ事には違いないだろ!』
『間違いないだろうな。仮に5戦目の相手は現れたとしてもそれは変わらないだろう』
因みに金網闘技台の中にいるヨコヅナは、待っている間暇なのでまた四股を踏んでいる。
「『武神』並みねェ……とてもそうは見えないんだけどね」
「あははっ、普段の温和でのんびりしたヨコを知ってると信じられないよね」
「それもあるけど…とんでもなく強い奴からは天賦の才ってのが見て取れるもんなんだよ。でもボーヤにはそれがない」
今力強く四股を踏んでいるヨコヅナからも、天賦の才を見て取れないデルファ。
「寧ろ『閃光』の方が才があったぐらいだよ」
「……それはそうでしょ。ヨコは天才なんかじゃないもの」
当然のようにヨコヅナの格闘の才能を否定するオリア。
「エネカちゃんにスモウで負けた事もあったし」
「そうなのかい!?」
「子供の頃の話だけどね」
以前ヨコヅナはハイネに「誰にも膝をつかされたことがないのか?」と聞かれた時、「親父が
「親父
「本気でスモウに取り組むようになってからも、毎日タメエモンさんに投げられてた」
オリアはヨコヅナがタメエモンに勝ったところを見た事がない。
でもオリアは知っている、
「ヨコが強いのは毎日厳しい稽古をしてるから。天才に勝てるぐらい努力してるだけだよ」
他の人がついていくことさえ出来ない厳しい稽古をヨコヅナが毎日行ってきたことを。
「ふ~ん、伝説と
「……そうね。大きくて丈夫な身体だけでも才能だね」
砂時計の砂が半分程落ち、このままヨコヅナの不戦勝になると誰もが思っていた時、
「ケっ!、臆病モンばっかだな」
一人の選手が金網闘技台へと向かう。
『オォ!!勇気ある選手が金網へと向かったぜぇ!!』
『あの選手は……『ドラゴンヘッド』だな』
『ヒャッハッハ!名前通りイカした髪型してるなぁ!!』
緑色の髪でモヒカンロングという個性的な髪型をしている『ドラゴンヘッド』
『だが、イロモノ選手ではないぞ。Cランクでは負けなし、Bランクの戦績は2勝1敗。その1敗も『トンファー』相手に激戦の末の敗北。風貌を見るにおそらく本業は冒険者か傭兵だろうな』
体中に傷があり、頬にも大きな刀傷の後がある『ドラゴンヘッド』を冒険者か傭兵と推測するヘンゼン。
『でも『不倒』の相手が務まるとは思えねえな!』
『実力的にはな……』
『ああん?実力以外に何があんだよ?』
『俺もありえないとは思うが…』
金網に入ってきた相手を見て、四股を踏むのを止めてコーナーへ戻ったヨコヅナは、
「デルファ、……対戦相手を断る事って出来ないだか?」
困り顔でそんなことを言う。
「何言ってんだいボーヤ、ここまで来て5連勝を諦める気かい?」
「対戦相手を替えて欲しいだけだべ」
「連戦側に相手を選ぶ権利なんてないよ」
それを聞いて増々困った顔になるヨコヅナ。
「どうかしたのかい?」
「……デルファに私言ったことなかったっけ?」
オリアはヨコヅナが困っている理由を分かっている。
「何をだい?」
「ヨコはね……女性は殴らないって決めてるの」
ヨコヅナの5戦目の相手『ドラゴンヘッド』は裏格闘試合では珍しい女性選手である。
「私が相手をしてやるよ、
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