170 質問の答
「その管理についての方針がどのように違ったのでしょうか。元々の管理方針は先程聞きました。ですがその方針がどう違ったのでしょうか。それをまだ聞いていません」
ネサス先輩だ。
まさに俺が思った通りの疑問をアルストム先輩にぶつけた。
「悪いね。それを此処で今、言う訳にはいかないんだ。イアソン様の手前というのもあるし、余分な知識を先に与えない為にもね」
「どういう事でしょうか」
俺が思ったのと同じ事をネサス先輩が尋ねる。
「先入観なしの意見が聞きたいだろうからね。この先で待っている方々は」
方々か。
複数形だ。
1人はイアソン様と呼ばれている人だろう。
しかし複数形という事は他にもいる筈だ。
十人位残っているという第二世代の誰かだろうか。
それともペレスさんのような此処で働いている亜神の誰かか。
しかしどちらも違うような気がする。
アルストム先輩の雰囲気で何となくそう感じるのだ。
「何の意見を聞きたいんだ。そして誰がなんだ」
「この世界がどうあるべきか、それについての意見さ」
ハミィ先輩にそう答えて、そしてアルストム先輩は続ける。
「イアソン様も第二世代の皆さんもわからなくなっている。長生きし過ぎて人間がどういうものだったかをね。
あの人たちは人類という種の維持について長い間携わってきたし研究もしてきた。でもそのせいでまさに個々の人間というものがわからなくなってしまったんだ。
だからこそ向こう側、居住空間で生まれて育った人間の意見を聞きたいし参考にしたい。そう思っている。
今後のイベリアをどう運営するべきか考える為にね。
以上がここに乗りこんですぐにネサスが質問した『何の目的で私達をここへ連れて来た』かの答さ。そしておそらくイアソン様が正規の入口を開けて僕らを待っていた理由でもあると思うよ。
ただ問題はそれだけでは済まなくなったという事かな。どうやらもう少し面倒な事態になりそうだ。僕の予想以上にね」
「どういう事でしょうか」
「イアソン様だけじゃない。メディア様もいる。あとは……ゲッ!」
ネサス先輩の台詞とペレスさんの台詞がかぶる。
だが俺は気付いた。
確かにこの先に3人待っているのがわかる。
そのうち2人は俺が知っている人だ。
当然その2人にイアソン様という存在は含まれていない。
「ハンス君は3人ともわかる筈だね。消去法でさ」
俺は頷く。
「やはりシャミー教官が3人目の第一世代、かつてキルケ様と呼ばれていた存在なんですね」
「その通りさ。まさか半ば伝説の存在に、冒険者学校で出会う事になるとは思わなかったけれどね」
そんな予感はしていたのだ。
直接のヒントは夏休みに働きに行ったウーニャの村。
あそこは獣人の保護を目的としていた村でエルフもいた。
そして村長がメディアさん以外の第一世代だとも聞いた。
あの村はシャミー教官に紹介されたのだった。
それ以外にもヒントはいくつもある。
賢者以上の魔法を使いこなすところ。
極限とその先についてよく知っている事。
そこまでの存在はそう何人もいるとは思えない。
「シャミー教官って、あのシャミー教官?」
これはアンジェだ。
「ああ。冒険者学校のあのシャミー教官だ」
「本当かよ」
今度はライバーだ。
なおうちの前衛2人以外は『成る程』とか『察した』という感じの雰囲気である。
いや、もう1人違う雰囲気の人? もいた。
「前に酷い目にあわされたんだよあの女に。あれがキルケ様だったのか」
ペレスさんだ。
一体何があったのだろう。
「季節風の流れを変えて翼竜を誘導なんてするからだ。自業自得だろう」
アルストム先輩は知っていた模様だ。
「やめてくれ。その件で散々あの女、いやキルケ様に絞られたんだ。
ペレスさんはいかにも大変だったという雰囲気だ。
それにしても季節風が変わって翼竜が。
何か何処かで聞いたような気がする。
「野外実習でハンス君達のパーティが翼竜退治をする事になっただろう。あの原因はペレスさ。
ハンス君がメディア様の山荘を出て冒険者学校に入った後、特別な動きが無かったからね。なら実力を試してみようってペレスが気候操作をして仕掛けた訳だよ。
まあその事については夏休み期間中、みっちり絞られたみたいだからね。とりあえず不問してやってくれないかい」
あの件はペレスさんが原因だったのか。
しかし気候操作という単語と目の前のペレスさんが今ひとつ結びつかない。
しかしそのせいでシャミー教官があの村へ行くことが出来ず、俺達が行くはめになった訳か。
そう思うとそれほど悪い事でもない。
「あれはあれで儲かったからいいよな」
「そうよね。楽しかったし」
前衛2人もそんな事を言っているくらいだ。
問題はないだろう。
「シャミー教官の件はまあわかった。しかし『この世界がどうあるべきか』か。そんな抽象的な質問、私に答えられるとは思えないけれどな」
確かにその通りだな。
ハミィ先輩の台詞を聞いて思う。
「心配はいらないさ。実際にはそんな抽象的な質問をする訳じゃない。
ペレスはその授業で習わなかったかい? 古き者が何を求めているか」
「この世界をどうしたいのか。古き者はそれがわからなくなった。故にこの世界で生まれた者を新たに神格持ちとして受け入れる事にした。その話かい?」
アルストム先輩は頷く。
「その通りさ。しかしカイもベルグも、サッチャやフェールも、そしてペレスもその辺全く答えてくれなかった。そう船長は言っていたな」
「だって世界はただ在るものだよね。どうかするものじゃなくて」
アルストム先輩は再び頷く。
「そこなんだ。
イアソン様にとっては世界は在るものじゃない。造ったものだ。だから管理運営しないと壊れてしまうかもしれない。もし壊れたならそれは造った者の責任。そう感じてしまうんだ。
その立場から見ると『在るもの』という答は無責任に感じてしまう訳さ。つまりイアソン様は『在るもの』という答を理解できない」
アルストム先輩の言わんとしている事は、何となく感覚的にはわかるような気もする。
しかしそれを説明しろと言われても説明できない。
少なくとも俺には。
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