第133話 エピローグ
十の柱が集う、神達による集会。もう何度目かになるそれは、争奪戦による敗者が発生した事により今回も開催される事となった。
「あっれー? おっかしいなぁ? いつも私より早くに来てる、『慈愛』ちゃんの姿が見えないなぁ? ねえねえ、『原初』は何か知ってる~?」
この集会において遅刻する事が常態化していた『創造の神』が、今日は珍しく時刻通りに到着し、わざとらしくそんな言葉を口にした。『秩序の神』などは「またやってるよ」と、大きな溜息をついている。
「……此度の争奪戦で、自らの駒が秘宝の破壊という蛮行に及んでいた事を、『慈愛』は知っていた。知っていた上で、我々に情報を共有しなかった。本来それは不測の事態に備え、我々神の全員に共有されねばならぬ事だというのに、だ」
「うんうん、そうだよねぇ。マジで乱暴で野蛮な行いだったもんねぇ。こわーい」
ニヤニヤ顔が止まらない『創造の神』。いつもは怠惰に座っているだけなのに、今は自分の柱の上でステップまで踏んでいる。こいつ本当に嬉しそうだな。と、神のうちの何柱かがそう思った。
「更に、その上で『慈愛』は敗北した。奴には神を束ねる素質がないものとし、十神から降格させる。 ……これで満足か、『創造』?」
「モチのロ――― いやいや、何を言っているのさ、『原初』? 私は同胞の身を案じて悲しんでいたところなんだよ? 満足も何も、涙が止まらないよ!」
それはきっと嬉し涙と笑い泣きなんだろうな。と、全ての神がそう思った。
「まっ、終わった事をこれ以上とやかく言っても仕方ないよね。さあ、これからは未来の話をしよう! 具体的に言えば、今回も争奪戦に勝ってしまった私の話を!」
「『創造』さん、お言葉ですが、勝ったのは僕の駒も一緒ですからね? それに―――」
「―――それに、『
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気から一変して、『創造の神』は真面目な顔を作っていた。そして、彼女は見る。彼女から対角線上に位置する柱、そこに座する仮面を被った神を。
「……何ダ、モウ知ッテイタノカ。私ガ『戦』ト『大地』ヲ破ッテイタ事ヲ」
「相変わらずキャラの濃い格好に喋り方だね、『宙』君。まあ、私はこれでも情報通なところがあるし? 知っていて当然みたいな?」
「あ、その情報をここに来る前に教えておいたの、僕ですからお忘れなく」
「ちょっ、『秩序』君!? 同盟相手、君の駒の同盟相手だよ、私!?」
まさかの裏切りに、『創造の神』が慌てふためく。こうして、彼女のシリアスな仮面はいとも容易く崩れ落ちるのであった。
「コホン! にしてもさ、『戦』も『大地』もちょっち不甲斐ないんじゃないかなぁ? 『秩序』君の話によれば、二陣営がかりで『宙』君と戦って、ボロ負けしちゃったって? おいおい、『戦』という武闘派の名が廃るよ~? 『大地』に関しては、全然良いところがなかったんじゃない?」
「ったく、てめぇは直ぐに喧嘩を売るな…… まあ、言い訳はしねぇよ。負けは負けだ」
「右に同じく。それ以上の言葉は持たん」
武士のような格好をした中年男と、筋肉がパンパンに膨れ上がった巨人が、『創造の神』の言葉を上手く受け流す。『慈愛の神』でもあるまいしと、そもそも彼女と口喧嘩をする気はないようだ。
「はいはい、喧嘩を売るのはその辺にしておいてくださいね。では、改めて話を整理しましょう。現在における争奪戦の生き残りは僕と『創造』さん、『宙』さん、そして『原初』さんの四名です。位置的には僕と『創造』さんの駒が間近、『宙』さんはそこから星の逆側に陣取っています。まあ『原初』さんに至っては、まだ姿も現していない訳ですが」
「はーい。ご苦労様だね、『秩序』君。『原初』~、君はまた最後の最後に漁夫の利を得ようって算段かい? 毎度の事ながら、神様の頂点としてそれはどうかと思うんだけどな~?」
「ほう、今度はこちらを標的にする気か? だが『創造』よ、それは解釈がそもそも異なっている」
「ふぇ?」
「余は漁夫の利を得ようとしているのではない。相応しい挑戦者を待っているのだ」
「わあ、物は言いようじゃ~ん……」
しかし、『原初の神』も間違った事を言っている訳ではなかった。他の駒の秘宝を奪取すれば、それだけ駒の能力は強化される。最後にまで残った駒とはつまり、能力を最上位にまで進化させている事を示すのだ。その者は現在の主神たる『原初』の駒に挑むに相応しい、最強の挑戦者と言えるのかもしれない。
「……『創造』ノ肩ヲ持ツ訳デハナイガ、『原初』モソウ油断デキル立場デハナイゾ。私ノ駒ハ、既二『原初』ノ駒ヲ捉エルダケノ
「フッ。『宙』よ、今日は随分とお喋りのようだな。ならば試してみるといい。本当に捉える事ができるのであれば、な」
「……面白イ」
その直後、『原初の神』と『宙の神』の間で、火花どころでない熾烈な視線のぶつけ合いが発生。空間が歪み、概念が崩れ始める。
「ちょっとちょっと! こんなところで喧嘩しないでくださいよ! 『秩序』の名において、神同士の直接的な争いは許せません!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 良いぞ~、その調子で潰し合え~。あ、でもちょっと待って! 今、コーラとポップコーン持って来るから! 準備が整ってから押っ始めて!」
「『創造』さん!?」
今日も今日とて神達は纏まりに欠け、『秩序』の胃はダメージを負う。いつも通りの流れだ。しかし、争奪戦は着実に終盤戦へと移行していた。
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