17 ミリア式レベリングと後の課題

 授業開始後、3日程経過した。

 俺は2曜日の実技選択授業に土属性魔法中・上級を選択。

 3曜日の実技は全員必須の体力訓練。

 そして今日4曜日の実技選択授業は生命属性魔法を選択。

 明日5曜日の実技は選択無し全員必須の魔法演習だから前期での授業の選択はこれで終わりだ。


 午後の依頼実施兼モリさん達の訓練も順調に進んでいる。

 今日はやはり1対1だがミリアの指示無しでゴブリンを倒す訓練。

 あのモリさんでさえ大分慣れて来た感じだ。

 相手がゴブリン1匹だけなら落ち着いて対処できるようになった。

「次は2匹に挑戦よ」

とミリアに言われてビビっていたけれども。


 さて、ミリアと約束の4曜日の夜だ。

 本日の討伐から帰ってきた時も、

「今夜の約束おぼえているわよね」

と言われた。

 きっと何か見せたいものがあるのだろう。

 それが何かは俺にはまだわからない。

 でも楽しみだ。


 夕食後自在袋が仕込まれたいつもの鞄を持って学校の門の横で待ち合わせ。

 ミリアもすぐにやってきた。

「それじゃ行くわよ」

 それだけ言って西門の方へ歩き出す。


「場所はどの辺だ」

「午後にゴブリン討伐に行っているあの辺りよ」

 あの辺りか。


猪魔獣ワイルドボアでも狩るのか」

「学校の事務室では受け付けてくれないでしょ」

 確かにそうだ。

 学校で受け付けるのは猪小魔獣まで。


 途中お約束のように出てくるゴブリンやスライムをビシバシ退治して進む。

 俺とミリアならこの程度の魔物は相手にならない。

 結果としてそこそこ魔石を稼いだにも関わらず、昼間に隊列組んで歩くのとほぼ同じ程度の所要時間であの崖線に到着。


 ここから道は切り通し状態になってのぼっていく。

 なおいつもの連中と討伐をする場合は道から外れて右側崖沿いへ。

 だがミリアは左側へと向かう。


「こっちは行った事が無いな」

「向こう比べて足下が悪いから他の冒険者もあまり来ないようね。だから選んだのだけれど」


 確かに所々崩れていたり大きな石があったり。

 俺達がこっちへ来ないのは偶然だと思っていたが、どうやらミリアはこっちの足もとが悪いと知っていたようだ。

 何気に色々探索しているのだなと思う。

 

 もっとも多少足もとが悪くとも獣人の進化種スペルドである俺には大した事は無い。

 暗視能力もあるし。

 それは普人の進化種スペルドであるミリアも同じだろう。

 ただこのペースなら昼間でもいつもの面子では無理だ。

 当分は向こう側オンリーでやろうと思ったりもする。

 

 崩れた場所を3カ所、落石というか岩を2カ所乗り越え、ついでにコボルトを4匹討伐した先、やはり岩が落ちている場所の手前でミリアは立ち止まった。


「ここ、わかるかしら」


 何だろう。

 気になるので全範囲を走査魔法で探ってみる。

 森方向は通常の魔物ばかりで問題無い。

 崖上方向も同様だ。

 となると……まさか……


「ここで強化習得レベリングを仕掛けたのか」

 岩の奥、斜め下の地中からおぼろげだが大きめの魔力反応を感じる。


「そうよ。せっかくだから私風に改良してね。土属性魔法、移動!」

 岩がごろりと森側に転がる。

 中には紛れもなく危険な反応。

 しかも中、水が溜まっている。


「ミリア・ファリーナの名において命ずるわ。雷精よ、障害を滅せよ!」

 ビリリツ!

 離れている俺でさえ感じる強大な雷魔法。

 一気に水面近くの魔物は全滅した。


「まだまだ行くわよ。火属性魔法、炎熱!」

 中に溜まった水が一気に蒸発をはじめる。

 もわっとした熱気が押し寄せてきたので俺は穴から更に離れた。


 なるほど、俺は火属性の魔物を生成して水魔法で討伐したが、ミリアは逆に水属性の魔物をここで生成した訳か。

 魔物を退治する時に得意属性の魔法を使える方が有利だからな。


 観察してみるとこの穴、俺と違って掘った模様だ。

 掘った後に森の木を突っ込んで熱魔法で灰にしつつまわりをかため、更にその木灰を釉薬代わりにして壁の水止めをしている。

 その辺を含め俺の教えた方法からかなり工夫しているようだ。


 だが炎熱魔法が次第に効きにくくなってきた。

 理由は簡単、中に水属性の魔物、それも大物がいて抵抗しているのだ。

 このままではミリアの魔力が尽きるのが先になる。

 大丈夫だろうかと思ったその時だった。


「それじゃ仕上げよ。ミリア・ファリーナの名において命ずる。雷精よ、この穴の中の魔物全てを滅せよ!」

 こう来たか!


