第49話 ゾンビは友達
白の空間へと再び一時帰宅をしに来た俺は、すぐさまゼラにダリウスの成長をお願いした。アンド、『耐性・感染』を外して『感染』に霊刻印を入れ替えてもらう。
「こちらが今回の成果となります」
◎本日の成果◎
討伐黒霊
口裂け狼×8体(嗅覚LV1、瞬発LV1、咆哮LV1)
=====================================
魔剣ダリウス
耐久値:37/37(+1)
威力 :27(+2)
頑強 :32(+1)[+14]
魔力 :8
魔防 :12(+1)
速度 :27(+2)[+3]
幸運 :18
霊刻印
◇剣術LV2
◇感染LV3
◇統率・屍LV2
◇格納・屍LV3
探索者装備
体 :紺青の皮鎧
足 :紺青の洋袴
靴 :紺青の履物
装飾 :
=====================================
「よっし成長してる! それじゃ、また行って来ます! あ、今回新規に手に入れた霊刻印は全部破棄でお願い! 待ってろ黒霊ぇ!」
「ええっ、お兄ちゃんもう行くの!? き、気を付けてねっ!」
「それだけ私の肴探しに本気になっているのでしょう。お気をつけて」
「んー、馬鹿みたいに目が輝いていた気がするけど…… ベクトの奴、探索好きなお仲間に当てられたんじゃないかい? 死に急ぐような真似だけはしないでおくれよー」
黒の空間に移動する為の適当な祈りを捧げる最中、そんな声が聞こえて来た気がした。大丈夫、死に急がない為の興奮だからこれ。
『まあ、自らのアイディ~アを早く試したい気持ちは分かる。久しぶりに強靭となったワシ、少しばかり興奮気味』
ほら、ダリウスだってこのやる気よ! 俺達は今、前進への意欲にみなぎっている!
―――とまあ、闘志を燃やしながらも慎重な姿勢は崩さない俺達は、例の白狼を使って実験を試みるのであった。霧裂魔都の入り口付近で待ち伏せし、現れた二匹の白狼目掛けてダリウスを振るう。今回は倒す事が目的ではないので、軽く表面の肉を斬る程度に抑えてだ。
「グゥオアッ!? グゥルルルゥ、ウ? ウゥ……」
「ガァウ、ウオアァ……!」
感染の症状が出るまで、頑張って時間稼ぎをする気でいたんだが、どうやら黒ネズミの力は想像以上に即効性のあるものだったようだ。ものの数秒で狼の体の腐敗が始まっている。
「うわ、俺ってばこんな攻撃を何度も受けていたのか。耐性なかったら即ゾンビってたわ……」
「ベクト、生を謳歌するのは後にしてくれ。作戦通りなら、そろそろ効く頃合いだ」
「オーケー、やってみよう。 ……お座り!」
「「ウォン!」」
「「おおっ」」
さっきまでの唸り声はどこに行ったのか、声を揃えて地面にお座りする白狼達。そして作戦が上手くいった事に、オルカとダリウスも声を合わせて驚く。調子に乗って腹を見せるように命令してみると、白狼達はこの指示にも素直に従ってくれて――― あ、駄目だ。腐っているから、場所によっては直視したら不味いところがあるわ。直ぐにお座りモードに戻す。
「ま、まあ口が裂けて腐ってはいるけど、ここまで従順だと可愛いものじゃないか。うん、きっとそうだ」
「相棒、何を自分に言い聞かせておるのじゃ」
「しかし、今回の成果は本当に大きいぞ。白の空間に戻った際に気付いたんだが、この狼は『嗅覚』の霊刻印を持っていた。となれば、探索の供としてかなり頼りになる筈だ。敵や罠の位置はもちろん、宝箱だって探し出してくれるかもしれない」
「お、おお、確かに……!」
能力の実証しか頭になかったから、白狼にその霊刻印がある事をすっかり忘れていた。確かに、赤ゴリラの嗅覚ほどではないにしろ、白狼にも臭いを嗅ぎ分ける力があったんだ。俺がやると腐臭刺激臭の邪魔立てでゲームオーバーになるけど、同じゾンビなこいつらなら、特に気にする事なく力を発揮してくれそうだ! オルカ、冴えてる!
