遺書
山本遊冶郎
ある阿呆の手記
成功なんか、生きて一度もなかったわ。
人間なんて、素直に生きてればいいのよ。
ごまかそうとするから、いけないんだわ。
失敗なんていうものは、ごまかそうとして
ごまかしきれなかったことを言うのです。
なのに、欲ばかり出しちゃうから、いけないんだわ。
私はね、どうも、あなたみたいにはなれないのよね。だから、息苦しくなってしまうんだわ。きっと、惨めな欲張りが、まだこびりついているのです。
ああ、人間て、ほんと、あんまりみじめ。
みにくいままよ。いけないままよ。変わろうなんて、これっぽっちも思わないのよ。
お母様は、私を「幼い」といいますけども、私だって、身体なんて、もう、立派な、女なんですのよ。それは、もう、恥ずかしいわよ、苦しいわよ。でも、耐え忍ぶしかありませんわ。
素直に生きてみようとしましたよ。お母様、お父様への敬意と愛情を示し、勉学にも努めて、お言い付けはきちんと守りました。人への謙虚さ、優しさは忘れずに、女のはしたなしさなんていう美醜めいたものは、きちんと捨てたつもりです。
私は、ただね、気づいて欲しいの。頑張ったねって褒めて欲しいの。心から私を愛してくれる、抱いてくれる人に出会いたの。
でも、やっぱり、無理なのね。
貴女ハ、綺麗ニ、ナレナイワ。
だからね、こうやって、素直な子の、ふりをするの。そうしたらね、みんな、みんな言ってくださるわ。「綺麗なのに真面目でいい子だね」って。ほんと、だめね、男って、いちもつ以外はすっからかん。
誰かが言っておりました。「神様は善人の味方です。」「神様がちゃんと見てるのよ、うそは必ずばれますよ」って。あなたにとっては、言いわけに聞こえるでしょうが、気にしてばかりでは、暮らせないわ。
もし神様がいらっしゃったなら、私の邪魔だけはしないでいただきたいものね。どうせなら、もっと、神様らしく、世の為、他人の為に成ることをしてもらいたいものだわ。私も忙しいんですもの。死にたいわ。
神様ナンテ居ヤシネェ。
在ルノハ信仰ト洗脳サァ。
私はそうは思いませんよ。神様はきちんといらっしゃって、私たちをお守り下さいます。
目ニ見エネェモンハ信ジネェノサ。
きっと、恥ずかしがりやなんですよ。
人間テナァ、逃ゲミチガ欲シイダケナノサ
誰カト食ベテ、誰カト契ッテ、誰カト寝テリャア、ソレデイイノサ。何カト不幸ニナリタガルッテノガ人間テモンサ。
そりゃあ人も生きものですからね。
キリストモブッタモ嘘ツキナノサ。
避ケランネェ死ニ涙ヲ流シ、半分狂ッテ楽シモウトシタ結果ガコレサ。
狂わなきゃ、生きてけないんですよ。
虚無ヲ信ジテ何ニナル。明ケネェ夜モ在ルンダヨ。人間ハナァ、イツマデ経ッテモ未熟者ナノサ。永イ時間ヲカケテ腐ッテイクノサ。
信じなきゃ、やってけないんですよ。
「モウダメダ」ト嘆ク正直者ガ在ル。自殺ハ馬鹿ガスルモノダ。他人ノココロも殺シチマウ。「コロス」ッテイウ感覚ガ在ルノハ人間ダケサァ。「生キモノハ死ヌ」ッテコトヲ、ヨク分カッテイルカラダ。ハヤク死ニタクテ活キテイル。
じゃあ、象はどうして蟻を潰さないの?
足ノ裏ヲ汚物デ汚シタクナイカラサ。
希望にも絶望にも裏切られるのね。
ドレダケ祈ッテモ神ハイネェヨ。
そういうちんけな神様を、
人間というのではないかしら。
ケガレの無い、人として正しい人間を、
神様と呼ぶのではないかしら。
どうせこんな紙切れも、踏まれて、汚れて、捨てられるんだわ。
悲しいわね。悲しいのよね、人間て。
私のような人間も、極楽になんて行けるのかしら。本当に行けたらいいのだけどね。
そしたらきっと、幸せね。
遺書 山本遊冶郎 @yuyamotoyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます