実力

 自己紹介が終わり、トゥーが淹れたお茶を飲んだ。

 結局、この日はここで野営をすることになった。

 ユメが挙手し、マサムネに質問する。


「マサムネ、食糧事情をどうするか、いい案があるんでしょ? そろそろ話してよ」

「ああ。みんなの自己紹介を聞いて確信した。この案、きっとうまくいく」

「ふぅん?」


 マサムネは、全員を見渡す。

 ユメ、トゥー、ゴロウ、ノゾミ。全員が一級品の実力者だ。


「俺たちが持ってきた食料は携帯食品ばかりで味気がない。そこで俺が考えたのが……『狩り』だ」

「狩りって……狩りをするの?」

「ああ。これから約一月は移動だ。道中、魔獣も出現するだろう。食べられて加工できそうな魔獣は極力狩って、保存食を作ったりしていこう」

「なるほど……確かに、これだけの手練れなら可能ね。ゴロウ、あんた傭兵だったんでしょ?」

「はい。魔獣狩りは多くこなしていました。魔獣を解体して食べることも日常でしたので、お役に立てると思います」


 ゴロウは胸をドンと叩く。

 マサムネは頷き、補足説明をする。


「持参した道具に大工道具もある。俺たちの馬車は大型だし、馬も二頭いるし力強い品種だ。荷車を作って連結させよう。木材を加工して荷車を作って、道中で使えそうなものは採集していく」

「使えそうなもの?」

「ああ。薬草や素材だ。亜人たちとの交渉に使えるものがあるかもしれない」

「でも、そんなのわかんの?」

「舐めるなよ? 武術はからっきしだが、その分知識は詰め込んである」


 マサムネは頭を指でトントン叩く。

 スキル『閃き』は自分の知識量によって閃く内容も異なる。タックマンと違い武術の才能がないマサムネは、足りない物を補うため勉強しまくったのだ。


「この先に廃村がある。そこで木材を調達して、荷車を作ろう。ついでに、使えそうな物ももらっていこう」

「わぉ……マサムネ。逞しいわね」

「こうなったら何でもやってやる。ユメ、今ならまだ引き返せるぞ?」

「冗談! ダンナを支えるのは妻の役目よ!」

「お、おぅ……ありがとう」


 ユメは、相変わらずどストレートだった。

 ゴロウたちも、マサムネを見る眼が少しだけ変わった。

 弱っちい、実家から辺境に追放された哀れなお坊ちゃんから、覚悟を決め、生きるため領地を管理しようと頭脳を駆使する領主へと。

 トゥーは、マサムネに言う。


「ご主人様。お茶のお代わりはいかがでしょうか?」

「え?……あ、ああ。頼む」


 そして、ゴロウ。


「ご主人様。話が終わったようなので、野営の支度に入ります。奥様と休んでいてください」

「え、あ、うん」

「おお、気が利くわね! ふふ、マサムネとイチャイチャできる!」


 ノゾミも、マサムネに言った。


「マサムネ様。いえ、旦那様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「……ま、まだ婚約者だし、もうちょっと待って」

「えー!! そんなのいいわよ。ノゾミ、許可します!!」

「ありがとうございます」

「えー……」


 五人は、心の底から信頼しあえる仲間となった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 マサムネ一行は、マサムネが言った廃村へ到着した……のだが。


「…………これは予想してなかったな」


 マサムネは汗だくだった。

 御者のゴロウ、屋根の上にいるトゥーとノゾミ、そしてユメは平然としていた。

 マサムネが汗だくな理由は、廃村が盗賊のねぐらになっていたことだ。


「マサムネぇ~……これ、想定してた?」

「す、するわけないだろ……」


 馬車は、廃村近くの藪から飛び出してきた盗賊に囲まれ、そのまま廃村まで誘導された。

 ゴロウたちは指示に従い、廃村に到着。

 ドアが開けられ、汚い顔をした盗賊が剣を突き出してきた。


「へへへ、綺麗どころのお嬢ちゃんが二人・・か。男は売り払って、女はたっぷり遊んでやるぜ」

「え、二人? っだぁ!?」


 疑問を口にした瞬間、ユメに足を踏まれた。

 ユメはわざとらしく震え、涙目を浮かべて言う。


「わ、私たちをどうするつもり!? え、エッチなことするんでしょう!!」

「うわー……大根役者」


 マサムネはボソッとつぶやくが、運よく聞こえなかったようだ。

 窓から外を見ると、ゴロウとトゥーは両腕を上げて降参していた。


「下りな。積荷は全部いただく。女は服を脱いでボスんとこ行ってもらうぜ」

「やぁんエッチぃ!! マサムネ、助けてぇん!!」

「…………」


 クソ大根役者のユメを白けた目で見たマサムネは、言われた通り両腕を上げて馬車から降りた。

 ゴロウの隣に立つマサムネは聞いた。


「ノゾミが離脱。私とトゥーはいつでも動けます。ご指示を」

「……けっこうな数だけど」


 廃村は、盗賊団のアジトだ。

 数は五十人ほどだ。金持ちの獲物を前に、全員が出てきたようだ。

 すると、ユメも下りてきた。


「マサムネ、どうすんの?」

「……大丈夫なのか?」

「問題なし。ってか、これっぽっち二分もあれば殲滅できるけど」

「えー……」

「おめぇらごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ!! へへ、女は裸になりな……ボスが待ってるぜぇ?」

「そのボスって、どこにいるの?」

「あそこの家だ。さぁ脱げ!!」


 ユメ、ゴロウ、トゥーがマサムネを見た。

 マサムネは深く息を吐き……叫ぶ。


「三人とも、やっちまえ!!」


 次の瞬間───ユメのハイキックが目の前の盗賊の首を叩き折った。


「へぶっ」

「ノゾミ!!」

「はい、奥様」


 トプン───と、ユメの《影》からノゾミが現れた。

 スキル《絶影》……影に潜り込む暗殺用のスキルだ。ノゾミは巨大な箱を投げると、ユメはその箱を蹴り上げると、中から二本の剣が飛び出した。

 ユメは二本の剣をキャッチし、クルクルと回転して構えを取る。

 双剣───それがユメの武器だった。


「かかって来なさい!! 戦乙女ユメの剣技、見せてあげる!!」


 ユメが暴れ始めた。

 そして、すぐ近くではゴロウとトゥーが暴れていた。


「墳ッ!!」


 スキル《筋肉増強》で全身が膨れ上がったゴロウは、盗賊を殴り殺す。


「シシシッ!! シッ!! シシシッ!!」


 スキル《閃光》の力でスピードが数十倍になったトゥーは、光のような速度で盗賊たちを殴る。

 パワーのゴロウ、スピードのトゥー、バランスのいい護衛二人だった。

 そして、巨大な斧を持った盗賊の首領が現れた。


「なんの騒ぎだぁぁぁ!! 貴様らぁっぷふ」

「お静かに……」


 だが、盗賊の影から現れたノゾミが、首領の首をナイフで掻っ切った。

 こうして、ユメの言った通り……たった二分で盗賊が全滅した。


「つ、強い……」


 マサムネは、馬車の下で隠れていたおかげで無事だった。

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