第40話 旗揚げ
「―――ってな事があってさ、これからその秘宝を巡って参加する奴らと戦う事になるかもしれないんだ」
「ええっと…… リン、お前理解できたか!?」
「う、うん、一応ね。話が壮大過ぎて、ちょっと信じられない気持ちもあるけど……」
皆を集め、モルクから聞き出した情報を共有する。忠誠心に厚いクリスはその場にいた事もあって、即刻信じてくれたが、まあ普通はこんな話をすぐに飲み込めるものではない。トマとリンは半信半疑だし、アークは―――
「マジで! それマジで!? じゃあさ、じゃあさ! 地位や名誉とか関係なく、色んな奴を殴っていいの!?」
「……あくまで敵対したら、だからな?」
この話を聞いた途端、子供のように目を輝かせていた。凄まじい期待のされようである。ある意味、トマリンの方が大人な思考をしている気がする。
「ゴブー」
「ゴッブゴッブ」
「おう、お疲れ。いつものように宝箱にお願いな」
ゴブリンクルーやスカルさん達には、この時間を利用して敵船にある使えそうな物品の差し押さえと、生き残りを探して武装解除、それぞれを一ヵ所に集めるよう指示している。モルクは貴重な情報を吐き出してくれるゲストなので、我が船が誇る特製の牢屋の中へとご案内。大事な大事な来客だ、危害は特に加えていない。今頃はトンケ達と仲良くなっている事だろう。
「それで、さっきの続きなんだけど…… モルクが言うには、このままでは自分に戦艦を貸し出したサウスゼス王国が黙っていない。自分が何とか取り繕うから、国に帰せってさ」
「……キャプテン、流石にそれはないって、俺でも分かるよ?」
「奇遇ね、私もそう思っていたところなのよ!」
「アークの姉ちゃんに同意されると、何か自信なくすなぁ……」
「ちょっと、どういう意味よ!?」
トマどころかアークにまで駄目だしされるとは、モルクの口車もいよいよなところまで失墜している。
「二人が言うように、そんなふざけた理由でモルクを帰す気は更々ないよ。どうせ国にある事ない事を言って嗾けて、俺を犯罪者に仕立て上げるのが目に見えてる。どう転んだって、悪影響しかない」
「ですね。あの、ちなみになんですが、もしその財宝争奪戦に負けてしまったら、船長さんはどうなってしまうんですか? そもそも、船長さんが持つ財宝とは一体……?」
「うん、その財宝なんだけど、俺にも何なのか分からないんだよ。まさかあのボロイ衣服な訳がないし、唯一の私産だった最初のイカダも、能力によるものだもんなぁ」
もしや、この頬の入れ墨とかは…… いや、宝物ってか呪われた証みたいなもんだし、それはないか。これについて調べる手段、何とかならないものかねぇ。
「仮に負けてしまったら、という質問に対しては、マスターが情報を引き出してくださいました。所持する秘宝を奪われると敗北扱いとなり、その方が有していた特別な力、マスターでいえばダンジョン創造の力が失われてしまうそうです。それ以降に参加者の秘宝を獲得したとしても、敗北した者が復帰できたりはしません。ただ、ルールとして命を落とすような事はありませんので、敗北した側の人員の扱いは勝利者側が握っていると言っても、過言ではないかと」
「あー、なるほど。だからあのおっさんも生きてたのか」
「クリスが説明してくれた通り、持っていた能力は綺麗さっぱりなくなっているだろうけどな。秘宝を奪取すればするほど、与えられた能力が強化されるって特典もあるみたいだ」
「ウィル、それならガンガンぶっ倒すべきよね? よね!?」
アークに両肩を掴まれ、ガクガクと体を揺らされる。興奮しているのか鼻息が荒く、力加減も何もあったもんじゃない。
「おおおいいいいい」
「ア、アークさん! マスターの首が取れてしまいます!」
視界がブレて激しく気持ち悪くなるも、クリスの助けによって吐く前に踏ん張る事ができた。まあ、集めるほど有利になるってのは確かに正しいんだろうが、そこまで単純なものでもないんだろうな。不利になった奴らは結託とかするだろうし。
「ハァ、ハァ…… は、話を戻すぞ。ここからが本題なんだけどさ。今の話を踏まえての、この船の方針を決めたいと思う」
「方針? 敵を殲滅すれば良いだけじゃないの?」
「単純明快な案をありがとさん。まあアークの考えも、方法として間違ってはいないよ。たとえ俺らが抗戦の意志はないって主張しても、今回のモルクみたいな奴らは問答無用で攻撃を仕掛けてくるからな。正直俺としてはこんな戦いなんて参加したくもないんだが、降りかかる火の粉は払う必要がある。で、今回モルクと愉快な仲間達を撃退した事で、サウスゼス王国って国に俺らの存在が知れ渡る可能性が大いにあるんだ。彼の国のお得意様と同行していた騎士団の副団長をぶっ飛ばして、艦隊を壊滅させた奴らがいるってな」
「あら、私と似たような境遇ね! これってお揃いって奴かしら?」
そうだね、お揃いだね。罪を被って捕まれば奴隷行きの、あまり嬉しくないお揃いだ。
