54 現場到着

「この辺ですね。ここならこちらからも向こうからも確認はしやすいでしょう」

 シャミー教官がそう言ったのは砂利や礫が主体の水無川となっている場所だ。

 周りはいわゆる雑木林。

 あまり大きな木が生えていないのはこの川が時折氾濫するからだろう。


「それじゃフィン、さっき言った自衛兵器を頼む」

「わかった。まずは横にして出すから、構えてみて」

 そう言ってフィンが出したのは長さ1腕2mくらいある長い筒のようなものだ。

 基本的には鉄製で、持ち手のような場所が3箇所あり、一番後ろ側の方は持ち手部と筒部分に革が巻いてある。


「基本的にはクーパーやエマ、ケイトに渡したものと同じなんだな」

「原理はね。ただこれは矢も鉄と銅製だよ。元々この新型の特殊弓をどこまで強力に出来るか試す為に作ったものでね。矢もそれにあわせて強力なものにしたんだ」


「なら矢は今、幾つ使えるんだ?」

「作ってあるのは12本。この筒の後ろ部分から入れて蓋をするようになっている。でも重いから2人がかりだね。1人が肩で担いで支えて1人が矢を入れる感じになるかな」


「矢の現物を見せてくれるか」

「これだよ、もうこれには入っているけれど、1本しか入らないから射たら入れないとならない」

 太さが直径2指2cmくらい、長さが15指12cmくらいでずしりと重い。 

 なるほど。

 矢だけでもかなり重量級かつ強力な代物だ。


 さて、まわりは細い雑木と岩ばかりで的にちょうどいいものが無い。

 だから土魔法で試射用の的をつくる。

 今回はかなり強力そうなので魔猪イベルボア2腕4mサイズを2頭分。

 それも50腕100m程度離した場所に作成。


「それでは1発だけ試射をしてみる。これはどうやって持てばいい?」

「後ろの革部分を肩に載せて、前の持ち手を持って、あとはクーパー達のと同じだよ。肩だけでなく手でもしっかり握っていないと当てた部分が痛くなる。あとしっかり足を踏ん張っていないと後ろに飛ばされるから注意して」


 言われた通り右肩に載せ、両手でそれぞれ握り棒を握る。

 筒部分を的よりこころもち上に向けて、身体に力を入れて魔力を通した。

 瞬間、両手と肩にぐっとかかる暴力的な力。

 強烈な爆発音。

 少し遅れて前に広がる土煙。


「どう?」

「確かにかなり力はかかる」


 土煙が立ったということは失敗だろうかか。

 矢が思ったより下へ行ったのか。

 風魔法で土煙を飛ばして確認する。


「威力は充分ね。でも試射にしてはちょっと上を狙いすぎじゃない」

 的の粘土製魔猪イベルボア2頭のうち前側の方はかすめただけのようだ。

 それでも背中から後ろがえぐれて無くなっている。

 さらに後ろ側の魔猪人形は足だけが残り他は吹っ飛んでいた。

 そして更に先の岩をかなり抉っている。

 砂埃はこの岩からだ。


「予想以上に真っすぐ飛ぶ。50腕100m先だから60指60cmは下がるだろうと思って上に向けた。でも実際は20指20cmくらいしか下がらない。これなら空中にいる翼竜相手でも問題なさそうだ」


「でも当てられそう?」

「問題ない。翼竜なら翼の一部でも傷つけば落ちる。翼に風属性魔法がかかっているから普通の矢は当たらない。でもこの威力なら翼の風魔法を抜ける」


 パワーと力さえあれば槍投げでも翼竜は倒せる。

 無論そんな事は俺でも無理でメディアさんクラスの話だ。

 実際メディアさんは槍で近場まで来た翼竜を倒したことがある。

 でもこの新型弓なら同じ事が出来そうだ。


「なら、やるの?」

「ああ、問題ない」

 俺はミリアに頷く。


「落としてしまえば勝ったも同然だろう。翼竜は身動きがとれない。咆哮も翼竜程度なら俺やミリアの魔法で充分無効化出来る。あとはライバー先頭にアンジェ、ケビン、メラニーで背後方向から近づいて首狙いで攻撃して貰えば倒せる筈だ」


