Love, アンマイクロリミテッド

春嵐

アンマイクロリミテッド・ラヴ

 生きていくのに、愛が必要だった。


 大きくも小さくもなく、自分を満たしてくれるだけの、適度な愛が。


「サキュバス?」


「近いけど、私はいちおう人間ね」


 サキュバス。


 ただ、創作作品に出てくるような、性愛を求めるようなタイプではない。


「異性に触れるだけで食事ができれば一番楽だと思うよ、私も。でも現実は、そういう風にはできていない」


 自分の子宮は、普通に子供を産むために存在していた。少なくとも、食事のための器官ではない。


 生きていく。そのために、愛が、必要だった。


「ごはんは?」


「食べない」


 食べたり飲んだりは普通にできるけど、味を強く感じたりはしない。


「でも3日ぐらい飲まず食わずだと、しぬんでしょ?」


「3日飲まず食わずってことは、3日人に会わないのと同じだから。愛が枯渇してしぬ」


 結局、愛だけが私を動かしている。


「寿命とかは?」


「わかんない。年齢が分からないから」


 自分の年齢は、数えないことにした。


「これ言っちゃうと元も子もないけど、顔も身体も、平均だよね」


「うん。ノーマル」


 普通じゃないと、適度な愛に辿り着けない。


「たべすぎると、しぬでしょ」


「うん」


「愛も同じ。量が多すぎると、たべすぎでしぬの」


 必要なのは、適度な愛。それだけ。


「愛って、何?」


「愛は愛よ。誰かを大事に想ったり、一緒にいたいと願ったり。ひとそれぞれだけど、だいたいはそんな感じ」


「さわってみたいとか、手を握りたいとかは?」


「それは恋」


「えっ違いが分からない」


「一方的で未確定な接触が恋。双方向的でコミュニケーションを省略できるほどの関係が愛」


「そうなんだ」


「分かってないわね」


「分かってないね」


 そろそろ。頃合い。


「適度な愛を。ちょうだい」


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