第49話 本当に会いたいと思った者もいたのではないかの


「どうしてですか!?容姿も家柄も良い女性が何人も…」


 ヨコヅナの予想外な拒絶に動揺する爺や。


「そういうのは関係ないだよ、むしろそんな良い女性にオラなんか紹介したらがっかりされるべ」


 爺やの計画は概ね正しかった。

 ヨコヅナが乗り気ならハイネは止めたりしない。

 ヨコヅナも年頃の男だから興味もある。

 お見合いが少しでも進展すれば、屋敷をでることを二人共納得していたはずだ。


「そんなことはありません。相手の方から会いたいと」

「違うだよ」


 ヨコヅナは首を振って爺やの言葉を遮る。

 、女性の紹介の仕方をお見合いという形式にしたこと。

 そのせいでヨコヅナに政略結婚という言葉を思い浮かばせてしまったことだった。


「それは親の指示だったり、ヘルシング家の紹介だから会いたいのであってオラに会いたいわけじゃないだよ」

「それは…」


 違いますとは言えなかった。

 経験から色々なことを知っている爺やでも当然価値観の違いというものは存在する。

 爺やにとって政略結婚は当たり前であり、それが悪いものだという認識はない。

 だがヨコヅナにとっては違う。

 地方の村でも政略結婚は存在するが、ニーコ村では愛していない者同士が親の命令で無理やり結婚させられるという印象が強かった。

 またヨコヅナ個人の話になるが、二人の姉貴分による影響が大きい。

 子供の頃、姉達が好きだった物語にこんなのがあった。


 とある平民の少女の話。

 少女の家は裕福ではなかったが、美しい容姿と明るい性格から皆に慕われていた。

 だが親の命令で醜悪で歳の離れた悪評の多い貴族と政略結婚させられることとなる。

 少女には想いをよせる少年がいたが、二人は引き離され、クズ貴族のもとへ。

 しかしクズ貴族にひどい目に合わされそうなタイミングで少女が想いを寄せていた少年が助けに来る。

 その少年は実はお忍びで街に遊びに出ていた王子。

 クズ貴族は今までの悪事の証拠を突きつけられ王子に死刑を宣告される。

 そして少女は王子と結婚し幸せになりましたとさ。


 この物語が好きだった二人は政略結婚なんて絶対嫌だと言っていた。

 物語は創作であるし、たった二人の女性の意見なのだが、

 ニーコ村という小さな世界で生きていたヨコヅナに、若い女性は政略結婚を嫌がるという印象を植え付けるには十分であった。


「オラは自分が女性にモテないのは分かっているだよ」


 醜悪と言われる程とは思っていないし悪事など働いた覚えもないが、状況的に自分がグズ貴族役だ。


「だからそれを気遣って相手を紹介してくれるのは嬉しいだが、お見合いはお断りしますだ」


 ヨコヅナははっきりと言い切った。


「オラはオラを見て一緒に居たいと言ってくれる女性を自分で探すだよ」


 爺やもヨコヅナの言っていることは分からなくはない、これもまた若い者の考えだ。

 もちろん政略結婚だからといって、愛し合っておらず幸せになれない等ということはない。

 ヒョードルとミューズも分類するなら政略結婚だが、会った時から惹かれあっていたし今でも夫婦円満だ。


「…会って頂ければきっと」


 しかし説得する時間はない。


「もうやめろ爺や」


 ヨコヅナがここまで拒絶する以上ハイネも反対するからだ。

 

「父上達はヨコヅナがモテないと思ってこれらを用意したのか、だとするなら…」

「そんなことはございません」


 反対するだけでなく、明らかに怒りを感じているハイネ。

 思惑があるにしろ善意からお見合い相手を用意したのだが、この行為は裏を返せば、

「田舎者で容姿も良くないお前は恋人なんて見つけれないからお見合いさせてやるよ」という侮辱する行為にも思える。

 そのことを察し爺やは直ぐに弁明する。


「ヨコヅナ様の幸せを思ってのことであります。なにより旦那様達に提案したのは私でございます」

「爺やが?それはどういう了見だ」

「はい、私は、いえ私だけでなくヘルシング家に仕える者は皆旦那様を救って頂いたヨコヅナ様に感謝しております。ハイネ様のようにヨコヅナ様の王都での生活をサポートできればと考えたところ、私は古い人間な為、良き伴侶を娶ることが幸せな生活をおくる重要な要素を思い、ご提案させていただい次第でございます」


 爺やは間違ってもヒョードルとミューズにハイネの怒りが向かないよう、自分に責任があると嘘でもない理由を捲し立てる。


「父上達や爺やが良い女性と思ってもヨコヅナにとっての良い女性でなければ意味がないだろ」

「おっしゃる通りでございます。申し訳ございませんヨコヅナ様」

「いや、誤るようなことじゃないだよ、爺やさんもオラのことを思ってやってくれたことだし…」

「ふん、どうだろうな。あまりにも急過ぎる話だ。裏があるように思える」

「滅相もございません」


 裏は有りありで図星をつかれたのだが、そんなことは微塵も表情に出さない爺や。


「先方には爺や自ら足を運んで謝罪にゆけ」

「承知いたしました」

「はひへはほいあいほはせふほあ?」


 悪い雰囲気が漂いそうなところにカルレインの言葉がハイネに向けられた。

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