46 新兵器の配布
本日は授業終了後に校門のところに集合。
昨日と同じく12人で出る計画だ。
なぜ昼食後ではないかの理由は簡単。
「学校の昼食よりショーンに作って貰った方が絶対美味しいじゃない!」
「そうだよね。私もそう思う」
「学校で食べるのより安く済むしさ」
そういう意見が多かった為である。
「今日もカペック平原か?」
「半日で行くにはちょっと遠いけれどね。実入りがいいし」
実は他の理由もある。
訓練上の理由ではない、胃袋上の理由だ。
「本当は
このアンジェの意見にミリアとモリさん、ライバーが同調してしまったのだ。
そんな訳で平原まで片道1時間ちょっと歩いていく。
なお休息日と同じ道なのでエマが薬草を取りまくるという事は無かった。
「確かにある程度は生えています。でもこの程度ならもう少し増えるまで待った方がいいと思いますから」
との事である。
今日は魔物に会わずにカペック平原に到着。
トレイン前に一度立ち止まる。
「さて、まずは昼食用の魔獣を狩ろうか。でもその前に、まずケビンにこれ」
フィンが自在袋から槍を取り出す。
昨日俺と2人で作ったものだ。
「普通の槍に見えるが、いいのか」
「僕とハンスで昨日作ったんだよ。狩ったゴブリンの武器を使ってね。とりあえず試してみて。多分今までのより折れにくいし使いやすいと思うよ」
槍そのものはケビンがいくつか背負っているものとほぼ同じに見える。
だがその違いは使えば明らかだろう。
作る過程やフィンがどこに重点を置いたかを知っている俺はそう確信している。
ケビンは手に持って、そして槍を構える。
そして何か怪訝な顔して、振ったり突いたりの動作を繰り返す。
「何だ。動かした際にブレが無い。重さも形も普通の槍と変わらない筈なのにしっくりくる」
「その槍なら相当激しく使っても折れたり曲がったりする事がないはずだよ。材質調整を厳密にしたしね。あと重心というかバランスにもとことん拘ってみたんだ。ハンスは木材の材質調整も出来るからね」
「これって、フィンとハンスが作ったのか」
「そうだよ。昨日回収したゴブリンの装備を材料にしたからお金はかかっていない。だから気にしないで使って」
「でも買うと結構するだろう、これは」
「僕の趣味と修行用だからね。それにこれで戦力が上がればパーティも楽だし」
いいなーという顔で見ている新人の皆さんと、それを生暖かく見ている元からのパーティメンバー。
「次はメラニー用だよ。斧じゃないから少しだけ使い勝手が変わるけれど」
次にフィンが出してきたのは剣だ。片手剣の長さだが分厚い刃が半月状に湾曲したかなり独特の形をしている。
「これは剣なのか?」
「南の方で使われている剣の一種だよ。ちょっと重いけれど斧とそう変わらない筈だし、慣れると斧より手返しがいい筈だよ」
両手用に2本メラニーに渡す。
「面白いな。ふり心地が斧とよく似ている」
「そういう風に作ったからね。でも実際に獲物に使うと違いがわかる筈だよ」
「これも2人で作ったの?」
「そう。僕だけだと木材部分が出来ないし、金属の材質調整も魔力的に厳しいしね」
そう言ってフィンは今度はショーンの方を向く。
「ショーンはきっと今まで自分にあう武器が無かったんだと思うんだ。だからとりあえずお試し用に作ってみた」
そう言って出したのは……
「どう見てもフライパンよね」
ミリアが言う通り、柄が長めで直径も大きめのフライパンだ。
「その通り、形はフライパンだよ。ただ勿論これは武器として作ってある。見た目は柄と鍋本体の角度が調理用のフライパンと違う程度だけれどね。まずは片手で持ってみて」
ショーンは右手で柄を握る。
「何か魔力を感じるんだな」
「取っ手と内部に魔力導線を仕込んでいるからね。基本的にはメイスとして使う様に出来ている。つまり殴り用だね。ただ魔力導線を通してあるから魔法杖機能もある。フライパンの内側を上に向けて、料理で加熱するのと同じ容量で魔力を通してみて。いざという時はハンス、よろしく」
つまり魔法が起動する、あるいは暴走する可能性があるという事だな。
いつでも相殺できるよう魔力を練っておく。
ショーンがフライパンを通常に持つ姿勢で目を少し細める。
ぼっとフライパンの内側から炎が上がった。
「これって」
「そういう事だよ。使いやすいのは火属性の魔法。今は炎が上がったけれど、少し要領をおぼえれば熱線も火球もこれで出せる筈だよ。更に慣れればこれで火属性以外の魔法も出せる筈だよ」
「うわっ」
フィンの説明の間に早くも
俺はすかさず氷属性魔法を起動して上空で対消滅させる。
