第174話 エピローグ
十の柱が集う、神達による集会。此度の争奪戦ではもう何度も開催されているが、そんな集まりも残り少なくなった。何せ、残った神の駒は『創造』に『秩序』、そして現在の最高神である『原初』の三つだけとなったのだ。佳境に差し掛かっているのは、言うまでもない事だろう。次なる神のトップが決まるかもしれないこの重大な場面、仮に最上位の神が入れ替われば、世界の運営の在り方自体が変化する可能性もある。となれば、既に敗退してしまった神達も決して無関係ではいられない。荘厳な神達が多少浮足立つのも、ある種仕方のない事だった。
「皆さん、御集りのようですね。では、そろそろ定例集会を始めましょうか」
「「「「「………」」」」」
ただこの場合、本来のそれとは違った意味で、恐れや不安を感じているのかもしれないが。いつもと百八十度ほど恰好と雰囲気が異なる『創造の神』を目にして、殆どの神達は目を点にしてしまっていた。
「……おい、アレ誰だよ? 駄目だろ、十神以外をこの場に入れたら」
「えらい別嬪さんじゃのう。ちょっちワシ、声を掛けてみても良いかの? 道を教えるついでに、食事に誘えるかもしれん……!」
「待った待った、『魔導』さんは下心が見え見えで駄目だよ。ここは私に任せてもらおう。この名に刻まれた『海』の如く、広い器で彼女を支えてみせるからさ」
「いや、それも待った方がいい。我の見立てが間違っていなければ、アレは…… 『戦』の、どう見る?」
「……恐らく、『隷属』のその見立ては合っている。この程度の事、と言って良いのかは分からんが、今に至って心を乱してしまうとは、俺もまだまだ未熟だな」
「えっ? えっ? ど、どういう事だい? 二人とも、彼女が誰なのか知っているのかい? ……あとでこっそり紹介してくれない?」
「ワシも! ワシもッ!」
「「………」」
「あー、そういう……」
どうやら少し前にウィルにそうしたように、『創造の神』はこの場においても偽りの清楚モードを演じるつもりのようだ。『魔導の神』と『海の神』はすっかり騙されており、微塵も彼女が『創造』だとは思っていない。ファーストインパクトで面食らった『隷属の神』と『戦の神』は少ししてから察し、『大地の神』も今は真実を理解した様子だ。
そんな中、困惑する面々とは少し異なった反応を示す者達が居た。『秩序の神』、『宙の神』、『原初の神』の三名である。『秩序』は何かを懐かしむように、『宙』はあからさまに怒気を発し、『原初』は無反応を貫いていた。
「……『創造』、貴様ドウイウツモリダ?」
そんな三人の中で最初に言葉を発したのは、先の争奪戦で敗者となった『宙の神』だった。ただならぬ『宙』の様子に、他の神々が何事かと視線を向ける。
「「そ、『創造』!? どういう事なの(じゃ)!?」」
「はいはい、エロ爺もジェネリックジモルも今は空気を察しろって」
視線だけでなく大声まで向けてしまった『魔導』と『海』は、様々な観点から一時的に別室行きとなってしまう。退室する最後の最後まで、二人は“ええ、アレが『創造』……!?”という驚愕の表情を浮かべていた。
「エロ爺の何が悪いんじゃッ!? 人も神もエロスなしでは生きていけんのじゃッ!」
「いや、ジェネリックなのは向こうの方だからねッ!? 年齢的にも私がオリジンッ!」
……最後の最後の最後に、そんな叫びも上げていた。
「どういうつもりと言われましても、質問の意図が分かりませんね。私は私なりに、神の長に相応しい振る舞いを心掛けているだけですよ?」
「何ヲ今更ッ……!」
退場した二人のやり取りを無視するが如く、元のシリアスとした雰囲気が突発開催される。あまりの温度差の違いに、神々はもう風邪を引いてしまいそうだ。
