第11話 仲直りしましょう
「ムカつきますぅ!」
「なんてムカつくやつなの!?」
うわ~、荒れてるな~。
いつもは優雅なランチタイムなはずが、二人ともバカスカ食べてるよ。
それも全てはセカイくんの所為なんだろうけどね。
「ビッチビッチビッチビッチと! 私はビッチなどではありません!」
「私だって経験ないんだから!」
うん、まあそれはそうなんだけどさ……二人とももうちょい小さい声で話した方が……二人に憧れている人たちは男女問わずに多いのに、特に後輩ちゃんたちはビクビク怯えちゃってるよ。
「いや~、でも……なんか面白い人だったねぇ」
「「どこが!!」」
いやいや、面白かったと思うんだけどなぁ。
なんか常識がちょっとズレてるようなところもあるし、なんか荒っぽい男の子だけど、魔王を倒すとか熱いこと言ってるし、実際強いみたいだし。
「あんな人が期待の編入生など、ふざけている人にもほどがあります」
「正直、あんな奴と比べられてもし負けたりして、バカにされる……耐えられないわね」
比べられる……そっか、そうなんだよね。
勇者の娘である私たちは、常にそういう人たちと比較される運命にある。
だからこそ、アネストちゃんもディーちゃんも今では「負けてたまるか」と気合入って……
「あ~……ここいいか?」
「「「ッッ!!??」」」
っと、ここで男の子が私たちに話しかけ……って!
「セカイくん」
「よ、よぉ……オレンジビッ……オレンジ」
「いやいや、そもそもオレンジじゃないし! いや、私はシャイニだってば! あとビッチでもないからね!」
まさかのセカイくん。昼食をトレイに載せて、物凄い気まずそうに話しかけてきた。
どうして? 席は他にも空いている。
まだ友達がいないから顔見知りに話しかけ……って、それでわざわざ私たちに話しかける?
それとも勇者云々?
いずれにせよ……
「なにか御用でしょうか?」
「昼食中に話しかけないで。食欲が失せるでしょ?」
ほらぁ、アネストちゃんもディーちゃんも、メッチャ不機嫌だし。
「わ、悪かったよ……」
「「「……え?」」」
「その……あれだ、色々あって酷いことを言っちまった……すまん」
うわお!? なんと、セカイくんの方から謝った? 意外!
すごい荒っぽい人だけど、すごく強い……みたいだけど、それなのにこうして素直に謝ってくるなんて、いい人じゃん!
「ぜんぜんいいよぉ! むしろ、私たちも笑ってごめんなさいだよ、ね? アネストちゃん! ディーちゃん!」
「あっ、えっと、謝っていただけるのなら……私も、その……あなたの事情も知らずに笑って申し訳ありませんでした」
「ま、まぁ、ビッチビッチ言ったのはムカついたけど……謝ったんだし許してあげても……いいけど……」
これはちゃんと受け止めてあげないとね。
私だけじゃなく、アネストちゃんもディーちゃんも、ちょっと肩透かし食らったような感じだけどセカイくんの謝罪を受け入れて、仲直り。うん、良きかな。
「ねぇ、それじゃぁ、仲直りの記に一緒にご飯食べようよぉ~、セカイくん」
「あ、お、おお、いいのか?」
「どーぞどーぞ!」
丁度席も一つ空いているし、私はセカイ君の背中を押してちょっと強引だけど席に……ん?
「……あれ? なんだろ、視線が……あ」
そのとき、セカイくんを座らせて私は、そしてアネストちゃんもディーちゃんも周囲の視線に気づいた。
そっか、私たちいつも一緒に食べたり、たまにクラスの子たちとも食べたりしてるけど、男の子と一緒に食べるのは初めてだった……うわ、急に緊張してきた。
「なんか注目集めちまってるな……俺の所為か? それとも、お前らフツーに人気あって男と一緒にメシ食ってんのを物珍しさで見られてるのか? もしくは、男たちからは嫉妬か? 爆発しろって感じで……」
セカイくんも視線を感じたみたいで少し怪訝な顔で……って、セカイくん思ったことを口に出し過ぎじゃないの!?
「た、たしかに私たち、殿方と一緒にランチは初めてで……に、人気かどうかはべつに……」
「いつものことよ。私たち、何かやっても色々と気にされるし……気になるなら、別に無理して一緒にいなくてもいいわよ?」
いやいや、アネストちゃんもディーちゃんも人気あるからね。そりゃ男の子たちが……何故私だけ告白とかされたことないんだろ?
でも、これでセカイくんが居心地悪いようなら……
「まぁ、注目されるのはそこまで悪くねえだろ? 悪いことすりゃ評判は確かに一気に落ちるが、逆に良いことすりゃ一気に評価が上がるだろ? 皆が見てくれてるわけだしよ」
「セカイくん……」
「それに、俺は白い目で見られることには慣れてる。お前らが気にしないでいてくれるんなら、俺はここにいさせてもらうぜ」
でも、セカイくんは特に気にしないと、そう言ってそのまま私たちの前から動かないでいてくれる。
へぇ、何だろう……なんか……いいな……
「そう言っていただけると、私たちも嬉しいです」
「そ、そう。まぁ、それなら一緒にいればいいんじゃない」
アネストちゃんもディーちゃんもちょっと照れてる?
そうかもね。あんま二人相手にこうやって接する男の子って今までいないしね。
こうやって私たちを聖なる勇者たちの娘とかそういう感じで接しない男の子って、何だか……
「ああ。一緒にいさせてくれ! 俺はもっとお前らと仲良くなりたいんだ!!」
「「「ぶっ!?」」」
「「「「「ッッッッ!!??」」」」」
お、思わず水を噴き出しちゃっ……う、うわ、ビックリしたぁ!
「ちょ、せ、セカイくん、な、何を言ってるの!?」
「あ? な、なんだよ、何か変なこと言ったか?」
「いや、うん、友達として……だよね。うん、分かってるよ。でもね、あんま人前とか、ほら女の子にそんなガッツリ言うと勘違いされちゃうかなぁ~とか……」
うん、というか一瞬勘違いしたもん。
ドキッとしたし、アネストちゃんもディーちゃんもちょっと照れて……
「なんでだよ。これから共に頑張って、魔王軍をぶっ倒す仲間になるんだ! もっと知りたいって思って当然だろうが!」
「「「……………………はい?」」」
…………ん?
「……あ?」
「「「…………へ?」」」
ん~?
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