第66話 我の方が先じゃ


「王女がここまで介入してくるとは」


 場所はヘルシング家の書斎、またヒョードルとミューズと爺やの三人は話し合っていた。


「ちゃんこ鍋屋の話はヘルシング家が先だったはずでしょ」

「はい、それはハイネ様にもヨコヅナ様にも伝えておりました」

「では今回の王女の横入りは明らかな横暴よ」


 王女だからといって何をしても良いわけではない、それもヘルシング家のような軍の重鎮となれば尚の事。

 ヒョードルも同じ考えで、当然コフィーリアに抗議に行ったのだったが、


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「報告したとおり、ヨコヅナのちゃんこ鍋屋開業の件は、私の方で全て取り仕切ることになったわ」

「コフィーリア様それはさすがに横暴が過ぎます」

「何故かしら?」

「ちゃんこ鍋屋の話を先に持ちかけていたのはヘルシング家です」

「話は全然進んでいないと聞いてるわよ」

「それでも先に話を通していたのは事実です」

「いいえ、先というなら

「それはありえません。王女がちゃんこ鍋を食べたのは、建国祭の時が初めてだと聞いています。私はもっと前から」

「いいえ、私が先よ。だってヨコヅナはのでしょ」

「っ!?…それは」

「違うと言うなら、建国祭の時に流れた間違った噂を訂正しないといけないわね」

「訂正、と言いますと…」

「ヨコヅナを屋敷に住まわしているのは、私の紹介だからでも、ヘルシング家の意向でもなく、ハイネ自身の好意からだと」

「いや、それは…………分かりました、ちゃんこ鍋屋は王女にお任せします」

「ふふっ。投資してその割合の利益を得たいというのであれば交渉には乗るわよ」

「……投資はさせていただきます、ですが利益は要りませんので一つ要望を聞いていただけますか…」

「何かしら?」

「ちゃんこ鍋屋の建物には、ヨコヅナ君が生活出来る環境を用意して頂ければそれだけで」

「従業員が住み込める用途にする予定はあるわ」

「それでしたら」

「でもヨコヅナはそこに住まないわよ。ハイネの屋敷から通うことになるわ」

「しかし、それでは不便かと…」

「通いやすいように配慮するし、ヨコヅナは料理人ではないから毎日通う必要はないわ」

「どういうことですか!!」

「っ!?何よ、いきなりびっくりするわね」

「申し訳ありません。ですが料理人ではないとはどういうことですか?ヨコヅナ君しかちゃんこ鍋を作ることは出来ないのですよ」

「知っているわ」

「作り方を知らないという意味ではありません。同じ食材、同じ手順で作っても、同じちゃんこ鍋は作れないのです!」

「それも知ってるわ。少し落ち着きなさい」

「申し訳ありません」

「宮廷料理人だった者がヨコヅナの弟子になって、ちゃんこ鍋の作り方を学んでいるわ」

「何故宮廷料理人が?」

「あなたと同じようにちゃんこ鍋に惚れ込んでしまったからよ」

「なるほど。見込みのある料理人ですな」

「…店でおもにちゃんこ鍋を作るのは彼。開店初日からしばらくは屋台でちゃんこを食べた人達に、同じものだと思ってもらえるようにヨコヅナにも厨房に立ってもらうけどね」

「………わかりました。先ほど申しましたとおり投資はさせていただきます」

「あら、良いの?」

「はい、美味しいちゃんこ鍋が食べれる。それだけでも投資する価値がありますから」


__________________________


「ヨコヅナ君がハイネの屋敷に住んでいるのは王女の紹介だから、とさせて貰っている恩がある。ここは譲るしかない」


 ヒョードルがコフィーリアとの会話を思いだしそう言う。


「ではどうすれば良いの?お見合いも全て断ったのでしょ」

「私が至らないばかりに申し訳ありません」


 女性の紹介を出来るだけ早く進める為に、いきなりお見合いという形式にしてしまったことを悔やむ爺や。

 まずパーティーなどでさりげなく紹介し、後日に「また会いたいと申しています」という理由でお見合いをするという方法をとっていれば成功していた可能性があった。


「他に何かいい策はないの?」

「お見合いの件でハイネ様が警戒している為、日を空けなければどうすることも…」


 さすがの爺やも打つ手がなくなってしまったこの状況。

 

「策はないこともない」

「本当あなた!?」

「直接出て行ってもらう策ではないのだが…」


 ヒョードルには打開策が一つだけあった。

 公私混同になってしまう為、本当は使いたい策ではないったのだが状況的に仕方ない。


「ハイネに軍を率いて各地を回ってもらう」


 ヒョードルの策とはヨコヅナに出て行ってもらう事が出来ないのであれば、ハイネにしばらく王都から離れてもらうということだ。


「建国祭で私の病気が直り、復帰できることは知らせることは出来たが、それでも参加できなかった土地では不安が残る者もいるだろう。それを解消するためと、この期によからぬ動きを見せている他国に対しての示威行為も含めた役目をハイネに任命する」


 公私混同と言ってもこれはやって然るべき軍としての仕事であり、ヒョードルの娘であるハイネが適任であるのも間違っていない為、誰も文句は言わないだろう。


「軍を率いて王都を出るのは心配だけど…」

「戦に行くわけではない、安心して待っていられる」

「そうね」

「ハイネ様が王都を離れている間にとなりますと、尚の事納得できる理由でなくてはなりませんね」


 留守の間にヨコヅナを屋敷から無理に追い出す真似をすれば、今度こそハイネの怒りが二人に向くことになるだろう。


「その辺はハイネが王都を出るまでに考えておくしかないな」


 繰り返しになるが決して三人はヨコヅナを嫌っているわけではない。

 爺や達の報告でヨコヅナは依然ハイネに手を出す様子はないと聞いている。逆に言えばだからこそ追い出すことが困難とも言えるのだが、

 ミューズも爺やの人を見る目が確かなのはわかっているので、その点はもう心配してなかった。

 ヒョードルなど勢い余ってニーコ村に帰ると言われたら困るので、違う意味で真剣だ。


「話は変わるが爺や、ちゃんこ鍋屋の開店はいつになるか知っているか?」

「まだ確定はしておりません。私は深く関与しておりませんが、早急で進めてる様子ですのでそう遠くないかと…」

「そうか。分かりしだい連絡を頼む」

「承知いたしました」

「それとだなちゃんこ鍋屋のことで……」


 その後の話の内容は、王女に任せると言ったはずのちゃんこ鍋屋についてになってしまった。

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