「魔法杖として使う場合は鍋の内側の正面を敵に向ける形になるよ。また鍋そのものを高熱にして叩くなんて事をしてもいいし。その辺の応用はショーン次第かな」
「でもこれ凄すぎるんだな。かなり
「これも僕とハンスが作ったものだから気にする事はないよ。材料も
実際には魔法導線部分に高価な
「まさかと思うけれど、俺っち達にも新しい武器があるのか?」
クーパーが気づいたようだ。
「勿論。でもクーパー用とエマ用、ケイト用は少し練習が必要だから昼食用の魔獣を獲った後、昼食を作っている間に説明するつもりだよ。だからもう少し待って」
「おし、それじゃそれを楽しみにちょいトレインかけてくるぜ。昼食用だから牙ネズミがいいんだよな」
「牙ウサギでもいいけれど、アレは本当は少し寝かせたほうがいいんだな」
「わかった。それじゃちょいひとっ走り、全員1匹ずつ分くらい連れてくるぜ」
「それじゃこっちは待ち受ける準備をしよう」
まずは昼食用の狩りがはじまる。
◇◇◇
予定より少しだけ多めに狩った後、この前と同じ休憩場所へ移動。
今度はクーパー、エマ、ケイト用の武器になる。
なお今回はショーンの手伝いはアンジェとモリさんがやっている。
「あの技術をおぼえればこっちの班の昼食も美味しくなるよね」
というアンジェにモリさんが付き合わされた形だ。
「さて、これがクーパー用、これがエマ用、こっちがケイト用。大きさは違うけれど仕組みや使い方は全部同じだよ」
形は長い鉄製の筒があり、その片方にやはり鉄製の箱があって、そこから手で握る場所が1本か2本ついているという形状だ。
正直似たものを見た事が無いからどう表現していいかよくわからない。
なおクーパー用が一番小さく長さが
エマ用は中くらいで長さが
ケイト用は長さが
「これはどういう武器なんだ? 俺っちは見た事がないものだけれど」
「簡単に言えば弓の一種だよ。矢ではなくて土製の塊を飛ばすんだけれどね。そんな訳でまずは飛ばす塊を作るんだ。この塊を作る道具は3人とも全く同じだよ。あとどれで作ってもこの3つの弓のどれで使う事もできるよ。まずはね」
フィンは筆箱くらいの大きさの箱を取り出して、クーパーとケイトに渡す。
「クーパーとケイトはこれで僕がやったようにやってみて。エマ用で説明するからエマは僕がやるのを見ていてね。まずはこの蓋を開いて、ここに土を詰める。土は粘土質のものがいいな。この辺だと此処へ来る途中の崖の下の方にある灰色の奴。今回は僕が取ってきたけれどね」
フィンが渡した粘土を2人とも箱につめる。
「つめたら箱をしめて、この部分とこの部分を握ってえいやっと魔力を通す。ちょっとでいいよ」
カチッ、と音がした。
「この音が出れば矢のかわりになるものが完成。また蓋をあけるとこうなっているから、この細長い尖った筒のようなものを取り出す。20個ある筈だよ。土が足りないともっと少ないけれど」
細長い円筒形で先だけが円錐のように尖った形状の塊が出来る。
大きさは円筒の直径が
さっきの土で出来た筈だがほとんどの部分は滑らかで固く出来ている。
一部だけやや柔らかい場所があるのは筒の中から爆発した際の空気が逃げないようにする為と、矢が筒の中を通る時に刻んである溝で回転を加える時の為。
筆箱大の大きさの箱にこれを整形し加工する魔術式や魔法陣がびっしり描かれていて、魔力を通せば自動的に出来るようになっているのだ。
クーパーもケイトも問題無く出来た模様。
「ここまで出来ればこの箱は仕舞って、こんどはこの弓の方。この筒の一番端のここの部分にこの矢を入れる箱があるんだ。ここを押せば開くから、今作った矢を入れる。クーパーのは10個までしか入らないから残り10個はポケットに入れておいて。ケイトのとエマのは30個入るから今回のは全部入れて大丈夫」
「矢のかわりがこれって、随分とまた小さいんだな」
確かに俺もクーパーの言いたい事はわかる。
これで魔獣に対して威力があるか、疑問に感じるのだ。
俺も最初はそう思ったからな。
実験して理解したけれど
「ここまで出来たらあとは簡単だよ。ここのレバーを上に上げて、弓のこの握り棒を握って、筒の先を敵に向けて、右手人差し指の部分に魔力を通すだけ。そうすればさっき作った矢がこの筒をすごい速さで出て行って、敵に当たる。
ただ危ないから射る時以外はこのレバーは上に上げておいてね。そうすれば矢は出ないから。
それじゃその辺の木に向けて試してみて」
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