「それに、フフッ。ベクトの言う通り、なかなか可愛いではないか。感染があるから、お手ができないのが心苦しいな……」
「お、おう……?」
可愛さに関しても、オルカからお墨付きをもらってしまった。やっぱり可愛かったのか、白狼ゾンビ。うん、可愛い。 ……可愛いんだよな?
若干の疑問を抱きつつ、俺達は新エリアの探索を開始する。白狼を先頭にメインストリートを進みながら、中に入っても大丈夫そうな建物を物色。そうやって女神像や使えそうな物資を探す寸法だ。見知らぬ土地という事で緊張感が半端ないが、優秀な斥候がいるとやはり安心感も違う。足元の心配をしなくて良い。ああ、何と素晴らしい事だろうか。
「―――なんて、喜んだらこれだよ。さっきの黒霊、ちょっと厄介だったな」
オルカが修復してくれた椅子に座り、大袈裟に疲れを表現する俺。
「うむ、見た目は脆そうであったが、侮れん相手じゃった」
探索開始後、外にいる黒霊達は相変わらず例の白狼ばかりで、特に苦戦する事なく、探索は順調に進んでいた。それ以降も順調にいけば良いなぁ、なんて思いもした。しかし、そんな俺の思いを裏切る出来事が、三軒目の建物にお邪魔した兵隊さんの詰所で発生。この建物内にいた黒霊に少しばかり苦戦させられたのだ。
この詰所を住処としていたのは、ボロいながらも鎧や兜、そして剣を身につけた骸骨達だった。風貌がホローちっくなものの、見た目はそれほど強くなさそう。とか、最初の印象はそんなもんだった。しかし、奴らには確かな剣の腕があったのだ。
「一対一なら兎も角、囲まれるとヒヤリとする強さ。しかもオルカの一撃を食らっても耐えるって、一体どういう耐久度よ?」
更にだ、動く骸骨達の力は剣の腕だけではなかった。どんなに強烈な攻撃を与えようとも、必ず一度は生き残るんだ。恐らくは何らかの霊刻印の力だと思うが…… これのせいで、戦闘での立ち回りがかなり難しくなってしまった。
「それに、ベクトの指示も受け付けないとはな。厄介とはいえ、レベル2の『統率』に耐えるほど強力な個体とは思えなかったが」
「予想するに、多分名前に
「ああ、なるほど」
まあ、この辺りは白の空間に戻ってから、要検証って感じかな。倒した奴らの霊刻印を確認すれば、どんな力を有していたのかも分かるだろう。
「苦労の割に実入りは微妙じゃったのう。あるのは微妙な出来の武具のみじゃったか?」
「「クゥーン……」」
白狼達が反省するように項垂れる。
「いやいや、落ち込まないでくれ。お前達はしっかり仕事をしてくれているよ。おい、ダリウス! あんまりこいつらを虐めるんじゃない!」
「そうだ、ハクとシロだって頑張っているんだ! ただの詰所なんだから仕方がないだろう!」
「ええっ……」
ダリウスより白狼を庇う俺達。そしてオルカはいつの間にか名前まで付けていた。しかし最初はどうかと思ったけど、なかなかどうして。慣れれば可愛いものじゃないか、ハッハッハ。
「相棒、お前はそんな感じじゃなかったじゃろ……」
「ゾンビ君にでさえ愛着の湧く俺だぞ、舐めないでほしい」
「ベクトは良いセンスをしているよ。私が保証しよう」
「ガァウ!」
「うおっ、どど、どうした!? ワシは虐めてなどおらんぞ!」
突然吼え始めた白狼に、ダリウスが動じまくる。だが、その行為が意図するのはそんな事ではないようだ。
「なあ、あそこに何かあるってよ。どうする? 行ってみるか?」
白狼が向く先には、この辺りの建物の中でも一際大きな聖堂だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます