無人島生活13話 はい、良い知らせと悪い知らせ、どっちが知りたいですかッ?
カバー隊長は龍之介が岩の表面に刻んだ地図で、人骨があった場所を指さしながら、「ここに、潤弥君が言ったように人間のものと思しき骨があった」と説明をはじめた。
「良い報告と悪い報告がある。どちらから聞きたい?」
「ハイハイ」
元気に手を上げるボケ。
「はい、モーリアン君」
生徒を指名するようなノリで隊長は名指しした。
「悪い知らせからがええわ。夏休みの宿題でも、難しいもんから先に終わらした方が、後々楽やろ」
どんな理屈に例えてんだ?
「そうだな。まずは悪い報告からにしよう」
砂浜に戻って来たカバー隊長は状況を知らない、三人に向けて言った。
「今も言ったが、潤弥君が見つけた骨は人間のものだった。そして刃物で付けられたと思われる
場の空気がサウナから、水風呂に入ったかのように冷え込んだ。
「次は良い報告だ。その骨は肉食動物に殺されたのではない。もし肉食動物に殺されたのなら、あんなに綺麗に骨は残っていないだろう。ハイエナなどは骨も食べるというからな。考えられる推測は私たちと同じようにこの島に漂流した人間が、何かの拍子に仲間割れを起こし殺し合ったということだ」
カバー隊長はそこまで一息に言って、皆の顔色をうかがった。
「肉食獣の心配はまずなくなったといっていい。この島で一番恐れなくてはならないことは、疑心暗鬼になり仲間を信頼しなくなることだ」
「そうか、ならうちらは大丈夫やな。うちらは鎖よりも固い絆で結ばれとるんやからッ!」
スポコン漫画のキャラクターのような顔で言うモーリアン。
「せやけど肉食獣おらんのはわかったけど、これからどないするん?」
「そうだな。この砂浜を拠点にするか」
カバー隊長は地図に添えていた指をゆっくりと動かし、「ここに、湖らしき一角があった。これから、生活していく上で水が近い方が何かと便利だろう。ここなら、湧き水があった場所にも近い。どうする? この場所にとどまり拠点をつくるか? 水辺に移動するか?」と皆に多数決を問うた。
「あたしは、水が近い方が何かと便利だと思う。昔から文明が栄えるのは大河の周辺って決まってるもの。その湖の周辺なら海にも近いし、行き来は楽だと思うわ。岩場もあったから、手ごろな洞窟があるかも」
エリーは皆の顔を見まわしながら考えを述べた。
「だけどよ……。もし船が通ったらどうするんだ? 湖の周辺にいたんじゃ船が通ったってわからないだろ……」
潤弥の言っていることも正論だ。
もし船が通ったときに、合図を送ることができない。
だが、この砂浜を拠点にすれば水場は遠いし、何よりここでは雨が降ったときにしのぐことができない。
まだ悪い点を上げるなら、南の島とは言え朝晩は海から吹き込む風が冷たく体が冷えてしまう。いちいち往復一時間かけて、水を確保するのは何かと大変だった。
「うん、どちらの言い分も正しい。皆はどう思う?」
言ってカバー隊長は皆の意見も問う。
「うちは、その湖の近くの方が何かとええと思うな。エリーっちがゆうように水も近いしな」
モーリアンは湖に一票。
「わたしは~どっちでもいいけど~、寒いのは嫌いだから、雨風がしのげるばしょがいいな~」
紅も湖に一票。
これで湖に三票、海に一票だ。
「僕は潤弥の意見に賛同する。この無人島から脱出する方法は通りかかった舟に乗せてもらうしかないと思う。森の中に引っ込んじゃったら、船が通ってもわからない」
ゴリッチは海に一票。
これで三対二だ。
龍之介かカバー隊長のどちらかが、湖に一票入れればそれで決まる。
「我は湖だ。神々の頂から世界を見下ろし、何かとこの場所では不便だと感じたのでな。救済を知らせる方法なら、毎日
これで決まった。
カバー隊長が潤弥に賛成しようと、民主主義の形をとるなら従わざるを得ない。
「うん。潤弥君の意見も理解で来るが、湖に拠点を移した方が私もいいと思う。納得してくれるね」
カバー隊長も湖に一票だった。
五対二これでは揺るがしようがない。
潤弥は一瞬口をへの字に歪めたが、すぐに肩をなで下した。
「ああ……そうだな。ここじゃあ、紅が言うように雨風がしのげないもんな」
「ああ、みんなの意見に賛成するよ」
潤弥とゴリッチは異論を唱えることなく、了承してくれた。
「よし、そうと決まれば明日にでも視察して、湖の近くに住める洞窟があるかどうかを探そう」
「今日はどうするんや? まだ日が暮れるまでもうしばらくあるで」
「僕はもう一度海に潜って、魚を獲ってきてもいい」
海でサメと対峙したにもかかわらず、ゴリッチは怖じ気た様子はなかった。それどころか、自分からサメを見つけてニーブラするつもりだ。さすが、百獣の王。
「うん。そうだな、食料はどれだけあってもいい。あと二か月ほどで冬になる。それまでにできるだけ食料を蓄えておきたい」
カバー隊長の発言にエリーは耳の裏側から、背中にかけて悪寒が走った。
「ちょ……ちょっと……今……何て言った……?」
カバー隊長は首をかしげて、クエスチョンマークを浮かべる。
「何がだね?」
「いや……もうじき冬になるって……」
エリーは重大な勘違いを犯していたのかもしれない。
いや、犯していたのだ……。
日本は北半球……ここは南半球にある無人島……。
つまり季節が逆転しているのだ……。
明け方寒いな~、と思ったのは夏ではなく冬が近づいていたからだ……。
「もうあと二か月もすれば冬になるだろうと思う。ここは南半球だ。日本とは季節が逆転している。日本の冬よりは温かいだろうが、冬は冬それなりの備えをしておかないと凍死してしまう恐れがある」
大したことないかのように、淡々と答える隊長。
「ホンマかいなッ! 南半球と北半球じゃ、季節が逆転してるんかッ! 知らんかったわ。ほんなら、かまくら作ったり、雪だるま作ったり、雪合戦したり、雪にかき氷シロップをかけて食べられるな。想像するだけで楽しみやわ」
「なんであんたはそんな楽観的なのッ! 冬よ冬。こんな無人島なんかで冬越せると思うのッ? バカじゃないのッ!」
エリーは言ってしまってから、強く当たり過ぎたことを後悔した。
気が立っていたせいで、想ってもないことを……。
だが一度口にしたことは取り消せない。
こんな無人島で頼れるのは仲間しかいないというのに、ここに来てからずっと気が立ってる……。
「大丈夫やで、そう心配せんでも。昔の人やて寒い冬を生き残って来たんやから。まだ二か月以上もあるんやろ、それまでに助けが来るかもしれへんし、備える時間やてあるやん。な、そやろ」
あんなこと言われて、普通なら腹を立てるか、気が沈み無口になるものだが、モーリアンにはそれはなかった。
「……うん……ごめん……強く言い過ぎた……。本当にごめん……。カッとなっちゃって……」
「誰だって同じやで。助け合わな、カバー隊長もゆうとるように、
「それを言うなら疑心暗鬼でしょ」
引きつっていたエリー表情がほころんだ。こういうときにつくづく思う、モーリアンがいてくれるおかげで絶望に沈まずに済むのだと。
「それでは、食料を探しに行こう」
「そやな。じっとしててもしゃあないわ。備えていれば売れる野菜やで」
「それを言うなら備えあれば患いなしでしょ。あんた、わざと間違えてない?」
「わざとやないがな。うちは至って
突如明かされた衝撃の真実だったが、モーリアンの固有スキル『太陽のボケリスト』の効果でそれほど衝撃を受けることはなかった。意外と適応能力の高い面々なのであった――。
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