第103話 オープン

 本日のメインイベント、DP消費祭り。その日程の全てを終えた俺達は、拠点の酒場にて慰労会を開く事にした。また、この日は酒場の開店記念日でもあり、酒場には俺達だけでなく、拠点に住む皆が集まっている。


「あー、あー。ゲフンゴホン! ……今日はこの『美食亭』の初オープンに集まってもらい、大変に嬉しく思う。本来であれば総料理長たるクリス殿に挨拶をしてもらうところなのだが、あまり前に出たくないという彼女の要望もあって、代わりにワシが挨拶をする事になった。今宵は美食を探求し続けたワシが腕によりをかけ、古今東西の料理を―――」

「―――モルクー、話が長ーい! 料理が冷めたらどうするのよー!」

「今日は特別に酒が解禁されるんだろ? おいモルク、さっさと乾杯させろー!」

「二人とも、仲が良いのは良いけど、もう少し我慢というのをだな……」

「ふむ…… 確かに、料理が冷めるなんて事は愚策中の愚策。乾杯を催促するのも、また当然の事という訳か。フッ、金獅子とバルバロも、たまには良い事を言うではないか」


 ……料理が関わると、モルクは普段と感性が少しばかりズレるようだ。


「ならば、その期待に応えよう! 乾杯!」

「「「「「かんぱーーーい!」」」」」


 ―――カァーン!


 樽ジョッキを打ち付け合う、子気味良い音が店内に鳴り響いた。


「う、美味い……! この前のお祭りで出た料理も凄かったけど、これも美味い!」

「私、生前は世界各国を巡るほどの美食家だったのですが、これほどまで完成された料理と巡り合った事はありませんでしたよ。あのシェフ、やり手ですね」

「はぐはぐッ!」

「こ、こら、そんなに急いで食べなくたって、料理はなくならないから!」


 店内のあちらこちらから、料理に夢中になっている声が聞こえて来る。耳をすませば、店外からも同様の称賛の声が。


「皆さん、満足されているようですね」


 俺にそんな声を掛けて来たのはクリスだった。結構な勢いで最初の一杯のみ許可した酒(500mlで3DP)が消費されていくので、給仕役として二杯目以降の飲み物を注いで回っているらしい。


「あの海上レース、お前は船で観戦したか? 俺、生前の生身の体だったら絶対に酔ってた自信があるよ」

「その点に関しちゃ、この霊体に感謝だな」

「船酔いはしないけど、お酒には酔っちゃうんだから注意しなさいよ?」


 クリスの言う通り、酒場の周辺は活気に満ちている。流石に村人全員は酒場に入り切らなかったので、不足分の席は店先の広場に簡易テーブルを設置。これで何とか皆が座り切れる分の席を用意させてもらった。エーデルガイストの歓迎会の時同様、皆盛り上がってくれているようだ。 ……酒には酔うのか。


「……フッフッフ、皆が美食に酔うておるわ!」

「一番満足しているのは、モルクな気もするけどな」


 皆が料理を手放しで褒め称えているせいなのか、モルクは先ほどから満足気な表情を浮かべている。君、やっぱり奴隷商より料理人こっちの方が向いてるよ。今、とっても良い顔してるもの。


「頭目、祝いの日であろうとも、油断はなさらない方が良いかと」

「うおっ!?」


 クリスのものではない、くぐもった男の声が唐突に背後から聞こえて来た。突然の事だったので、俺は軽く飛び上がってしまう。


「な、なんだ、スカル・サンか。驚かさないでくれよ……」


 俺の背後にいたのは、ゴブイチとバルバロの海上レースの後にユニーク化して誕生した、元スカルシーウルフのスカル・サンだった。漆黒のローブを身に纏い、その下にある骨までもが薄暗い色合いをしている彼は、諜報活動に特化する形で進化した。ステータスとスキルはこんな感じ。


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スカル・サン 0歳 男 スカルシーアサシン ユニークモンスター(ウィル)

HP :120/120

MP :70/70

筋力 :D++

耐久 :D++

魔力 :C+

魔防 :D--

知力 :C+

敏捷 :B++

幸運 :D

スキル:死と影の住民B(隠密+1)

スキル:魂の呼声C

スキル:黄泉の援軍D

装備 :ダークナイフ

    アサシンローブ(隠密+1効果)

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スキル:死と影の住民B

 死者の復活と隠密を統合した上位スキル。HPが0になった際に復活するのはもちろん、それに加えて隠密能力を得られるようになった。Bランクであればものの数十秒で復活し、HPは満タン状態に。隠密能力は大国の権力者が恐れるほどのものとなる。


スキル:黄泉の援軍D

 黄泉の世界に働き掛け、死者の僕を召喚する事ができる。Dランクであれば優秀な僕を呼び出す事ができ、召喚の継続時間も長い。

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 普段は全く姿を見せず、人知れず拠点の警戒に当たっている――― らしいのだが、度々こうやって俺の背後に出現する癖がある。一応、隠密としての活動報告もしてくれているんだけど、何で一々俺の背後に立つ必要があるのかは、本当に謎だ。趣味か? 趣味なのか?


 ……ちなみに、彼の名前についてはあまり触れないでほしい。だって、勝手にこうなっていたんだもの。俺は悪くない。


「申し訳ありませぬ。しかし、狡猾な敵は気を抜いている時を狙うもの。宴を楽しむのは結構ですが、緊張感を忘れてはなりませぬ。では、拙者は仕事に戻りますが故」


 その言葉を言い残して、スカル・サンの姿は一瞬で消えてしまった。


「……島に敵、いるかな?」

「い、一応、絶対はありませんからね」

「なんや、社長はんにクリスはん、けったいな顔して? 狐にでもつままれたんか?」


 今度は店の窓の外から、どこかで聞いた事があるような特徴的な言葉が聞こえて来た。声量が大きく、外からでもよく聞こえる。


「ハギンか。いや、スカル・サンに驚かされてさ」

「サハハハハ! まーたスカルはんでっか。怖い顔して、島一番の心配性やからなぁ」


 窓の外を覗くと、そこには3メートルはあろう青色の巨体があった。この巨体こそが第三のユニークモンスター、元スティングサハギンのハギンである。


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ハギン 0歳 男 サハギンバヴァ―ル ユニークモンスター(ウィル)

HP :200/200

MP :0/0

筋力 :B-

耐久 :B

魔力 :F

魔防 :F++

知力 :C-

敏捷 :E

幸運 :B-

スキル:槍術C

スキル:水泳B+

スキル:豊漁の加護D

装備 :算盤の銛

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スキル:水泳B

 水中を泳ぐ事ができる。Bランクであれば竜巻が発生しようとも泳ぐ事ができ、+であれば更に水中での呼吸が可能となる。


スキル:豊漁の加護D

 そこに居るだけで魚を呼び込む事ができる加護。Dランクであれば毎日が満足のいく豊漁の日となるだろう。

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 島一番の巨体を誇るハギンは、他のスティングサハギン達よりも敏捷が低くなっているものの、他のステータスは大幅に強化されている。戦闘面でも大いに期待できるが、それ以上に期待しちゃうのは、やはりスキルの効果だろう。ユニーク化で新たにハギンが得た『豊漁の加護』は、俺達の本業に素晴らしき効果を与えてくれる、言わば黄金にも匹敵するであろうニュースキルなのだ。まだ文面でしか確認していないから、実際にはどの程度の豊漁をもたらしてくれるのか、明日からの漁が実に楽しみだ。


 ……けど、俺の呼び名が段々と種類豊富になっているのは気のせいだろうか? 俺、別に社長じゃないんだけど。

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