第22話 クライマックスじゃぞ
『さぁ~!いよいよこの王都闘技大会もクライマックス!!波乱万丈な数々の死闘が繰り広げられました!それも次で最後!!』
決勝戦でさらにヒートアップするステイシーの実況。
『誰がこの二人の戦いを予想したでしょうか!!決勝戦の選手の入場です!!!』
実況に呼応するように観客から割れんばかりの歓声が会場に響き渡る。
『西方より登場するは!剛力無双にして不倒不屈!スモウという一子相伝なる格闘技を受け継いたニーコ村の怪物!ヨ コ ヅ ナ~!!!』
「……怪物は酷くないだべか」
『つづいて東方より登場するは!荒唐無形にして外弱実強!今大会最大の大番狂わせを起こした謎の鬼才少年!ト ー ヤ~!!!』
「……少年」
『誰も予想し得なかった組み合わせでの決勝となりましたが、どう見ますか姫様?』
『そうね……見た目から体格を活かして捕まえればヨコヅナ、速さを活かして離れて戦えばトーヤと言いたいところなのだけれど、ここまでの試合からそんな単純な予想は出来ないわ』
『両選手共に体格に見合わぬ速さ、力を持ち合わせていますからね』
『唯言えるのは、二人共判定狙いをするような選手ではないわ。つまらない試合にはならないでしょう』
『確かに!王都闘技大会の最後を飾るに相応しい試合になる事を期待しましょう!!』
闘技台の中央で審判の説明を聞く二人。
対面して見比べると身長は頭二つ分以上、体重にいたっては3倍以上の差がある。
ただそんなことでは試合の結果が予想出来ないことは既に観客の皆が理解している。
会場中の関心が集まる中ヨコヅナは一抹のやりにくさを感じていた。
優勝候補と言われていたダンバートを圧倒する姿を見たとはいえ、見た目子供の相手に攻撃はしづらい。
「…おい」
そんなヨコヅナの内心を見抜いたのか、
「本気で戦えよ」
トーヤの冷たく切り裂くような声。
「それはオラが決めることだべ」
「……あっそっ!」
「!?」
返答が気に入らなかったのか、トーヤがヨコヅナの目に向けて指を突き出してきた。咄嗟に顔の前に手あげて防ぐ。
「何をやっている!やめろ!」
審判が説明を中断して間に入る。
『おぉ!?開始前なのに手を出したトーヤ選手!決勝だけに興奮しているのか?』
『そんなタマじゃないわ。ただの挑発よ』
『過激なことしますね…』
『そうでもしないと本気にならないとでも考えたのでしょ』
「次やったら反則負けにするからな」
「……」
審判の注意を適当に聞き流すトーヤ。
説明が再開される中、
「君は何のために出場してるだ?」
ヨコヅナは準決勝の時と同じ質問をトーヤにする。
「……暇だったから」
「そ、そうだべか」
「両者開始線へ」
審判の説明が終り、二人が開始線に着く。
「はじめ!」『ドドンッ!!』
『闘技大会決勝が!今開始されました!!』
ヨコヅナは今まで以上に強く四股を踏み、手合の構えをとる。
開始前の挑発のせいか、構えから見て分かる力強さに手加減する気配は一切感じない。
対してゆっくりと前に出るトーヤ。
『トーヤ選手まるで散歩でもしているかのように歩いて近づいていく』
『さて、どうするのか見ものね』
歩く速さを変えることなく、ヨコヅナの間合いに入るトーヤ。
ブチかましに動くヨコヅナ、だが素直に当たるとは思っていない。右か左か、避けらるだろうと考え変化に対応出来るように備える。
しかしトーヤがとった変化は自ら後ろに倒れるというものだった。
頭の上で床に手を付き、ブリッジの姿勢でブチかましをかわすトーヤ。
そのまま足を引き付け逆立ちをするように上を通るヨコヅナの顎を両足で蹴り上げる。
『トーヤ選手いきなりアクロバティックな攻防一致技!!』
『……でも防いでいるわ』
右でも左でもなく下に避けるという予想外の変化であったが、準決勝を見ていたおかげで腕での防御が間に合ったヨコヅナ。
すかさず捕まえようとするが、トーヤは床に伏せ、身体をひねって回転する。
「おうっ!?」
『なんだ!?トーヤ選手駒のように回転しだした』
『ダンスにあんなのあるわね』
トーヤはまるでブレイクダンスのように床で回転する。
その異様な動きを見て隙が出来たヨコヅナに遠心力を生かし踵で蹴り込む。