「えっと、『創造』さんも『宙』さんも、一旦落ち着きましょう。誰がどのように振舞おうと、それは各神の自由です。今のところ『創造』さんの振る舞いに問題はありませんし、いつもの調子と比べれば、進行役としては有難いくらいですよ。そうですよね、『原初』さん?」
「左様、見た目の変化など些事に過ぎん。『宙』も皆も、あまりに過度に反応するな。時間の無駄だ」
「……フン」
「………」
未だ納得はしていない様子だが、『宙』もこれ以上事を荒立てるつもりはないようだ。『創造』もいつもの調子であれば、この時点で嫌味の一つも言っているところだが、今のところは演技を貫いている。
「ははは…… さて、本題に入りましょうか。先の戦いで『宙』さんが敗れ、いよいよ残りは三名となりました。次の最高神の候補は現職の『原初』さん、自称大穴の『創造』さん、そして僕の中から選ばれる事になります。漸くここまで来ましたね」
「ええ、本当に漸くです。漸く『原初の神』の駒を相手取る段階にまで至れました」
「余を? 随分と気が早いのだな、『創造』よ。まさかとは思うが…… 貴様と『秩序』の駒は手を組んでいる。故にこれ以上の潰し合いは起こらず、余の駒が現れるのを待つだけだと、そう言いたいのか?」
「フフッ。だとすれば、どうです?」
「浅はかな考えとしか言えんな。前にも宣言した筈だ。余は余の駒と戦うに相応しい挑戦者を待っておるのだ。余の駒を除く全ての駒に打ち勝ち、勝者として最も強化を施された、そんな挑戦者をな。同盟を組んでいるからと言って、この理を違える事はまかり通らん。尚もその考えを続けるのであれば、余の駒はいつまでも現れる事はないだろう」
「それは困った事になりますね。一向に勝負がつきません」
「いいや、たとえ同盟を組んだ上での時間稼ぎをしたところで、いずれ勝負はつく。寿命という決着がな」
神の駒となりその力を授かったと言えど、ウィルとジークは人間だ。不死でなければ不老でもなく、他の生物と同様に歳を取っていく。極端な話、時間稼ぎを百年も続けていけば、どんなに長生きしようとも老衰は免れない。一方、まだ姿を見せていない『原初』の駒が人間である保証だってないのだ。『原初』の言う通り、我慢比べをするには分の悪い賭けとなるだろう。
「しかし、そのような決着は余も望んではいない。『創造』、『秩序』、僅かな可能性に勝利を見るのであれば、潔く戦うがよい。そして決めるのだ。余の相手に相応しいのは、どちらの駒なのかをな」
「……ふう、全く。口車に乗せるのが上手くなりましたね。昔はあんなにも可愛らしい、無垢な少年であったと言うのに」
「「「「「ッ!?」」」」」
斜め上から飛んで来た『創造』の言葉に、他の神々がとんでもない衝撃を受ける。次元の狭間から覗き見していた『魔導』と『海』も、反応の仕方は皆と一緒であった。
「よろしい。ならば、貴方の我が儘にお付き合いします。そして在りし日の頃にように、その上で教育して差し上げましょう」
「随分な自信だな? だが、やはり気が早い。『秩序』の駒は強力だ。同盟を取り止める以上、むしろ潰されるのは『創造』、お前の駒の方かもしれんぞ?」
「ご心配してくださり、ありがとうございます。ですがご安心を、勝負にすらなりませんよ。むしろ貴方が心配すべきは、近々その席を失う事ではないでしょうか? 引き継ぎは丁寧にお願いしますね?」
「ほう……!」
「……フフッ」
激しい口撃の末、バチバチと視線で火花を散らす双方。そんなバチバチな二人に挟まれて尚、なぜか『秩序』は、どこか懐かしそうに顔をほころばせるのであった。
「……なあ、『秩序』ってまさか、そういう気があるのかな? 何か凄く嬉しそうにしているよ?」
「ひょっとしたら、ひょっとするのかもしれんのう。所謂アレというものじゃ、そう、マゾヒ―――」
「―――そこの別室組、後でお話があります」
「「ひえっ」」
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