第141話 過労と心労で倒れんか心配じゃ
「ハイネ様ご相談したいことがございます。宜しいでしょうか?」
ハイネの書斎にやってきた爺やはいつもよりやや真剣な表情をしていた。
「どうした改まって……コフィーの事なら話した通りだ、今すぐは私でもどうしようもないぞ」
「今日はその件ではございません。旦那様は大変落ち込んでおられますが…」
「自業自得だ、放っておけ。それで用件は何だ?」
「ヨコヅナ様の事でございます。最近屋敷を空ける日が多く帰りも遅いのですが、お嬢様は理由をご存じでしょうか?」
爺やの言葉にハイネは少し考えてから、
「新商品の開発で忙しいとは聞いている」
「はい、私もそうお聞きしていたのですが、……ヨコヅナ様を歓楽街で見たという者がおりまして」
「歓楽街?……」
清髪剤の工場もちゃんこ鍋屋も、歓楽街とは離れた地区にある。途中で立ち寄ったなどということは考えられない。
「ヨコヅナは何をしていたんだ?」
「その者も歩いていたのを見かけただけで、目的までは分からないと」
「そうか……因みにその者は歓楽街で何をしていたんだ?」
「買い物だと言っておりました。商店街では出回らない掘り出し物が見つけれる場合があるとか」
「ではヨコヅナも買い物だったのではないか、以前も食べ歩きをしてて貧困街で絡まれたとか言っていたしな」
「それなら良いのですが、……最近ヨコヅナ様から微かなタバコの匂いがするのです」
「タバコ……私は感じたことないぞ」
屋敷に住み始める時にヨコヅナがタバコを吸わないことは聞いている。もし最近吸い始めたなら隠していたとしても手合わせの時にハイネには分かる。
「ヨコヅナ様が吸っているわけではなく移り香だと思います、ですが以前はそんな匂いは全くしなかっただけに気になるのです」
「歓楽街でタバコの移り香……ギャンブル店に入り浸っていると言いたいのか?」
「田舎から出てきた若い男は、歓楽街のギャンブル店や遊館にハマりやすいと、よく聞きますので」
娯楽が少ない地方の者ほどギャンブル等にのめり込む傾向にあると、ハイネも聞いたことがあった。
(ヨコヅナは未成年だが自分で稼いでいるから、ギャンブルぐらい構わないとは思うがな。……遊館だったら話は別だが)
「ヨコヅナに直接聞いてみるか。今悩んでいるのが馬鹿らしく思えるほど、あっさりと何でもない答えが返ってきそうだしな」
「私もそう思い、さりげなく聞いたのですが、その時ラビス様もご一緒でして……」
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「ヨコヅナ様はプライベートも全てヘルシング家に報告しないといけないのですか?」
「いえ、そう言う訳では……」
「客人待遇であるヨコヅナ様の生活を制限する権利はヘルシング家にはないはずです」
「それは、その通りでございます」
「パーティーの件であれだけコフィーリア王女の怒りを買ったというのに、まだ何かヨコヅナ様に要求しようと言うので?」
「そのような事は、一切考えておりません」
「今後ヘルシング家のヨコヅナ様に対する行動で不審な点が見られた場合、即座にコフィーリア王女に報告するよう言われております」
「不審な事など何も…」
「半分騙すような形でヨコヅナ様をパーティーに出席させた爺やさんがそれを言いますか」
「……申し訳ございません」
「はぁ~、忙しいのに余計な手間が増えてしまいました」
「……重ねて申し訳ございません」
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「パーティーの件を出されますと、私は謝罪することしかできず……」
「それも自業自得だな」
爺やもパーティーの件では首謀者の一人と言える。
ハイネが行軍から帰ってきた際、事業乗っ取り疑いの責任を取って辞職を申し出のたが
「爺やが辞めてもコフィーが許してくれるわけないだろ!責任を取りたいなら働いて返せ」
と一喝され、今は老体に鞭を打って、常時の仕事と並行して損害を被った一族の為に動いている。
「……しかしその話を聞くに、ラビスはヨコヅナが何をしているのかを知っているということか」
「仮に隠そうとしても、あのラビス様を偽るなどヨコヅナ様には無理かと……」
「それもそうだな」
ラビスが知っているなら、ヨコヅナの行動はコフィーリアの部下として容認出来る範囲内ということだと考えるハイネ。
「では今は放っておいても問題ないだろう」
自分には秘密でラビスが知っているというのは、ハイネとしては気に入らないが、ヘルシング家の現状を考え、無理に詮索は控えることのする。
「更に異変があったなら報告してくれ。ただし尾行等といった余計な真似はするな」
ラビスはもちろんのこと、ヨコヅナは自分に向けられる気配には鋭い、下手に尾行などすればまず感づかれる。
「畏まりました」
「まぁ、ヨコヅナに限って滅多なことはないろうがな」
ハイネは分かっていない。
コフィーリアの部下として
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