第111話 世の中狭いの


「アーク兄はよく来るだか?」

「もう一つの店にはよく来てたわよ。最近は全然来てなかったけど」


 ディーラーにクレームを言っているアークを、遠巻きに見ているヨコヅナとオリア。

 アークがギャンブルにハマっていることは、ヨコヅナも知っているから、ギャンブル店の常連でも不思議には思わない。しかし、借金があるとも聞いている、ここに居るということは…

 

「借金は返せたんだべかな」

「ヨコも知ってたの……借金を全部返していたら、もっとレートの高い店に行くはずよ」


 レートの低いこの店に来ていると言うことは、まだ借金を返しきれていないが我慢できなくなって来たのだろう。

 

「ぜ~ったいアークにお金貸しちゃ駄目だからね」

「分かってるだよ。エネカ姉にも言われただ」

「清髪剤の好評を聞きつけて、エネカちゃんにお金借りようと店に行ったらしいしね。ヨコが清髪剤に関わっていることは言わない方がいいわね」

「そうだべな」


 闘技大会でアークにギャンブルで勝つために八百長をさせられそうになっただけに、オリアの言葉に賛成するヨコヅナ。


「だからありえないだろ、こんなこと!」

「同じ数字が連続で出ることはありえることです」


 まだディーラーとを言い合っているアーク。


「……止めなくて良いんだか?」

「正直、あれと知り合いだと周りに思わるのは嫌ね」

「あーしが行って来るっすよ」

「待って、エフが行くことじゃないわよ」


 エフに言葉巧みに客を諌めるような話術はない、行かせれば余計騒ぎが大きくなりかねない。

 オリアがどうしようかと悩んでいると、一人の男が騒いでいるアークに近づいていった


「おい貴様!そんなに騒いでは他の客や店の者に迷惑だろう」

「あ、誰か止めに行ったっす……でも従業員じゃないっすね」

「あれは!……」

「……奇遇って重なるもんだべな」


 その男もここに遊びに来ていた客のようで、アークの行動を見かねて口を出したようだ。

 オリアはその客に見覚えがあった。そしてヨコヅナにも。


「誰だよお前、関係ないだろ!」

「貴様が騒がしいから迷惑していると言っているんだ」

「この程度ギャンブル店なら日常茶飯事だろ、むしろ…」


 アークは目線だけ上下に動かし男の体型を見る。


「お前の方が通行の邪魔になって他に迷惑掛けてるだろデブ」


 酷い言い様ではあるが、アークがそう言うほどに男は太っていた、通路で立っていたら他の客が通りにくくなるほど幅広な体型をしている。


「何だと貴様!」


 その言葉に怒りを覚え、アークに迫る男。


「やる気かおい!」


 迎えうつ為に身構えるアーク。


「お辞めください!お客様」


 だが、二人が接触する前に制止の声を上げたオリア。


「オリア!」

「オリアさん!」


 オリアの姿を見て動きを止める二人。


「当店では暴力行為は一切禁止しております」

「いや、オリア、これには訳が…」

「違うんです、俺は」

「状況は把握しております。ありがとうございます、。店や他のお客様の事を思って騒ぎを止めようとしてくれたのですよね」


 オリアは男の方を向き笑顔でお礼を言う。


「あ、はい!そうです」


 オリアの笑顔に顔を赤くして嬉しそう答えると呼ばれた男。


「ですが、暴力を行使しては元も子もありませんよ」

「す、すみません。ついカッとなって」

「分かっております……それでお客様」


 打って変わって冷たい目でアークを見るオリア。


「き、聞いてくれオリア、これには理由があるんだ」

「理由とは、ルーレットで同じ数字が連続で出たことですか」


 アークが賭けていたのはルーレット、聞こえていたクレームの言葉からして同じ数字が連続で出たから外れたのだろうが、その程度でイカサマと騒ぐなどバカとしか言い様がない。


「ただ数字が連続したんじゃない。「0」が連続で出たんだ!」


 ルーレットは簡単に言えば0~36の数字を当てるか、もしくは赤か黒かの色を当てるゲーム。

 アークがチップを賭けていたのは数字を当てるのではなく、当たる確率は高いが倍率の低い色を当てる箇所、

 1~36には半々に赤か黒が割り振られているのだが、0には色がない。

 0が出た次ゲームで、アークは大勝負にでて(大勝負と言っても他人からすれば全然たいした金額ではないが)赤に賭けたのだが、また0が出て負けたと言うのがアークの言い分だ。

 しかし、


「それは珍しいですね。で、それが何か?」

「え!?いや、そんなことありえないだろ…」

「ありえます。その程度を、ありえないと言う事の方がありえません」


 確かに0が連続で出るのは珍しいが、店の者からすれば何度も見ている出来事だ。

 

「0の連続が絶対にないと、本気で思っているのですか」


 もしそうなら病院に行くべきだとすら言える。


「いや……そんなことは、ない」


 アークも言いがかりだとは分かっている。ただ、何も自分の時にそんな事が起きなくても、という気持ちを抑えきれなかっただけだ。


「この際クレームの事はどうでも良いの」


 そこで敢えて今までの他人行儀の言葉使いではないく、知り合いの口調に戻したオリア。


「何より許せないのは、他のお客様に酷い言葉を向けた事よ」


 オリアの目はゴミでも見るかのように冷たく、本気で怒っている事がアークにも伝わる。


「うぅぅっ」

「自分がどうすれば良いのか、わかるわよねアーク」


 オリアにそう言われアークはと呼ばれた男の方を向き頭を下げる。


「侮辱してすみませんでした」


 素直に謝罪するアークに対して、


「ああ、良いさ。俺の方こそ始めから強い口調で言ってしまった、すまないな」


 男も素直に謝罪を受け取り、自分にも非があったと謝る。


「ふふふっ、仲直りですね。皆様!お騒がせして申し訳ございません」


 今度は騒ぎで集まっていた周りの客達に向けて謝罪するオリア。


「お詫びと致しまして今居られるお客様には、ドリンクを一杯奢らさせて頂ます!」


 その言葉を聞いて、周りから、「おぉ~!」「ラッキー!」等の声が出る。


「引き続き当店『ハイ&ロード』にて、ごゆるりと遊技をお楽しみ下さいませ!」


 そう言って、騒動を締めくくり、集まっていた客達を解散させるオリア。

 その手際をはたから見ていたヨコヅナは、パチパチパチと拍手しながらオリアに近づく。


「凄いだなオリア姉」


 オリアの対処は以前ヘルシング家でのパーティーの時にラビスが言っていた、騒ぎを鎮める時の正しい対処方法をほぼ出来ている。

 相手が知り合いだったからとは言え、争っていた客同士を仲直りさせ、さらに周りの客にまで配慮を行き届かせたのだ。


「たいしたことじゃないよ」

「ヨコ!?どうしてお前がここにいる?」


 今までヨコヅナの存在に気づいていなかったアーク、と


「ヨコヅナ!?何故ここに?」

「久しぶりだべアーク兄。それと奇遇だべな、


 騒いでいるアークを止めようとし、オリアからと呼ばれているこの男は、

 メガロに同行して朝のスモウの鍛錬に参加するようになった、

 レブロット・ゴン・ドジャーであった。

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