「さっきも言った通り、モルクをサウスゼス王国に帰す事はできない。今集めている生き残りを全員殺したところで、時間が経てば国とかが調査に乗り出すだろう。騎士団っつう大層な奴らも関わっているんだ、どこに何をしに行ったとか、そんな基本的な事はすぐにバレる。噂レベルでもそんな話が国に広まれば、他の参加者に俺らの存在が知られる可能性もあるか」
「やっぱり、戦いは避けられないんでしょうか……」
「良い流れね!」
「リンとアークの姉ちゃんの感想、完璧に真逆になってんのな。変なの」
うん、とっても不思議だね。人によってここまで意見が分かれるなんて、俺も想像していなかったよ。
「で、ここで提案なんだけど、どうせ敵になるのなら、今生き残っている奴らは国に帰してやろうと思う。唯一航海可能なあのでかい戦艦に、最低限の食料だけ残してやってさ」
「よろしいのですか? 今回私達が用いた戦術や戦法の類、かなりのところまで見られてしまっています。あのまま帰せば、おそらくはそれに備えて対策を練られてしまいますが……」
「そこが痛いところではあるんだけどさ、戦い方は今後の工夫次第でまだまだ幅が広がる余地がある。何とかなるだろう。それよりも俺が今ほしいのは、相手を殲滅して良いっていう正当性なんだ」
「「「正当性?」」」
「そ、正当性。あいつらを帰してやるついでに、親書を持たせてやろうと思うんだ。国に戻ったら、こいつをお偉いさんに渡してもらう。今回は返してやるけど、次からこの黒の海域に来る奴らは全部沈めるって内容だ。生き残りの奴らが恐怖する、魔王らしくな」
「親書と言いますか、それは脅迫状では……?」
「まあまあ、それでも無関係な奴らは怖がって近づかなくなるだろ。元々流れていた幽霊船の噂のお蔭で、地元の船はこの辺りを避けるらしいし。そもそも黒い海なんて、普通は避けて通るもんだ。俺達の船が移動すれば一緒に黒い海域も動くから、余計に不気味だろ? 何も俺らは無差別に殺戮をしたい訳じゃないから、戦う相手の線引きはそこでハッキリさせておく」
あの船員達を放てば、この海域で艦隊が壊滅した事実が判明し、また本人達も今回の話を広めてくれるだろう。そして恐らく、俺は魔王の烙印を押される。だがそうしてでも、一人の人間として迎え撃つ相手は選別しておきたいんだ。
「もちろん、それでも俺らの領海に入って来る奴らは敵だ。もう手加減もしないし、奪うものは奪って始末する。これ以上恩情を与えるのは逆効果だろう」
「なるほどなー。流石はキャプテン、色々と考えてる! 敵から根こそぎ奪うってのも、海賊みたいでちょっと格好良いかも!」
「おー、海賊かぁ…… それならさ、これから俺達は海賊稼業兼漁師だな! これからの方針、決定! 俺らの漁業を邪魔する奴らは、神の駒だろうが討伐隊だろうが、敵になるなら奪い尽くす!」
「流石はマスター、良い考えです! それでは私、今日から女海賊メイドですね!」
「が、頑張りましょう!」
「うんうん、海賊も悪くはないわね!」
パチパチとクリスとリンの拍手が鳴り響く。アークも満更ではなさそうだ。
「キャ、キャプテン、そこは名称だけでも海賊だけにした方が良いんじゃないの? 何か締まらないって言うか……」
「何でだ? 海賊はあくまで副業で、メインの収入源はこれからも漁だろ? 事業と戦力の拡大、ゆくゆくは世界のトップを目指すぞ!」
「どっちのトップを目指すつもりなんだよ、キャプテン!?」
……海賊、海賊か。世間様からしてみれば、決して褒められる職じゃないだろうな。物資を奪い、邪魔者は殺す。俺の魔王としての名も、悪い意味で一役買ってくれる事になるだろう。だがそれでも、俺には付いてきてくれる仲間がいる。この船に乗ると宣言してくれた仲間がいる以上、俺には仲間の命を守る義務があるんだ。その為なら、何だってしてやるさ。
=====================================
今回の戦果
・最新鋭大型戦艦×1 ⇒ 食料品と使えそうなアイテム以外の積み荷は売却(40164DP)
船本体は生き残った船員達を送り返す為、鹵獲せず
・最新鋭中型戦艦×12 ⇒ 全艦沈没させてしまった為、ほぼ収穫なし
・サウスゼス王国式最新カノン砲×五十二門 ⇒ 無事だった物のみを宝箱に保管
・拡声器型マジックアイテム ⇒ 宝箱へ保管
・名のある武器っぽい得物多数 ⇒ 宝箱へ保管
・テーブルや椅子等の家具類 ⇒ 必要分だけお古の家具類と交換して差し上げた
・隷属の指輪 ⇒ 担当の神へ転送、消失
・モルク・トルンク ⇒ 重要参考人として牢へ収容
・俺の近くで倒した(クリスが捌いた)敵から得たDP
①レヴィアタン一体(合計5270DP)
②それ以外は範囲外だった為DP入手なし
・秘宝略奪戦勝利報酬
①100000DP
②第2ダンジョンの解放
戦果獲得後の所持DP:235810DP
=====================================
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます