第39話 続く物語

174 日常への帰還

 あの乗降場ラ・カザ見学から4日後の朝。

 俺は冒険者学校の自室で目を覚まし辺りを見回す。

 此処は前と変わらないままだ。

 あんな今までに見た事も知る事も無かった事ばかりの旅の後ではそれが異様にも、また安心できるようにも感じる。


 あの後俺達は資料室という処へと魔法移動した。

 地球から来た船やイベリアのような大陸型宇宙スペース居住空間コロニー、工場衛星等の模型を見た。

 フィンが随分と熱心に見ていて引きはがすのが大変だった。


 昼食はかつての地球テラ様式。

 順番に様々な料理が来る形式でどれもなかなか美味しい。


「やっぱりいつか、ここにショーンを連れてくるべきだと思うのよ。そうすれば向こうでもこれを食べられるようになるし」


 そう主張している奴が約1名。


「どうせなら全部一気に持ってきて欲しいよな。あとちまちま運ばれてくるのは性に合わないぜ」


 なんて言っている奴も約1名。

 どっちもうちのパーティだ。

 そういう意味では先輩達のパーティは大分ましだな。

 そんな事を思ってしまった。


 昼食終了でガイドツアーは解散。

 あとは翌朝、朝食後まで自由時間だ。

 ただメディアさんからの伝言が端末経由であった。

 19時に一緒に夕食をしないかと。


 それまで俺はミリアと一緒にラ・カザを見物。

 図書館へ行ってみたり、実際の宇宙船の中へ行ってみたり。

 図書館が本ではなく直接知識の中へ書き込む方法で驚いたけれども。


 フィンは独自で動いていたようだ。

 ライバー、アンジェ、モリさんは3人で食べたり見物したり。

 モリさんは監視役兼抑え役、もっと率直に言えば保護者みたいなものだろうけれど。


 その後メディアさんと一緒に夕食。

 割と色々な話をした。

 何故俺を拾ったのか、そして冒険者学校へ送り出したのか。

 その件にはシャミー教官が獣人を作り出した事に関係するのかなんて事も。


「キルケの為じゃない。私も模索していたのさ。人間とは何かとな。

 あの日ボロボロのお前を見て思ったんだ。人間なら此処で助けたいと思うだろうと。だから助けてみた。それだけさ、最初は。


 ただお前と暮らしているうちに何となくわかるようになってきたんだ。人間という感覚、人間でいる感覚をな。


 お前を冒険者学校に送り出したのも人間としての感情と感覚だ。お前がこの先この世界でやっていくならどうするべきか。人間の感覚と私の知識とで考えた結果だ。


 結果、こんな形で再会するとは当時は思ってもいなかったけれどさ。悪くはないものだな」


 メディアさんはそう話して微笑んでいた。


 その翌朝、ガイドツアーの時と同じように朝食後に集合。

 学校へと帰ってきた。

 ただ1人、アルストム先輩を除いて。

 

 先輩はラ・カザへ残ると言った。

 前の仕事に戻る為ではない。

 次の海を目指す為だそうだ。 

 

「かつて海路で極限を目指した者としてね。また目指したい未知の海があるからさ」


 勿論その海とはイベリアの海ではない。

 星々の間の事だろう。


「アルストムが戻らないと問題にならないか?」

「その辺はシャミー教官に御願いしておいたからね。何とかしてくれる事になっている訳さ」


「次に私達が此処に来たいと思った時は、途中まで馬車で来るかハンス君に御願いすればいいの?」

「その辺は問題ない。ラトレ迷宮ダンジョン経由で此処へ来る近道がある。帰りにそっちを通って帰って貰うつもりさ。

 今回此処へ来た全員を認証させておいた。だからそこから来る分には問題ない筈だよ」


「アルストムとはこれでお別れになる訳でしょうか」

「その可能性は高いね。次の旅は成功してもかなり長い期間になる筈だしさ。

 ただ別れなんてのは何時だってある。僕の場合はたまたまそれが今日だったってだけさ。それにようやく長年思い描いていた航海に出られるんだ。ここは祝福して欲しいところだね」


 奴はそんな事を言って去って行った。

 随分とあっさりした別れになったなと一瞬思ったが、次の瞬間思い返した。

 死別、離別、そんなものを考えると余韻のある別れの方がむしろ少ない。

 別れとはきっとそんなものなのだ。


 帰りはアルストム先輩が言った通り、別ルートから。

 先輩の代わりにフィンが案内してくれた。


「このルートは前から知っていたんだけれどね。あの時は認証が無かったから使えなかったんだよ」


「これからは何時でも使えるのでしょうか」


「基本的にはね。ただラトレの迷宮ダンジョンを通るから入口の受付を何とかしないとならない。

 来るときに受付で長期探索をすると申し出て、3日くらいの期間を記載しておくとかね。

 そうでなければ夜間、受付がいない時に隠蔽魔法を使ってこっそり出入りするとか。

 今回はシャミー教官が記録を誤魔化しておいてくれたそうだから、そのまま受付経由で出て大丈夫だけれど」


 その台詞で思い当たる事もある。


「以前端末操作をおぼえたというあの隠し部屋か」


「そういう事。あの近くに此処へ来る乗り物の乗り場があるんだ。あの埠頭見学用に使っていた乗り物の、見物用ではなくもっと速い奴だよ」


 そこから白い廊下を通り、箱型の移動装置を使い、更に椅子のある長い、80席くらいある乗り物に乗り換えて移動。

 1時間くらい乗った後に扉が開いたので降りる。


「ここはもうラトレ迷宮ダンジョンだよ。10階と11階の間にこの乗り物が走る場所がある訳」


「なら随分速いんだな。馬車を使えば1週間は見込む距離だろう」


「概ね高速馬車の30倍かな。それに馬車を使うと宿泊分の時間が余分だよね。更に途中からは歩きだし。

 それでもこのパーティなら歩きの所要時間が短くて済むから4日間くらいで来ることが出来ると思うけれど」


 フィンの後ろをついていくと階層転移陣と似た図形があった。


「ここに乗るのか」

「そうだよ。それで第10階層の階層転移陣に出るんだ」


 全員が乗ったところで覚えのある浮遊感。

 景色が変わった。

 いかにも迷宮ダンジョン内らしい石造りの、転移陣が2つある部屋に出る。


「もうラトレ迷宮ダンジョンか」

「でも前にこんな転移陣無かったよね、これ」


 確かに此処はラトレ迷宮ダンジョン第10階層にある転移陣の部屋だ。

 書いてある注意書き等から見て間違いない。

 しかし俺達が今乗っているこの転移陣は無かった筈だ。

 

「呪文を唱えるか認証があるかでこの転移陣が使えるようになるんだ。

 もう皆、認証があるからこの転移陣は見えっぱなし状態だよ。認証が無くとも『入場券プレイゼントティッセラ』の呪文で見えるようにはなるけれどね。呪文で入った場合はさっきの乗り物に乗れないけれども」


「その認証はどうやれば貰えるの?」

「その辺はシャミー教官と相談かな。僕らが出来る事じゃないから」


 あとはいつものラトレ迷宮ダンジョンと同じだ。

 転移陣経由で受付へ。

 シャミー教官がどうにかしたのだろう。

 俺達は今日の朝一番で此処に入った事になっていた。

 だからついでとばかりに極限で狩った魔物の一部も出す。


「これはここの迷宮ダンジョンでよくある魔力と少し違います。どの辺の階層で狩られました?」

「第49階層です。今日はその中を簡単に見学したので」

「そのくらいの深層なら確かにこのような魔力でしょうね。わかりました」


 割とあっさり褒賞金が出た。

 そうやって俺達はエデタニアに戻って来た訳だ。

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