第46話 魔法の地図

 単眼鏡から覗いた光景、そこには一つの島が映っていた。まず見えたのがヤシの木が並ぶ白い砂浜、ただし、砂浜が占める面積は狭く感じられる。海岸のほとんどは厳つい見た目をした大岩であり、その一部が少し髑髏の形を模しているように見えたのは気のせいだろうか? これが青い海に囲まれていれば、ビーチ的な意味で良い雰囲気だったとも思える。が、今は俺が海を黒く染め上げてしまっているせいで、逆に不気味な島へと変貌。別に悪意があってやってる訳じゃないんだが、心の中でごめんなさいと謝ってしまう俺は小心者なんだろう。その先には深く生い茂った緑が、更に奥はこれまたえげつない傾斜を誇る山で囲まれている。ここからでは島の全様がまだ分からないが、結構な大きさがありそうだ。


「ちょっとウィル、私にも見せなさいよー!」


 じっくり観察する暇もなく、単眼鏡をアークに奪われる。なあ、一応俺船長なんですけど…… つか、もう飯食ったんかい。早ぇ。


 まあどちらにせよ、順番に見せていくつもりだったんだ。寛大な心で良しとする。鼻歌を歌いながらアークが眺め、満足したら次にクリス、トマ、リンと単眼鏡をバトンタッチ。無事、全員が謎の島の確認を終えるのであった。


「さて、どうしたもんかね。海の色が変わってるってのに、人っ子一人浜辺に見当たらない。怪しんで海に近づかないようにしている。もしくは元々無人島で、人はいないってところかな?」

「無人島、ですか?」

「そ、無人島。ここいらは幽霊船が出る海域らしいから、そっちの方が可能性は高いと思う…… んー、でも確証はないんだよなー。こんな時に周辺地図があれば、何かしらの情報を得られたかもしれないけど」

「戦艦に乗った船員の方々を無事に帰す為に、先の戦闘で地図までは鹵獲しませんでしたもんね。そもそも、あの地図がどこまで正確なのかも分かりませんでしたし……」

「ま、それ以前にまだ陸地の一つも発見できてなかったから、俺達が今どこにいるのか、調べようがなかったんだけどな! 敵の情報を鵜呑みになんてできないし!」

「ぷふっ、何それ。ウィルったら面白い事言う~。私達、路頭に迷ってる~。いえ、大海原に迷ってる? ぷっふふふふっふ~……!」


 ちょっとした冗談のつもりが、ツボに入ったのかアークが爆笑。うん、実際は笑いごとじゃないんだけどね。いつまでも当てもなく海の上を航海するのは怖いし、あの島の件も含めてそろそろ対策を練ろうとは思っていたんだ。幸い、先の戦いではたんまりとDPを得る事ができた。


「どれ、ショップ機能を開きまして、と。ここは一つ奮発して、魔法の地図(8000DP)を購入したいと思う!」

「「ま、魔法の地図っ!?」」


 トマリンが良い反応を返してくれた。君達には心からありがとうを言いたい。


「メニューの補足情報を読むとだな、購入した場所を中心として、周辺1万㎞の地図を自動生成してくれるらしい。以降は地図を持ち運ぶ事でその位置がマップ上に表示、更には地図上の土地をタッチする事で、その場所の簡易的な情報まで教えてくれる優れもの! こいつがあれば迷子とはもうおさらば、あの島についても情報を得る事ができるのだ! ……買っても良いかな?」


 ここぞとばかりに機能の説明(表示情報そのまま)をし、如何にこの地図が優れているのかをアピールする俺。所持DPが28万近くと懐は暖かいとはいえ、それなりに高値のお買い物。ここは皆の忌憚のない意見を聞きたい。


「……なあ、リン。周辺1万㎞って、一体どれくらいの距離なんだ?」

「え、ええっと、私もとっても広いとしか分からないよ…… 船長さん?」


 うん、ごめん。それは正直俺にも分からない。だからさ、俺なら答えてくれるって期待する純な瞳を向けないでくれ。頼ってくれるのは嬉しいけど、今は期待に添えそうにないんだ……


「……(キラキラ)」


 駄目だ、リンが瞳をすっげぇ輝かせながら待ってる。駄目で元々、地図を売り込んだからには最低限の責任を持たないとならんぞ、これは。た、確か地球の一周分の距離が4万㎞、くらいだったっけ? なら、地球で言うところの世界地図四分の一程度? な、何か違う気がする。そもそも、この世界の一周が地球と同じである筈がない。クリスに助けを求めようにも、あわあわしながら必死にDPガイドブックで探している感じだ。つまり、クリスにも分からない。やばい、ピンチ。


「んー、それだけの範囲がカバーできるのなら、モルクの戦艦にあった地図よりも格段に上なんじゃないかしら? 確実に私が前にいた大陸は収まるし、モルクのいたサウスゼス王国だって捕捉できると思うわよ」


 ア、アークさん!?


「わあ、そうなんですか? 船長さん、それって凄い事だと思います!」

「ううーん? 俺は未だによく分からないけど、キャプテンが勧めた地図で、リンとアークの姉ちゃんもこう言ってんだ。きっと間違いないと思うぜ! そうだろ、クリスさん?」

「え? あ、あわわわ…… わ、私もそう思います! マスターの判断が正しいです!」

「って事で、全会一致だし買って良いんじゃないの、ウィル?」


 ア、アークさん……!!!


 と、意外過ぎるアークのフォローもあって、辛うじてあった俺の信頼が失墜する事態は避けられた。剣闘士になる前は一人で旅をしていたから、仲間の中ではひょっとして、この世界について一番よく知っているんじゃないだろうか? すんませんアークさん、侮っておりました!


「アーク、ありがとう。おかげで助かったよ」

「へ? んー、よく分からないけど、そう思うのなら今晩の食事を豪華にしなさいよね。それでチャラで構わないわ。何だか知らないけどラッキー!」


 こっそりお礼を言ったら、どうも無自覚であった事が判明。やはり根は良い奴なんだと再確認させられる。


「よし、それじゃ早速購入して─── っと」


 目の前に出現した魔法の地図をキャッチする。勉強机一面分はありそうな、それなりの大きさだ。持ち運ぶには不便だし、後で置き場所を決めておかないとかな。ひとまずは皆で見れられるよう、デッキの上に広げる。


 広げた地図にはまあ当然ではあるのだが、海と地形が描かれていた。しかし、一般的な地図とは異なる優れ物。しっかりと現在俺達がいるであろう場所を、点滅しながら表示してくれている。


「おー、これが…… でっかい大陸? みたいなのが三つ、小さな島も結構あるもんだ」

「ふへー、地図ってでっかいんだなー」

「わ、私達がいた場所は、ええと……」

「一番近くにあるでっかいのはフォークロア大陸、サウスゼス王国のある場所ね。ま、そこもかなりの距離があるみたいだけど」

「ふむふむ。マスター、あの謎の島ってこれなのでは?」


 クリスが点滅するポイントの真横にある島を指差す。


「確かにこれっぽいな。ええと、こう指でタッチすれば良いのか?」


 その島を軽く押してみる。すると、地図上にこんな表示が飛び出した。


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第13079島(未発見の無人島である為、名称未設定)

所有管理国:なし

生態系平均危険度:D(スキルは度外視し、ステータスの平均値で表した値)

補足:島のほとんどがカルデラ(海食崖)で覆われており、特徴的な地形をしている。

   特殊な海流の中心に存在している為、漂着する可能性は非常に稀。

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「やっぱり無人島か。それに、まだ誰にも発見されていない島みたいだ。リンの魔法の練習がてら、海流に関係なく進んでたから、ここに行き着いたって事かな? リン、まだ使い方を覚えて日が浅いってのに、本当に凄いじゃないか」

「いえ、まだまだです!」


 いいえ、凄いんです。撫で撫でとリンの柔らかな髪と耳を撫でる。ほわぁ……! 魔法も凄いが、この撫で心地も凄まじいぞ……!


「危険度がDって事は、大したモンスターもいないって事よね! よーし、早速船を着けましょう! 早く陸地に上がりたいわ!」

「って、待て待て。アークにとってはそうかもだけど、Dってステータス的には結構なもんだからな? 大体うちのゴブリンクルーの平均値くらいだぞ」

「た、確かに。前にクリスさんから教えてもらった表を参考にすると、一つでもDがあれば優秀な人材になるんですよね? 私、かなりお荷物になってしまいます……」

「俺もちっと自信ないかなー。大砲を持っていく訳にもいかないだろうし」

「大丈夫だいじょーぶ! もう、ウィルもリントマも大袈裟なんだから~」


 頼りになるアークさんは、すっかり上陸する気になっているようだ。

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