第116話 迎撃の備え
「バルバロ姐さん第一の部下にして、百発百中の凄腕狙撃手、ブルローネだ! 姐さんの為に力になってやるけど、別にアンタらの仲間になったつもりはないから! その辺、勘違いしないでよね!」
「お、おう……」
ジークとの会談の諸々が終了し、島で皆と情報共有を行う――― 筈だったのだが、なぜか見知らぬ少女がそんな自己紹介(?)をかましてくれた。勘違いって、一体いつの時代のツンデレだ。いや、この世界の場合は最先端を、むしろ未来に生きているのか? って、そうじゃないそうじゃない! 突発的な出来事だったので、俺はバルバロの顔を二度見三度見。何、この子? もしかして、ジークが言っていた終身名誉派遣員って、この子の事なのか?
「おい! いくら姐さんが綺麗だからって、そんな下劣な目で何度も見んな!」
「いや、そうじゃなくてだな…… おい、バルバロ」
「ん? ジークからもう聞いてんだろ。まあ、そういうこった。アタシが言うのも何だけど、まあ仲良くしてやってくれよ。言葉遣いはアタシに似て悪いが、性格は真っ直ぐで腕は確かだからさ」
「それはまあ、そうなんだろうが……」
ジークめ、会談が終わって早々に帰って行ったのは、この子を強制的に置いて行くつもりだったからか。戦力が増えるのは有り難い事だけど、まさかバルバロの元部下を、しかも大分彼女に懐いているっぽい少女を寄こすとは。それに―――
「がぁるるるるぅ……!」
―――なんか、ずっと俺の事を睨んで唸り声を上げてるし。今にも噛みついて来そうなんですけど。
「あ、あー…… それじゃ彼女の事も含めて、会談で決めた事を共有しようか。まずは―――」
①この同盟は『慈愛』を協力して倒す事を目的としているが、その後も同盟関係は続くものとしている。具体的には神の駒が俺達と『秩序』のみとなるまで。但し『慈愛』の後は不可侵の関係に近く、必ずしも協力する必要はない。同盟関係が終わる際は再度会談を行い、最後の対決の仕方を決める。
②『慈愛』との戦いでは俺達が敵の侵略部隊を迎撃し、ジークが敵本国を攻めて、神の駒であるアイ・ラヴァーズを倒す算段となる。また、敵の秘宝についてはどの場合も早い者勝ち。十中八九敵の本国内にあると思われるので、これについてはジーク有利の取り決めだ。ぶっちゃけ、本人もそう言ってた。
③ジーク側は友好の証として、
④
⑤その他、『慈愛』侵略軍についてなど、戦いにおける情報多数。慈愛側の船が色々とおかしい。
「―――とまあ、そんな感じだ。敵さんが迷わずにここへやって来るとすれば、船の速度からしてもう数日ほど、残りの時間を有効に使う必要がある。で、取り敢えず決めておく必要があるのが、彼女、ブルローネの扱いについてなんだが……」
「ア、アタシはアンタの奴隷になるつもりなんてないよ! アタシはバルバロ姐さんのものなんだっ!」
「いや、モノ扱いじゃなくて、怪しい行動を取らないように制限したいだけなんだが」
「フッ、女心は海の如く、掴み辛いものでさぁ」
ゴブイチが葉巻(干物)を吹かしながら何か悟ってる。ちなみに片足をボラードに乗せ、視線は水平線の彼方へと向けている格好である。これが、ダンディ……!
「ここはバルバロのお嬢さんの下につけては如何です? あそこまで慕っているのなら、彼女の指示には忠実に従うでしょう」
「おっ、そこのゴブリン、見た目によらず話の分かる奴じゃないか!」
「フッ、光栄の至り」
「姐さん、こいつは良いゴブリンだね!」
「………」
「あれっ、姐さん?」
ゴブイチと色々な意味で競い合っているバルバロは、ブルローネの言葉に何とも言えぬ表情を作っていた。ただまあ、そんなバルバロはさて置き、ゴブイチの言っている事は尤もだ。首輪がなくとも、バルバロには素直に従う様子だし、先の戦いで見た通り、狙撃手としては超一流なのは間違いない。バルバロの船に乗せれば、戦力として大いに活躍してくれそうである。バルバロが俺達の味方である限り、下手な真似もしないだろう。
「よし、ゴブイチの案を採用するとしよう。バルバロ、後で色々と案内してやってくれ」
「あいよ。まあ、
「姐さん、そんな下手に出る必要は―――」
「はいはい、黙ってこっちに来な」
バルバロに引っ張られるようにして、街の方へと消えていくブルローネ。どんな教育が施されるのかはバルバロ次第である。俺にはほどほどにしておけよと、そう彼女らの背中に声を投げ掛ける事しかできない。
「騒がしい奴だったわねー。まだリン達の方が大人ってもんじゃない」
「アーク、それをお前が言うのか…… いや、まあ良いや。さっきも言った通り、敵船団がやって来る日は近い。各々、準備は入念にしておいてくれ。この時の為に費やして来た大量のDP、それを活かす時だ。俺達の漁師としての、そして海賊としての力を見せつけてやろう」
「「「「「おー!」」」」」
大国は相手、だから何だ。俺達の士気は揺るがない。護る場所を得たが故の反骨精神、或いは海賊としての戦闘意欲が高まっていると言うのかな。尤も後者はアークだとか、限られた者の話になるんだけど。
「なあなあ、キャプテン! もしかしなくても、次の海戦で使う大砲って新型!?」
興奮気味にそんな質問をして来たのはトマだった。自分と同じ狙撃手、それも凄腕のブルローネが仲間に加わった事で、やる気が滅茶苦茶に上がっている様子だ。なるほど、ライバルの出現に燃えてるって訳か。これは嬉しい誤算である。
「ああ、ジークの話を聞く限り、出し惜しみをして勝てる相手じゃない。大砲も砲弾も、制限なしで使って良いぞ。もちろんクリスとの協力技も、新スカルさん弾もオーケーだ」
「やったー! 俺、すっごい頑張るよ! 腕が鳴る~!」
「もう、お兄ちゃんったら。で、でも船長さん、私も頑張りますからね!」
「ハハッ、もちろんリンにも期待しているよ。ここ最近の魔法の上達っぷりは、クリスも手放しに褒めるくらいだったからな」
「そそ、そんな! 私なんて全然ですから!」
謙遜するリンであるが、俺もクリスも本心で言っているんだけどな。これは何も魔法だけの話だけでなく、育ち盛りだからなのか、トマとリンの成長っぷりには全体的に驚かされるものがあるのだ。ステータスも以前の比ではなくなっている。もしかしたら、次の戦いの決め手は二人になるかも、なんて考えているくらいだ。
「フッ、提督。吾輩らの事も忘れられては困りますぜ?」
「拙者、
「ワハハハッ、わいはほどほどに働きたいやけどなぁ。けど、最新鋭の船には興味あるわ。どうにか鹵獲できんものやろか~」
もちろん、新たなユニークモンスター達の事も忘れてはいない。新たな仲間、新たな船、新たな力、その全てを使って敵を撃退しよう。
「ジェーン、最新鋭の船って事は、載せてる食べ物や料理も最先端なのかしら? それによって沈めるかどうか、対応が変わってくるわ!」
「え? え、ええと、うんっと……」
「こらこら、ジェーンを困らせない。つうか、食欲で対応を変えるな」
兎も角、俺達は来たる日に備えるのであった。
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