魔道杖
「アジフ、祈祷スキルの習得見事であった。これでお前も見習い司祭となったわけだ。教会からも祝してこのメイスを贈ろう」
「ゼンリマ神父のご指導の賜物です。心から感謝します。ですが、そのメイスはいりません」
光魔法を習得し、ゼンリマ神父の部屋へ来ていた。
「なんだと!? ではどうやって魔法を行使すると言うのだ」
「いえ、普通に杖を使いますが」
そんな鉄塊みたいなでっかいメイス使ってたまるか!
「あんな物は貧弱な魔術師どもの使う物だ!」
「キフメ司祭もペメリさんも使ってますよね?」
魔法や魔術の行使には導体となる魔道杖が必要になる。一般的には長いほど遠距離命中率に優れるとされ、魔法の間合いの短い司祭は金属武器に媒体を仕込んだメイスを使うことは多い。巨大でなければ。
「どいつもこいつもなぜメイスの良さがわからんのだ! だがまぁ、それは今後じっくり教えるとしよう。しかし、アジフよ。光魔法を習得しただけでは足りん物がある。なんだかわかるか」
筋肉とか言うなよ。
「光魔法のスキルレベルでしょうか」
「それも必要だが、それだけではない。足りんのはMPだ」
そこは魔力量とか言ってほしかった。雰囲気的に。だけど、納得できる話だ。日々MPの管理には苦労してローテーションをしている。
「そこで、アジフにはレベルを上げてもらいたいのだ。ただし、知っての通りこの教会は忙しい。教会の仕事もこなしてもらいながらになる」
「ゼンリマ神父、念の為お聞きしますが、それは今までの見習い司祭の方々も同じように?」
「むろんだ。特別扱いなどせん」
「差し出がましいようですが、私はともかく、他の見習いの方には厳しかったのではないでしょうか」
教会と治療院の仕事に加えて鉱山の依頼をしたうえで、
「もちろん冒険者パーティと一緒にだぞ? ちゃんとメイスが振れるように筋肉も鍛えてな」
おまけで筋トレも入ったか。それは逃げ出すわ。
ゼンリマ神父はこの街の人々の圧倒的な人気がある。しかもドワーフの英雄でロクイドルの現役の戦力でもある。たとえ育成者としては多少アレだとしても、教会も代えられないのだろう。頑固なドワーフ親爺なのだ。
「私はソロで問題ありませんので、装備が整い次第レベル上げに努めます」
ヒール1回に必要なMPは12。今の最大MPは71なので、最高で5回ヒールを使えることになる。間に時間を挟めばMPの自動回復で6回目もいけそうだ。
さしあたっては、普段魔法を使うための杖と、せっかく並列思考があるので、戦闘中に魔法が使えるように何か仕込みたい。
義足にも媒体を仕込みたいところだが、怪我人に対して足をかざすわけにはいかないので、他の手段も必要になるだろ……う……
しまった! 義足の部品忘れてきた!!
教会の仕事には給料が出る。患者には困らない教会とは言え、仕事量に対しては少ない金額だ。ただし、住み込みで宿代がかからないうえに食事も出る。
しかもレベル上げや鉱山で使う消耗品は教会で負担してくれるそうなので、金額以上に多いって思える。
翌日に義足の部品を忘れてきたとペメリさんに伝え、しっかり怒られてから再び鍛冶屋のドワーフの親方を訪ねた。
「やっときたか」
親方はすっかりあきれてそう言った。
「親方のおかげです。ありがとうございます」
「なんの事かわからんが、とっとと持って行けよ」
渡された義足のバネの先端を持って親方にたずねた。
「親方、これメイスになりませんかね?」
「ワシはお前が何を言っとるか本格的にわからなくなってきたが、それは言ってみれば変な形をした鉄の板じゃ。やればできるじゃろうな」
「是非お願いします!」
「ワシにお願いされても困るわい。知り合いの魔道具職人を教えてやるからそこにもってけ」
「ありがとうございます!」
魔術の導体の加工は魔道具職人の仕事らしい。職人の工房の場所を教えてもらい、鍛冶屋を後にした。
普段入らない、街の裏通りにさまざまな工房が集まっているエリアがあった。その一角の魔道具工房が集まる中に、鍛冶屋の親方から教えてもらった工房はあった。
「レッテロットさんいますかー?」
「はいよー」
よくわからない素材と思われる物が並んだ工房の奥から姿を現したのは、ドワーフの女性だった。年齢は……ドワーフの女性はよくわからない。だがわかる事もある。それを聞いてはいけないって事だ。
「鍛冶屋の親方から聞いてきました。メイスを2つ作ってもらいたいのと、杖が一本欲しいです」
義足のバネを渡すと
「なんだいこりゃぁ」
と、言われた。そりゃそうですよねー
義足を見せて構想を説明すると
「へぇ、面白い事考えるじゃないか。メイスとは言えないけど。やらせてもらうよ」
と、快諾をしてくれた。
「もう一つ頼みたいメイスがあるんです。左手に装着する形で、剣を握る邪魔にならない形にしたいんです」
「むしろ、それのどこにメイスの要素が残ってるのか聞きたいね。まぁ、言いたい事はわかった。木でもいいのかい?」
「剣での戦闘に巻き込まれても耐えられるような造りがいいですね」
レッテロットさんはしばらく考えたあと
「ちょっと重くなるかもしれないが、籠手と一体型の小さな盾に仕込むのはどうだい? ただし、メイスより魔法の射程が短くなるはずだ。離れれば当たらないぞ」
う~ん、言われて光魔法の距離について考える。聖書によれば、スキルLv5で聖句が使えるようになる「プロテクション」。自分か近くの仲間一人に対する敵の攻撃を減衰する呪文がある。
近くってどれくらいだろう。わからないけど戦闘中に“近く”で魔法を外したら、恥ずかしいじゃ済まないだろうことはわかる。
「プロテクションが当たればいいです」
ダメもとで言ってみた。
「光魔法かい、それくらいなら方向を絞れば……いや、こんなのはどうだい?」
レッテロットさんが黒板にチョークらしきもので絵を描いた。
「ほほう、それは面白い。レッテロットさん、いける口ですな」
「ふふふ……あんたも話がわかるじゃないか。そんな固っ苦しいしゃべり方は止めちまいな」
この雰囲気、思ったより若いのかな?
「いいで……だろう、レッテロットさんにはこれから世話になりそうだ」
そう言って手を差し出した。
「“さん”も要らないよ、こっちこそ面白い仕事ができそうだ」
「わかった、レッテロット。よろしく頼むよ」
がっちりと握手をした。
工業化などしていない世界では、職人との繋がりはとても大切だ。義足はもちろんだが、武器・鎧から服・鞄・靴、家があれば調理器具から家具まで。もちろん売っている店はあるが、街の暮らしと職人のつながりは深い。
いい職人と出会えた事はいい物が手に入った以上に価値がある。大満足して教会へ戻ると、そこには腕を組んだペメリさんが仁王立ちしていた。
「昨日の今日でずいぶんとゆっくりだったじゃないか。ええ? アジフさんよ?」
おこっていらっしゃる。しかも激がつく奴だ、マズイ
「ぺ、ペメリさん、これには訳が、杖! そう! 杖を買いに行っていたんです!」
「ほう? で、その杖はどこにあるんだ?」
あ、義足と戦闘用の装備の話に夢中になって、普段用の杖買ってなかった。
「忘れました」
<ガツッ>
脳天にげんこつが落ちた。2日連続痛い……
後日、普段用の魔道杖はごく普通の物を買った。
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