調達

 盗賊は全員始末した。

 マルセイユ王国に連絡して憲兵隊を呼ぶという方法もあったが、この盗賊団の首領は懸賞金が掛かっていたいたようで、生死問わず討伐せよとのことらしい。

 首領がいた家の中に、手配書が自慢気に飾ってあった。

 仲間も何人か手配書があり、この盗賊団はかなり大きな組織だったようだ。

 マサムネは、首領のいた家の戦利品を、ゴロウと共に探す。


「武器、防具、食料、酒……馬が十頭、立派な荷車が五台。それと強奪品かな……服や下着、苗や種なんかもいっぱいある。すごい……荷車を作る必要はないな」

「ご主人様、金貨や銀貨もあります」

「……うーん」


 お金の扱いは難しい。

 そもそも、このお金は間違いなく強奪品だ。どこかの誰かから奪った物であるのは間違いない。

 マサムネは、家にあった地図を見る。


「……近くに集落があるな。おそらく、ここも狙われたはず。よし、ゴロウ、集落に行って盗賊団のことを知っているかどうか話を聞きにいってくれ」

「わかりました。では、馬をお借りします。この距離だと……三時間ほどあれば戻ってこれるでしょう」


 ゴロウは地図を確認して言う。

 盗賊団が、村を襲わない代わりに金品を差し出せという話はよくある。もしかしたら、この盗賊団が村から奪った物もあるかもしれない。

 すると、ユメとノゾミが家に入ってきた。


「マサムネ! 戦利品いっぱい! ノゾミとトゥーも御者できるっていうし、大きな荷車三台で行けそうね! ふふふ。幸先いいわねー!」

「待て待て。ゴロウに近くの集落まで行ってもらって、金品を差し出したかどうか聞いてもらうから。戦利品はその後だ」

「え~……」

「ノゾミ、トゥーを呼んできてくれ。ここにある戦利品を整理しよう」

「はい」

 

 ちなみに、トゥーは盗賊の死体を全て埋める作業をしていた。首領だけ首を落とし、討伐の証として保存しておく。

 それから半日かけ、ゴロウが戻ってくるのとほぼ同じタイミングで整理が終わった。


「戻りました」

「お疲れ。どうだった?」

「はい。やはり村は盗賊団に金品を支払っていました。村を襲わない対価として、毎月金貨を支払っていたようです」

「金貨か。よし、ここにあったお金は全部集落に渡そう。それと、首領の首も渡そう」

 

 そう言うと、ユメが挙手。


「はいはーい! なんで首まで渡すの? 懸賞金は?」

「だからだよ。盗賊団の首領の首を渡せば村は安心。懸賞金ももらえる。その代わり、俺たちはここの戦利品をもらう……ってわけ。村が差し出したのは金貨だけみたいだし、それ以外の戦利品は全て俺たちがもらっちゃおう」

「……それもそうね。ユーリ領地、お金使えるような場所かわかんないし。実用的な物があればいっか」

「そういうこと。じゃあ、今日はここに泊って、明日みんなで村に行こう」


 この日、首領の家を軽く掃除して泊った。

 ゴロウとトゥーとノゾミが交代で夜警、ユメとマサムネは一緒の部屋で……ということにはならなかった。ユメが無理やり同室にしようとしたが、結婚式も挙げていない男女が同室はダメだとマサムネが拒否。なぜかノゾミも強く拒否していた。

 

 翌日。

 馬を四匹ずつ巨大荷車に繋ぎ、大量の戦利品を積んで出発した。

 当初の予定と大幅に違うが、これだけの戦利品は嬉しかった。

 マサムネとユメは、ノゾミの操縦する馬車に乗っていた。


「幸先いいわね!」

「ああ。ユーリ領地でもなんとかやれそうだ」

「んふふ~……ねぇマサムネ、ユーリ領地に行って落ち着いたら式を挙げましょ!」

「う、うん……あはは。恥ずかしいな」

「私は楽しみよ? ふふ、ようやく夫婦になれるんだから」

「ユメ……」

「マサムネ、幸せにしてね」

「ああ。約束する」

「うん……愛してる」

「俺もだ。ユメ」


 二人は、笑いあいながら愛を誓った。


 ◇◇◇◇◇◇


 数時間後、村に到着するなり歓迎を受けた。

 ゴロウたちが盗賊団を始末し、金貨を取り戻してくれたと村中に広まったようだ。

 マサムネは、出迎えてくれた村長に案内され、村人たちに感謝されつつ村長の家に。

 お茶もそこそこに、さっそく話をした。


「まず、これがアジトにあった全額です」

「おお……!!」


 ゴロウが、大量の金貨が入った袋を村長の前へ。

 そして、厳重に包んだ首領のも出す。


「これは首領の首です。憲兵隊に出せば賞金が入るでしょう。村の発展にお役立てください」

「なんと!? で、ですが……」

「受け取ってください。その代わり、盗賊のアジトにあった金貨以外の戦利品は我らが頂きます」

「そ、それだけでよろしいのですか?」

「はい。正直、金貨よりありがたい物です。これから向かう場所には、金貨が役立つ場所ではないので……」

「……失礼ですが、貴族様、でいらっしゃいますよね? この先にと言うと……」

「ユーリ領地です。申し遅れました。私はマサムネ・サーサ。ユーリ領地の領主に就任した者です」

「な、なんと……ゆ、ユーリ領地ですと?」


 村長が驚くのも無理はない。

 マサムネは、村長に質問した。


「村長。あなたが知っていることで構わないので、ユーリ領地に関する情報をお聞かせ願いたい」

「わかりました。ユーリ領地ですが……今は、亜人たちが戻ってきています。先の大戦で土地を手に入れたマルセイユ王国ですが、管理どころかろくに人も送らなかったようで、亜人たちは王国の手が入らないのをいいことに、再び集まっているようです」

「……なるほど」

「ですが……やはり、生活は苦しいようです。やせ細った亜人たちをこの辺りでも見たことがありました。何度か食料を恵んだことがありますが……」


 マサムネは、早くユーリ領地に向かわねば、と改めて思う。

 拳を握りしめ、村長から情報を集めた。

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