71 応援要請

 待機室の小屋から出てぐるっと回れば村の門だ。

「はじめまして。今日の待機冒険者のハンスです。まもなくゴブリンがやってきますので参りました」


「ゴブリンですか」

 さっと2人は身構える。


「何匹ですか。あわせて3人で大丈夫ですか?」

「とりあえず6匹です。私は攻撃魔法を使えるので1人で大丈夫です。少し離れた場所で始末します。こちらまでは来させませんので、お2人とも門番業務のほうに専念お願いします」


「わかりました。お気をつけて」


 村外に出る。

 雨の中の討伐は久しぶりだ。

 冒険者は通常、雨の中で討伐をしないから。

 メディアさんの山小屋で生活をしていた頃以来になる。


 この辺は雨スライムは出ないようだ。

 大きな街の近郊とか魔の森とか、魔素マナが濃い場所でないと出ないのだろうか。

 何にせよ出ないのはありがたい。

 その分自由に動ける。


 ゴブリンの魔力反応は捉えている。

 最初の6匹だけではない。

 他にも坂をのぼり始めたゴブリンが数匹。

 全部上ってくれば21匹だ。


 早速モリさんとアンジェに伝達魔法で連絡する。

『他にも上ってきそうなのがいる。まとめてこの周辺で始末するつもりだ。気配隠匿を使うから俺の気配は追えなくなるかもしれないが、概ねこの辺にいる。心配しないでくれ。以降随時連絡する。モリさんもアンジェもまだ出る必要はない。そこで待機していてくれ』

 

 2人は伝達魔法を使えないので返答は無い。

 でもこれでこっちの状況は理解してくれたはずだ。


 さて、再び俺は辺り一帯を走査しつつ歩き出す。

 山で暮らしていた頃以上にこういった探知は得意になった。

 だが足場が悪いし視界も最悪。

 元々獣人の俺でも普段より遙かに気を使う状況だ。

 ただ雨スライムが出ていないのが救いといったところだろうか。

 ここの村の人口では雨スライムが出る程には魔素マナがたまらない模様。


 音を極力出さないよう歩きながら最初のゴブリン6匹の前方に移動する。

 森の中なので射線が通りにくい。

 ある程度接近してから片づけよう。

 隠形魔法と気配隠匿魔法を使用して少し待機。


 ゴブリン達が近づいてきた。

 雨の中、しかも坂を登る形なので速度は遅い。

 あと10腕20m、そろそろ狙える距離だ。

 だが逃げられると厄介だからぎりぎりまで待つ。

 3腕6m、もういいだろう。


 熱線魔法を起動する。

 一気に6連射、この距離なら外さない。

 ゴブリンはこちらに気づかないまま倒れる。

 あとは高熱魔法で死骸を始末するだけだ。

 これをやらないと臭いその他で他の魔物が寄ってくる事があるから。


 残った魔石だけを風魔法で採取して、もう一度付近を走査。

 今度は3匹が3組か。

 先頭は10半時間6分以内に到達しそうだ。

 これも始末しておこう。


『ハンスから続いて連絡。6匹は始末した。次にくる3匹の組のうち先に来る方を待ち受ける。もう少しかかるが心配は無い。魔力も余裕がある状態だ。

 それより後は途中で動きを止めている。こっちは2匹ずつが多くて合計9匹。他の魔獣や魔物はいまのところここから堰堤までの間にはいない』


 そう言いながら少し考える。

 3匹のうち最初の組は今の6匹と同じコースをとってくるようだ。

 だからこっちで待ち受ける。


 1つの組は途中で山を登らず堰堤側へ引き返した。

 だが最後の1組の3匹はやや西側へ続くルートを歩いている。

 このままだと村の外壁にぶつかるコースだ。

 こっちを倒してすぐ向かえば外壁到達にはおそらく間に合う。

 ゴブリン3匹程度では外壁を壊す事は無いだろう。

 だが騒ぎになると面倒だ。


 どうしようか少しだけ考えた。

 以前の俺なら前進して一気に3匹を倒し、すぐ転進だろう。

 1人で片づけた方が考えなくて済む。


 だがその方法を取ると門からかなり離れてしまう。

 俺が見逃した何かがあった際、すぐに駆けつける事が出来ない。

 それに今は俺も今は大分普人というか冒険者的な考えに慣れて来た。

 ここは素直に残り2人に頼ろう。


『モリさん、アンジェ。後方の3匹は西側、このままだとアージラ地区の外壁の辺りに出る。こっちを始末したらギリギリだ。だからモリさん、弓装備でアージラ外壁監視所に向かってくれ。

 あとアンジェ、雨だし弓だと威力が下がる可能性がある。だから門のところで門番さんと待機頼む。そっちに向かったら伝達魔法で連絡する』


 こうやってパーティで対処するのが普人の冒険者の流儀だろう。

 技量的にはモリさんもアンジェも問題は無い筈だし。

 2人とも伝達魔法を使えないから返答は無い。

 だが少ししたらモリさんの反応が動き始めた。

 これで俺が間に合わなくても安心できる。


 さて、俺はまず次の3匹を倒そう。

 走査による状況把握は緩めず、それでも気配隠匿と魔力隠蔽をして待ち受ける。

 ゴブリンが近づいてきた。

 早めに始末しようと思うのを抑えて待つ。

 確実に倒さないとならないから。


 先程と同じ3腕6mの距離で熱線魔法。

 焦る心を極力落ち着けて、先程と同様魔石確保まで行う。

 走査の結果、未把握の後続は無い。

 ならもう1組、村に向かってくる3匹を目指そう。


 モリさんが監視所に向かったから合流した方がいいだろう。

 村の中を通った方がやや遠くはなるが足場がいい。

 結果的に早く到着できる。


『モリさんとアンジェへ。こっちの3匹は倒した。これから一度村に戻って、監視所のモリさんと合流する』


 村の方へ、門へと急ぐ。

 村は坂の上側だ。

 雨で土が泥状態になり非常に歩きにくい。

 門までは来た時より少し手間と時間がかかった。

 あれ以上ここから離れないで正解だったようだ。

 

「お疲れ様です。怪我は無かったですか」


「大丈夫です。ただもう3匹、西側に向かっています。これから私もそっちへ向かいます。アンジェ、ここは頼む。万が一向こうで逃がしたら連絡する」


「ハンスとモリさんがゴブリン3匹を逃がすとは思わないけれどね。任されたわ」


「こう見えてもアンジェは前衛の槍使いで炎系の魔法も使えます。ゴブリン数匹程度なら全く心配いらないですから」


 それだけ言って俺はモリさんの方へと急ぐ。

 流石に村の中は段違いに歩きやすい。

 ぬかるんだ森とは全然違う。

 小走りで動くと監視所が見えてきた。

 よく知ったモリさんの魔力反応もある。

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