第21話 伝統を壊せ!
「なにぃ!? 二人も勇者の娘だったのか!?」
おっぱい騒動が収まり、改めて自己紹介したラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃん。
そして二人が私たちと同じで聖勇者の家系と聞いて、おっぱいの時よりずっと驚いた反応を見せたセカイくんは、二人の手をガっと掴んで……
「勇者の娘……末永くよろしく。共に人類の未来のためにも魔族を根絶やしにしてやろうぜ!」
「あら、随分と情熱的なのね。ええ、気に入ったわ、セカイくん」
「うふふふふ~、面白い男の子ですね~、はい~、よろしくです~」
まさか、おっぱいより勇者とは……セカイくん、すごいな~
「アネスト……あんた……あいつ堕とすの相当大変かもよ? いいの?」
「たしかに、ブレスツお姉さんの色気に惑わされないのは見直しましたが……でも、それでは私のような貧相な身体に彼は靡くわけないと……って、何を言っているんですか!?」
うん。もうアネストちゃん半分どころかもうだいぶ墜ちてるや……
「でも、シャイニたちとも昨日会ったばかりなのでしょう? なのに、もう一緒に食事してるなんて、随分と仲良くなったのね」
「ん? まぁ、仲良くというか……作戦会議だな。来月の合成魔法発表会に向けて」
「え? 発表会の?」
「おう、俺は何が何でもクラス優秀賞を取ろうと思っているんだ!」
「あら……へぇ~!」
そういや、私たちは作戦会議してたんだっけ? すっかり頭から抜けちゃってたや。
そして、そんなセカイくんの言葉を聞いて、ラヴリィちゃんはすごい感心したように笑顔になった。
「えらいじゃない! えっと、ちなみにあなたの班は……」
「ああ、アネスト、オレンジ、ピンクたちとだ」
「へぇ! ……オレンジ? ピンク? そういえば二人にはさっきからどうしてそんな呼び方なの?」
「いや、髪の色がそうだし、初対面の時にこいつらとちょっと揉めてオレンジビッチとピンクビッチと命名して……」
「は、はァ!? あ、だ、だからブレスツのことをブラウンビッチって……ちょ、それは二人が可哀想よ! っていうか、その流れだと私はどうなるの?」
「ん? ……ゴールドビッチ先輩?」
「やめて! なんか私がスペシャルなビッチみたいじゃない! 名前で呼んで、ラブリィよ!」
ぶほっ! ご、ごーるどびっち……ヤバい。オレンジビッチはまだマシかも。
これには、アネストちゃんもディーちゃんもブレスツお姉ちゃんも噴き出して必死に笑いを堪えてる。
「っと、話を戻すけど、シャイニとディーも同じ班で、優秀クラス目指す作戦会議ってことは、二人も頑張るってこと? 前まで去年のレポートとか習得方法を教えてとか言っていたのに」
「まぁ~、流れでそうなっちゃってね……」
「アネストがやる気出しちゃったから、私は仕方なくよ。アネストったらエロスな本―――」
「ディイイイイイッ!!」
「あらあら~? エロスなって何ですか~?」
と、また話がゴッチャゴチャに。そうじゃなくて、そう。合成魔法発表会だよね。
「とにかく、そこで優秀クラスになるためには、俺らだけじゃなくてクラスの連中もやる気出させなきゃならねぇ。そこでどうやってやる気出させるかってのを相談してんだよ」
「なるほど……クラスのやる気を……ねぇ。なかなか向上心があるのね、セカイくんは。アネストはまだしも、シャイニやディーも巻き込んでクラスの意識改革をしようだなんて。でも、それはなかなか大変なことね」
「ああそうだよ。それもこれも、おかしな伝統とやらがあるから、三ゆるだとか温い生徒ばかりになるんだよ」
クラス皆のやる気をださせる。
言葉にすれば単純だけど、それが簡単なことじゃないってことぐらい誰でも分かる。
「そもそも伝統とはいえ、なんで上級生は下級生にそんなレポートだとか習得方法とかをアッサリ伝授してんだよ」
「確かにそう……ね。だから、私はシャイニに頼まれても断ったし……まぁ、この子は私に断られたら他の子にお願いに行ったみたいだけどねぇ~」
セカイくんの疑問に対して、ニッコリ笑って私のほっぺをつねってくるラヴリィちゃん。
「いひゃい、いひゃい!」
「それにこういうのは、何も合成魔法発表会だけに留まらないわ。年間の定期テストでも同じよ」
そう言って、肩を竦めて苦笑するラヴリィちゃん。
セカイくんはまだよく分からず首を傾げてるけど、ようするに……
「中間や期末の筆記試験……実は問題は毎年ほぼ同じなのよ」
「……?」
「つまり、昨年度の問題と答えを入手してその内容さえ押さえておけば、みんな落第しないような点数を取れちゃうってことなの」
「……はっ!?」
うん。そういうことなの。
だからこそ、頭の悪いアホ娘と言われている私も、落第しないで済んじゃうの。
「ちょっと待て、何でそんなことになってんだ!?」
「年間のカリキュラムは毎年同じだから試験範囲も同じで……先生方も毎年テスト問題を新たに作り直したりしないで、使い回している……っていうことで……」
「それじゃぁ、何も意味ねぇだろうが!? 何だこの学校は! 魔法騎士を養成するためじゃなくて、学校卒業の肩書を得るためだけの学校か!?」
「そ、それを言われると……何とも言えないわね……実際、ほとんどの生徒が入試時の時が一番頭良かったっていうのが多かったり……みんな入学したら……その……怠けて……」
「つか、あんたもだ! 自分はズルしてないかもしれねぇが、周りがそういうの横行してて何とも思わねえのかよ! オレンジには拒否したって言っても、こいつが他の先輩から情報入手してたら何も意味ねぇだろうが! 見て見ぬふりしている奴も同罪なんだよぉ!」
「………うっ………は、はい」
私、生まれて初めて見ちゃったかも。ラヴリィちゃんがお説教されているところを。
たぶん、お父さんやお母さんにも怒られたことないんじゃないのかな?
あのいつも凛々しくて自信満々で高嶺の花みたいなラヴリィちゃんが俯いてシュンと……ん?
「……ぶつぶつ……怒られてるの? 私……怒られてるの? はあ、はあ……うそ、はじめて……怒られてる? ぶたれちゃう? 叩かれちゃうのかしら? お尻とか……ぶつぶつ……」
あれぇ? 小声で何かぶつぶつ言ってる?
っていうか、なんかラヴリィちゃん顔を赤くして息荒くして……なんか内股になってモジモジしてない? あれ? なんか、色っぽい? 悦んでない?
「だいたい、そのおかしな伝統を……ん?」
「……?」
するとその時だった。なんか、セカイくんがピタリと停止して……
「あ……そうか……ああ、そうだよ。初めからそれが……」
「セカイくん? どうしたのかしら? あの……もっと叱ってくれな……怒らないの?」
セカイくんは何かを思いついたみたいで、徐々に顔に笑みを浮かべていって、そして……
「そうだよ! 今年に限って、上の学年から後輩にそういうの教えないようにさせりゃいいんだよ! そうすりゃ、全員のケツに火が付くんじゃねぇか!?」
まさに、私たちの学年全員を敵に回すような発言をしちゃったよ……
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