『強烈な蹴りが腹に突き刺さった!!』
『……蹴りたくなるお腹なのはわかるけど』
蹴りを無防備に受けたにも関わらず、すぐさまを足首を掴んむヨコヅナ。
『まるで効いていない!?』
『あのお腹に打撃は通用しないのかしらね』
『デブのお腹へ攻撃は効きにくいと?』
『怠惰による弛んだ肉ではなく、鍛錬で培われた張りのある肉だからこそよ』
「回りたいなら手伝ってやるだよ」
『足を掴んだまま今度はヨコヅナ選手が駒のように回りだした!!』
当然足を掴まれているトーヤは振り回されることになる。
ブゥンッ!ブゥンッ!と豪快な回転に、
「あはっ、ははははっ!!」
振り回されてるのにも関わらず楽しそうにトーヤは笑う。
十分勢いがついたところでヨコヅナは足首から手を離して放り投げる。
『飛んだ~!これは大きい!!』
『場外ホームランかしら』
飛ばされた勢いは
トーヤは空中で回転して向きを変える。
そして、パンッ!と破裂音が鳴った後、飛ぶ勢いがなくなり闘技台際に着地する。
『何が起こったのでしょう?破裂音がしたかと思ったら失速して場外まで届きませんでした!』
『空中を蹴って勢いを殺したようね』
『そんなことが出来るのですか!?』
『尋常じゃない蹴速があればね。何もないところを蹴って破裂音を鳴らせるほどの』
開始早々目の離せない攻防に観客達も盛り上がる。
そんな中ゆっくり歩いて中央付近に戻るトーヤ。
「今のはちょっと楽しかった」
「別に楽しませる為にやったわけじゃないだよ」
「だったら次は僕が楽しませてやるよ」
そう言ってトーヤは助走をつけて跳ぶ。
『トーヤ選手高く跳び上がった!』
その高さは長身のヨコヅナの頭を余裕で越していた。
試合のさなかに高く跳ぶ行為は本来悪手となる。
空中では攻撃を回避できない。トーヤが先のように勢いを殺したり、多少起動を変えたり出来たとしても限度があり自由に飛べるわけでない。
トーヤはヨコヅナを上から踏みつけるような位置で降下する。
ヨコヅナは十分引き付け回避が出来ない間合いで捕まえる為に手を伸ばす。
そこでトーヤは蹴りを出す、ヨコヅナの手に向けて。
「くっ!?」
トーヤはヨコヅナの手を蹴り弾き、逆の足で頭部を踏みつけ、その反動を使ってまた跳ぶ。
ヨコヅナは再度手を伸ばすがそれも蹴り逸らされ逆の足で踏まれる。
トーヤの真上からの蹴りが終わらない。
『なんと!?トーヤ選手空中で蹴り続けている!?ヨコヅナ選手を踏み台にして落ない!!』
『相手の動きを見切る目と力が乗る前に迎撃出来る速さ、さらに驚異的なバランス感覚あってこその技ね』
スモウにおいて真上から攻撃されることなど無いため、対抗策としては張り手で打ち落とすぐらいだが、それも力が乗る前に蹴りで弾かれる。
「あはははっ、楽しいな!」
「オラは全ぜ ぶへっ 楽しくなん がはっ ないだよ」
トーヤは楽しそうに笑っているが足蹴にされ続けているヨコヅナが楽しいはずはなかった。
ヨコヅナは一旦攻撃を諦め、腕を頭の上で交差させて防ごうとするが、隙間を縫うように蹴られ続ける。
速さとバランスを意識するため体内魔力での威力増加はないが、全体重が乗ってるだけに数を喰らえば効いてくる。
『ヨコヅナ選手の膝が徐々に落ちていく!このまま倒されてしまうのか!!?』
ヨコヅナの膝が徐々の落ちていく。
トーヤはもう一押しと、全力で踏み蹴るために足を引き付ける。
その一瞬の間をヨコヅナは狙った。
膝が下がった状態から立ち上がるように踏みつけてくる足に向けてブチかまし。
足の裏にブチかましを喰らったトーヤはその反動で後方へと跳ぶことになったが、空中で体勢を整え足から着地した。
「…痛いな」
ブチかましを喰らった足をさするトーヤ。
『終わるかと思われたヨコヅナ選手!なんと踏みつけてくる足をブチかましで迎撃!綺麗に着地したトーヤ選手だがどうやら足を痛めたようだ!』
『普通あんなことをすれば、ヨコヅナの首も無事では済まないはずなのだけれど、どれだけ頑丈なのかしらね』
「オラも痛いだよ」
心外だとばかりにつぶやきながら、ヨコヅナは首を傾けコキコキ鳴らし、具合を確かめる。
「次はオラから行くだよ」
『ヨコヅナ選手が前に出る!』
勢いを付けた大振りの張り手、それをトーヤは難なくかわす。
だがヨコヅナは距離を開けず準決勝で見せた速さ重視の連続張り手を繰り出す。
『トーヤが足を痛めたのを見て勝負所と判断したようね』
「くっ」
連続の張り手をかわしてはいるが足を痛めた為か、動きが鈍いトーヤ。
そこにヨコヅナの足払い。
「ま、まずい!」
床から足が離れたトーヤの体へ張り手を叩き込もうとするヨコヅナ。
「な~てな」
「がはっ!?」
張り手が当たるより先にトーヤの踵がヨコヅナのこめかみを捕らえる。
『足払いの反動を使って後ろ回し蹴りにつなげた!?』
『なんと!!果敢に攻めていたヨコヅナ選手に強烈なこめかみへのカウンター蹴り!さすがのヨコヅナ選手もぐらつく!』
「そろそろ終わらせるか」
トーヤの今まで以上にデタラメで速い突きや蹴りの連打。
『速い!速い!何をしているのか実況が追いつかない程の連続攻撃だ!!』
『デタラメなだけに予測しづらく、防御も追いつかない』
『足を痛がっていたのはブラフだったのでしょうか?』
『いいえ、おそらく長引けば不利になると考え勝負を決めにきたのよ』
コフィーリアの言葉は当たっていた、トーヤの体がぶれて見える程の速度は足に大きな負担をかけていた。
長く続けれるものではない。
身を固めて耐えるヨコヅナ、連撃でありながら一撃一撃が骨に響く程重い。
しかし受ける覚悟をして体に力を込めればヨコヅナなら耐えられた。
このままトーヤが動けなくなるまで耐えるというのもひとつの手段ではあった。
「でも、それは
攻撃を受けながらも張り手を返すヨコヅナ。
トーヤは張り手をかわしながら的確で強烈なカウンターをヨコヅナに喰らわせる。
自らも前に出る分、ただ拳を喰らうだけよりもダメージは大きい。
だがヨコヅナは張り手を打つのをやめない。
『壮絶な打ち合いになった!!しかし攻撃を受けているのはヨコヅナ選手だけだ!』
『あの張り手を一撃でも喰らえばトーヤは終わるわ、それだけの力がこもっている』
「あはっ、あはははっ!、やっぱりお前は、殴りがいがあるな!」
その笑声はヨコヅナを嘲笑うようなモノではなく、心底楽しそうに笑っていた。
痛めた足は限界が近かったがそんな痛みも忘れてさらに速度を上げる。
意地の比べ合いのような打ち合いがどれだけ続いたか。
『ヨコヅナ選手の手が出なくなってきた!さずがに限界か!?』
『……(何かを狙っている?)』
コフィーリアはヨコヅナの目の力がむしろ強まっていることに気づく。
ヨコヅナが突如両腕を大きく広げる。
そして両手でトーヤの頭を挟むように掴みに行く。
一見ヤケになったのかとも思えるような行動。
トーヤは頭を引いてその手を紙一重でかわす。
だがその紙一重の回避がアダとなる。
ヨコヅナは掴もうとしたのではない、掌を合わせて叩くが目的だった。
トーヤの顔前で爆発を思わせるようなの轟音。
【猫だまし】、突飛な行動と音で相手の動きを止めるスモウの戦法の一つだ。
トーヤの次への反応が一瞬遅れる。
「捕まえただよ」
ヨコヅナの手がトーヤの服を掴んでいた。
『劣勢だったヨコヅナ選手、顔前で掌を叩くという奇策でトーヤ選手の服を掴むことに成功した!!』
『あんな方法で破るなんてね』
すかさず投げの態勢に移行するヨコヅナ。
本来スモウに上着を掴んでの投げ技はないが、掴みを変ている間はない。
トーヤ程小柄な相手なら関係ないと判断し、足を掴んだ時のように投げ飛ばすのではなく、床に叩きつけるような投げにいく。
しかし、ビリッ!…
布の破れる音と共にヨコヅナの手に伝わるトーヤの重みが消える。
『服が破れた!?幸運に投げを回避したトーヤ選手!!』
狙ってやった事ではなかった。古くなっていた上着が投げに抵抗するように力を入れたことでたまたま破けたのだ。
「今のは危なかった」
距離を取り、破れてボロボロになった上着を脱ぎ捨てるトーヤ。
「続け……どうした?」
そんなトーヤを見て、目を見開いて固まっているヨコヅナ。
「……君、女の子だったべか?」
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