「でも翼竜がそうちょうどいい距離に近づいてくれるかしら?」

「魔法や弓でアピールすれば問題ない。無論俺とミリア以外は雑木林の中から射って貰う。そうすれば見通しのいいところにいる俺を狙うだろう。ミリアはある程度翼竜が近づいたところで強烈な風魔法で叩いてくれ。落ちはしないだろうが少しは体勢を崩す筈だ。そこを狙う。一撃勝負だ」


「もし外したらどうするの?」

「外すつもりは無い。だが万が一射る事が出来ない等の場合は接近戦だな。ぎりぎりまで近づいた後、魔法剣術で勝負をかける。タイミングが難しいから出来ればやりたくない」


「勝算はどれくらい?」

「この特殊弓で倒せる可能性が5割、倒せないまでも落とせる可能性が4割、魔法剣術が必要な可能性は5分程度だ」

「つまりまず勝てると思っている訳ね」

「ああ」


 それでもだめなら最後の手段もある。

 本気の威圧をかければ翼竜でも動きを止められるだろう。

 だがこのスキルは普人は使えない。

 威圧は獣人専用のスキルだ。

 使った場合はシャミー教官に俺の正体がバレてしまう可能性が大きい。

 そうすればこの学校を逃げ出さなければならない訳だ。

 だからこれはあくまで最終手段という事になる。


「何か他にも奥の手を残しているようだけれど、まあいいわ」

「って本当に翼竜と闘うつもりかよ」

 クーパーの台詞にモ―リが頷く。


「そうだと思うよ。更に言うとほぼ確実に勝てると確信していると思うな」

「本気なんだな、これは」

「腕が鳴るわよね、翼竜相手なんて」

 明らかに新旧メンバーのテンションが違う。

 前からの面子は全員やる気だ。

 一方で新しい面子は本気かよという雰囲気。


「教官はどう判断されますか?」

 ケイトがシャミー教官に尋ねる。

「各パーティのリーダー判断に任せます」

 止めない模様だ。

 というか、もともとけしかけたのはシャミー教官だしな。


「それじゃ作戦と言いたいところだけれどね。流石に僕も翼竜相手となると知識が足りない。だからハンスとミリアに任せるよ。モリさんもそれでいい?」

「ああ、私もそうする」


「わかったわ」

 引き継いだのはミリアだ。


「それで教官、翼竜はあとどれくらいで出てきそうでしょうか?」

「この気温だと早くてあと半時間ほど、遅くても1時間程度で出てきます」

 シャミー教官がどうやってそう判断しているのかは俺にはわからない。

 でも信じていいのだろう。


「ならあと3半時間20分で周りの魔獣を一掃するわよ。ハンスとクーパー以外はこの水無川をあと50腕100m程下へ行って待機。私はやや上から待機場所まで川沿いに藪や雑木、雑草を焼き払って開けた道を作るわ。

 そうしたらハンス、一番近い魔小猪イベルデミボア2頭と他の魔獣できるだけいっぱい引き連れて魔獣牽引トレイン。私が下で待っているから多すぎても問題ないわ。


 それが片付いたらクーパーが残ったうち目に付く魔獣を適当に引き付けて魔獣牽引トレイン。2回でこの近辺の魔獣を片づけるからそのつもりで。


 2回終わったらショーン、クーパー、モリさんは解体専従。他はハンスとフィンを除いて解体の周囲警戒。ハンスとフィンは翼竜の迎撃準備よ。翼竜が落ちてなお生きている様だったらライバーを先頭にアンジェ、ケビン、メラニーで翼竜の背後に回って首狙い。エマとケイトは引き続き解体組の警備。

 以上、わからない事があったら随時聞くわ。それじゃハンスとクーパー以外移動」

 

 有無を言わさずそう言い切って、ミリアが早速熱線で水無川の流れに沿って雑木林を始末しはじめる。

 炎ではなく熱分解している形なので火災は起きない。

 流石だなと思いつつ、俺も索敵しつつコース取りを考え始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る