 水属性の魔物は先天的に雷属性の魔法に弱い。

 だが水が大量にある場合は、雷属性の魔法は水の底までは効かない。

 だから炎熱魔法で水をできる限り蒸発させ、最後に雷魔法で仕上げる訳か。

 方法論として完璧だ。


 穴の奥から魔物の気配が薄れた。

「仕上げよ、火属性、水属性混合魔法、爆発!」

 おい!


 穴の中で大爆発が起きる。

 先程動かした岩を更に吹き飛ばし、森の木が数本折れる。

 それだけではない。

 穴が崩れはじめるとともに、上の崖も崩れた!


「逃げるわよ」

 ミリアは俺より先に森方向へと逃げている。

 来た時より遙かに速い速度でだ。

 俺も本気で森の奥、でも街方向へ向かって逃げる。

 ザザザザー

 崖が崩れる音が止まった。

 何とかこれで終わったようだ。


「どう、私方式の強化習得レベリング

「確かに強力かつ正しい。でもまわりに迷惑ではないのか」

「この辺は崖崩れが多いみたいだから問題無いわよ。それじゃそろそろ限界。あとは宜しくね」


 ミリアはそう言うとふらりと倒れかける。

 咄嗟に抱きかかえて、そして気づいた。

 確かに今の魔物の数を倒したらレベルアップするだろう。

 それも数レベル一気に。


 この前、俺が試した時よりも魔物の質量ともに上だった。

 つまり当分ミリアは目を覚まさない。


 仕方ない。

 また連れて帰るしかないいようだ。

 俺はミリアをとりあえず横たえ、背負う準備をはじめた。


 ◇◇◇


 塀を跳び越えて街に入り、隠密魔法をかけたまま学校に向かうところまでは前回と同じ。

 だが今回の目標は女子寮だ。

 今回もモフられるのは断固として避けたい。

 だから今度はミリアを女子寮に届けてしまおう。

 俺はそう決意した訳だ。


 ミリアの部屋は女子寮第3棟2階の1号室。

 念の為に調べておいたのだ。

 2階くらいなら風魔法で窓も開けられるし、跳躍して入ることも可能だろう。


 男子寮と女子寮の境である塀近くまで近づいた時だった。

 設置型の魔法の気配を感じる。

 咄嗟に2歩下がり、風属性の走査魔法を起動。


 女子寮の周りに罠魔法が仕掛けられていた。

 ご丁寧にも土魔法、風魔法、水魔法の3タイプが仕掛けてある。

 どれも『性別男性が一定距離内に入ったら発動する』タイプの罠だ。

 

 念の為更に丁寧に走査魔法を実施する。

 罠の先に更に強力な罠があった。

 こっちも『性別男性が一定距離内に入ったら発動する』タイプだ。

 しかもこっちはかなり複雑な魔法式で描かれている。

 俺でもそう簡単に解けるタイプでは無い。

 しかもその先に更に何かあるような気がする。


 少し考え、そして俺は諦めた。

 問答無用で魔法を連続展開すれば突破することは可能だろう。

 ただそうすれば大騒ぎになる事必須だ。


 魔法の痕跡から使い手を探知することは難しくない。

 たとえばシャミー教官あたりなら余裕だろう。

 ばれたら間違いなく退学決定、下手すれば冒険者証も取り上げだ。


 それにしても女子寮、男子寮とは警備体制がえらく違う。

 男子寮の方はこんなややこしい罠など無かったのだが。

 それだけ普人男性の性衝動というのは強力なのだろうか。

 普人は年中発情期と聞いているからな。

 これだけ備える必要があるのかもしれない。


 本当はこのままミリアをどこかにぶんなげて放っておきたい。

 勿論そんな事は出来ないのだけれど。


 仕方ない。

 明日はミリアより早く起きることにしよう。

 そう思いつつ俺はミリアを背負ったまま、諦めて自分の部屋に向かう。


 やはり男子寮はこれといった罠も侵入避けも感知魔法も仕掛けられていない。

 つまり普人女子より男子の方が危険という事だろう。

 俺的にはうちのクラスで一番危険なのはミリアだと思うのだが。


 俺の部屋の外まで来た。

 窓を風魔法で開け、おいやっと飛び込む。

 この前と同様ミリアをベッドに寝せて、俺用に床に毛布を敷く。

 弱めに睡眠魔法をかけておけば早くすっきり目覚めるだろう。

 それでは俺、おやすみ。

 睡眠魔法を起動する。


 ◇◇◇


 数時間後。

 またもや悶々とする朝を迎えてしまった俺は、窓の外を見ながら固く決意をするのだった。

 次こそはモリさんかアンジェに話しておいてミリアを引き取って貰おう。

 そう、絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る