16 ゴブリン討伐と後作業
上り坂が多めの道をおよそ
やっとちょうどいい場所を見つけたので立ち止まる。
崖線に沿って森が切れている場所だ。
直線方向に見晴らしがいいし崖側から魔物が襲ってくる心配はまず無い。
崖崩れも見た限り今は大丈夫そうだ。
ミリアも同じ事を思ったらしい。
「ここから森に入るわ。あと隊列も変えるから。まずは先頭をライバー、次に私が行くわよ。後ろはアンジェ、モリさん、ハンス。アンジェは私とライバーの距離や魔法での援助のタイミングをよく見ていて。あとモリさんはハンス、任せたわ」
「わかった」
「先頭は怖いな」
「索敵を怠らないで。ミスると普通は死ぬか重傷よ」
「わかった」
ライバーが今までと違い慎重に歩いているのがわかる。
「あとこれからは必要以外会話禁止。魔法で走査できるようになるまでは索敵の最大の方法は耳と目よ。だから必要以外の会話は禁止だし動くときも出来るだけ静かに」
ミリアの指示は正しいし親切。
こういった基本こそが重要なのだ。
ゆっくり歩いて
やっと攻撃可能な範囲内に反応が現れた。
この反応ならゴブリンだろう。
数は2匹だ。
ミリアが俺の方へ片手を上げて見せたのは気づいているという合図だろう。
他はまだ気づいていないようだ。
「止まって」
抑えた声でミリアが指示する。
「返事はしないで。ライバーは前に向けて構える。中段の構えで突きに持って行ける姿勢で。私が言うまで勝手に攻撃しない事。引きつけないと逆にやられるわ」
ゴブリンは前方から俺達の方へ向かってやってくる。
まもなく見える距離。
慣れている冒険者ならもう音だけでわかる距離だ。
はじめての3人にそれを望むのは酷だけれども。
「火魔法、熱線!」
見えたとほぼ同時にミリアが魔法を放つ。
前を歩いているゴブリンが倒れる。
「ライバー、近づいたらいつでも突けるよう剣を手元に引く!」
指示も忘れない。
残ったゴブリンがまっすぐ俺達の方へ向かってくる。
大丈夫だろうか。
ライバー、緊張で少し動きがかたい気がするが。
いざとなったらいつもの氷魔法で倒せるようにしておく。
ゴブリンが迫ってきた。
あと数
「今よライバー!」
ミリアの声とほぼ同時にライバーが前へ一歩踏み出し、剣先を大きく前に突く。
剣は見事にゴブリンの胸へ突き刺さった。
ゴブリンはボロボロの短剣を振り下ろすがライバーに届かない。
そのまま数秒キイキイ言った後、ばたっと動かなくなる。
「もう大丈夫よ。剣を引き抜いて」
「大丈夫か」
「ええ。ただのゴブリンに死んだふりをするような知能は無いわ」
「わかった」
ライバーが剣を引き抜くと同時にゴブリンが前に倒れる。
「あとは処理の方法ね。これは魔法を使う方が簡単だからアンジェの出番よ。ゴブリンの真横に来て。これから説明するわよ」
魔法で魔石の取り出し方も教えるようだ。
やはりミリア、親切だ。
こういった細かいところのフォローまで忘れない。
次はアンジェによる魔法での討伐だ。
これは前にやっていたスライム討伐とそう変わらない。
万が一に備えいつでも水魔法で消火できるようにしていたが出番は無かった。
この数日間でかなり進歩をしたようだ。
更に最後にモリさんによる槍での討伐。
これもライバーの時ほど心配しないで済む。
槍は間合いが長いしモリさんはわりとビビリだ。
でもビビリなりにしっかりやってくれる分、ライバーよりは不安無く見ていられる。
「思ったより簡単かもしれないな。でもこの刺さる感じ、ちょっと手応えが嫌な感じだ」
「それは慣れるしかないわ。魔物相手に何度もやって」
更に俺とミリアによる連携攻撃の見本をゴブリン相手に5回。
ついでに見つけたアステラ草10本。
事務室が閉まる前にたどり着きたいので急いで街へ帰る。
「しかし怖いよな。ゴブリン1匹でもあんなに怖いのか」
「その辺は数倒して慣れるだけよ。これからもガンガン倒してもらうからね」
「でもハンスとミリアの2人だと流石だよな。あれなら何匹いても勝てるんじゃないのか」
「ハンスはあれで手加減しているからね。基本的な剣術だけで戦っていたでしょあれでも。剣の速さだってあれでもライバーが出来る程度に制限しているのよ」
ミリア気づいていたか。
初心者でも見て理解出来るようあえてそうしたのだ。
「でも何匹か倒してもう大丈夫と思った頃が一番危ないのよ。だから当分はこうやって訓練ね。授業で戦闘術や体力向上の訓練をするから、こっちは実戦演習よ。明日からもビシビシやるからそのつもりで」
「ご面倒かけます」
「宜しくお願いします」
「頑張りますから」
「だから貴方達の為じゃないからね。私が嫌な思いしたくないからやっているだけだからね」
ミリアはそういうが、もう全員ミリアの親切さと面倒見の良さ、そしてツンデレについてはわかっている。
「ところでハンス、ゴブリンのボロ武器や鎧を集めていたけれど、どうする気?」
ゴブリンは野ざらしになっていた剣や鎧で武装している事がある。
今日倒したゴブリンのうち何匹かがそんな装備をしていたので回収した。
内容は短剣2本、片手剣3本、革鎧2着と朽ちかけのチェーンメイル1着だ。
「その辺は後のお楽しみだ」
「でもあんなの、武器屋に売っても価値ないだろ」
「ああ。だが別の使い道がある」
うまくいくかはわからない。
だから今は何も言わないでおく。
無事事務室で魔石と薬草の換金を終了。
「それじゃ夕食で」
「明日もよろしく」
「それまだ早いって」
なんて話をして別れる。
皆と別れた後、ミリアがこっそり戻ってきて俺に尋ねた。
「今夜はどうするの?」
「今日はちょっとやりたい事がある」
回収したゴブリンの装備を使って試してみたい事があるのだ。
「ちょうどよかったわ。私も秘密でやっている事があるの。だから今日、明日、明後日と夜は単独で出かけるわ。でも4曜日の夜だけは空けておいて、いいわね」
「わかった」
何だろう。
ミリアの腕なら心配する事は無いけれど。
でもとりあえずは夕食前に着替えよう。
清拭魔法を使って身体をきれいにしておかないと。
夕食の時にあまり汚いなりでいくのも何だから。
◇◇◇
食事をした後自分の部屋に帰って、回収したゴブリン装備を自在袋から出す。
所詮はゴブリンが拾った代物。
剣は錆びてボロボロ。
鎧も革にカビが生えたり濡れてぐちゃぐちゃになったりしている。
このままではちょっと使うには……な状態だ。
だがうまくなおせばモリさん達用の当座の装備でも作れないか。
そう思ったのだ。
勿論それで金が入る訳でも俺が得する訳でもない。
更に言うとモリさん達に頼まれた訳でも無い。
ただ単に作ってやりたくなっただけだ。
つまり俺の自己満足。
今までにはこういった方向の考えは俺には無かったのだけれどな。
きっと俺もここの空気に染まったのだろう。
微妙に人懐こくてお人好しが多いここの普人の空気に。
さて、剣は金属性魔法で使用できる鋼と錆にわける。
錆を鋼に再生するのは俺の金属性魔法ではまだ難しい。
木炭を作り熱魔法で錆を鉄に戻す方法もあるが正直得意ではない。
下手にやったら寮を火事にしそうだ。
だから錆部分は使用するのを諦め、あくまで鋼部分だけを集めて再利用する。
短剣の1本1本はボロボロでこのままでは使用不可能な代物。
しかし5本分あわせれば何とか片手剣1本分程度にはなりそうだ。
勿論俺の金属性魔法は初級程度。
一流のプロが作るような剣にはとうてい及ばない。
だがそこらの量産品程度の剣なら俺の初級金属性魔法でも作れるはずだ。
デザインは初心者でも使いやすいややそりの入った細身でやや身が厚めの片刃。
これくらいのそりが入っていると敵を斬りやすい。
やや身頃を厚めにするのは折れないようにだ。
ライバーならこれでも振り回せるだろう。
刃部分を硬めで他は柔らかめなのは基本通り。
鍔を大きめにするのは打ち合ってしまった際手元をガードするため。
グリップ部分は革鎧の使えない部分を切り取って作成。
水魔法で水分を含ませた革でぎちぎちに巻いて魔法で乾かせばそれっぽくなる。
見かけは簡素だが初心者にはちょうどいい剣になっただろう。
こんなのでも買うと結構高価だからな。
革鎧は腐った部分とカビが生えた部分を熱魔法で切り取る。
大きさが半分以下になったが想定内だ。
まずは森で拾ったトネリコの枝で枠を作る。
そこに先程グリップを作ったのと同様の方法で革を柔らかくして貼り合わせる。
貼り合わせた革は剣を作った残りで作った鋼線やビスできっちり留める。
ガチガチになるまで乾かして堅くなれば革の片手盾だ。
ゴブリンの剣による打撃程度なら十分防いでくれるだろう。
あとはボロボロのチェーンメイル。
これも金属性魔法で錆びた部分を除去し鉄部分だけにする。
このままでは柔らかいのでやはり森で拾った木の枝を使う。
まずは木の枝を火魔法で燃え上がらないよう処理して木炭を作る。
この木炭を粉にして先程の鉄にまぶす。
この状態で金属性魔法の材質調整を使えばある程度自由に堅さを調節可能だ。
今度作るのは槍だ。
先程の片手剣と革の盾はライバー用。
こっちはモリさん用になる。
ライバーは腕力があるから片手剣を使える。
モリさんは腕力がないから両手で槍を使ってもらい、防御出来ない分間合いを長くして対処するという発想だ。
なお槍は本日使ったのと同じ十字槍。
片手剣と同じように材質調整して仕上げ、トネリコの枝で作った柄に固定する。
作りは簡素だがモノとしてはその辺の安物よりは上だろう。
これでゴブリン相手なら十分戦える筈だ。
これでライバーとモリさんの装備はある程度出来上がった。
アンジェの魔法杖は当分の間、ミリアのあの杖を使ってもらう事にしよう。
火属性魔法で収束率が悪いと森が焦げてしまうから。
さて寝るか。
明日も授業と討伐が待っている。
俺は出来上がった装備品を自在袋に仕舞い、ベッドへ転がり込んだ。
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