ステータスと盗賊襲来



 眩しい光がおさまったように感じると、頬に風を感じた。


 そろそろと目を開けてみると、どうやら周囲は草原のようだ。少し離れたところに道らしきものも見える。どこからでも見つかりそうな草原の真ん中に突っ立ってるなんて不用心だ。 周囲を見渡すと、小さな藪と岩が見えたのでとりあえず身をひそめた。


 一息つけたところで、いよいよ確認することにした。


「ステータスオープン!」


そう唱えると視界にゲームのような枠が現れた。

「おおお……」

 まるで生きてるうちについに叶わなかったVRMMOみたいじゃないか。どうやら異世界詐欺(?)ではないようでほっとした。


  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 46

  Lv : 1


  HP   : 36/36

  MP : 11/11

  STR : 18

  VIT : 17

  INT : 8

  MND : 11

  AGI : 14

  DEX : 7

  LUK : 4


スキル

  エラルト語Lv1 リバースエイジLv1


称号

  異世界よりの来訪者


 ふむ、だいたい分かる。

 普通に考えるなら、STR=力 VIT=頑丈 INT=知力 MND=精神 AGI=敏捷 DEX=器用 LUK=運 ってところか。

 Lvを上げて物理で殴るタイプってところか。基準がわからないが、Lv1のステータスの割にいいのではないだろうか?

 スキルはどうやって使うのだろうか? うーん、とエラルト語を意識していると、詳細が表示された。


 エラルト語Lv1

人族国家の標準言語エラルト語を使用できる


 意識しないと発動しないのだろうか? 切り替えはできるのだろうか? 確認しようにも誰かにエラルト語とやらを使ってもらわないとわからない。とりあえず保留しよう。

 さて、本命のスキルはリバースエイジだ。これが若返るスキルに違いない。


 リバースエイジLv1

スキルLv×使用するMP×0.1歳 使用者の年齢を逆行させる。

リキャストタイム:1年


 リ、リキャスト1年だと!?リキャストタイムってのはスキルを再使用できる間隔だろう。1年に1回しか使用出来ないなら慎重に使う必要がありそうだ。現状なら Lv1×MP11×0.1 で最大1.1歳しか若返れないことになる。46歳が44.9歳になっても正直誤差レベルだ。いきなり大きく若返りはできないらしい。アンチエイジングの道は1日にしてならずか。


 さっそく使ってみたいところではあるが、今使うと1年後まで再使用できなさそうだ。せめてもう少しレベルを上げてMPを増やしてから使ってみたい。

 気になるのが、ステータスが肉体派に思えることだ。物理タイプはMPの伸びが悪い印象がある。いい歳のおっさんが前衛デビューってのも苦しいし、なんとか魔法使いなんかの後衛職に就けないものか。


 なんと言っても魔法と言えば異世界! 異世界と言えば魔法! スキルがないのですんなりとはいかないかもしれないが、あの光…… たぶん神(仮)はスキルの獲得は可能と言っていた。これは試して見なければなるまい。

 目の前に手をかざして、なんかこう力を集める感じでムムム…… と

そして唱えるのは定番のアレだ!


「ファイヤーボール!!」


……うん、なにも起きない。そよそよと風が吹いているが、これは元からだ。関係あるまい。


 ある意味予想通りであり、これで発動するならそもそもスキルとかいらないよって事なのだろうが、なんだろう、この”いい歳こいてやらかした”空気は。圧倒的敗北感だ。


 だがわかった事もある。”とりあえずなんとなくがんばった雰囲気を出して見てもスキルは獲得できない”って事だ。これは敗北ではない。

 それはさておき、魔法が発動しなかった原因について考えてみるとしよう。


仮説1

いい歳こいて魔法とか夢みてんじゃねーよ!

一見、現実的なようにも思えるが、仮にも神(仮)が剣と魔法の世界と言ってるうえに、ステータスなんてものがある時点で逆に現実的ではない。


仮説2

魔法名が違う。

いろいろパターンあるからな、試してみよう

ムムム……


「ファイア!」

「〇ラ!」

「フレイムバレット!」

「ウィンドカッター!」

「〇アロ!」

「ウォーター!」

「アースバレット!」

「グランドジャベリン!」

「ライト!」


……風が少し弱まったかな?

まぁ関係なかろう。そしてまた圧倒的敗北感に包まれた。


 正直合ってるのか間違ってるのかさっぱりわからん。これは誰かが魔法を使うのを確認したほうがよさそうだ。ひとまず置いておこう。


仮説3

発動条件を満たしていない。

 これはあるんじゃないかと思う。例えば呪文が必要とか、触媒や魔法陣が必要とか。これも誰かが魔法を使うところを確認しないとなんとも言えない。


 そしてもう一つ可能性が高いんじゃないかと思えるのが。


仮説4

魔法を使うには何かスキルが必要

これも発動条件とも言えるけれど、例えば魔力感知とか魔力操作ってやつだ。これは試してみなければなるまい。


 座禅……は組めないからあぐらを組んで(おっさんは体が硬い)目を閉じて体内の魔力を探す……探す……

よくありがちそうな、へそのあたりもよく探す……

ん? これは?


グゥ~

そういえば晩ごはん食べてなかったな。

違ったようだ。


血のめぐりの中心心臓のあたりも探す……

探すが……

う~ん、さっぱりわからん。


ドドッ


ん? 今なにか?


ドドドッ


お? これは?


ドドッドドドッ


これは!


 向こうの道の方から聞こえてくる音と振動だった、魔力は関係なさそうだ。


 岩陰から街道の方向をのぞいてみるとなにやら土埃が立ってる。そしてだんだんと近づいてくる。

 どうやら馬車のようだが、ずいぶんとスピードを出している。そのさらに後方には幾人かの騎馬が見え、どうやら馬車は追われているようだ。


 この展開、とても嫌な予感がする。



 馬車の荷台にも人が乗っていて、どうやら弓で反撃しているようだが、あんなに馬車の速度が出ていては狙いなどつくまい。あ、騎馬の一人に当たって落馬した。すごい腕だな。


 これで追う方の騎馬は3、4……5人か。騎馬の装備は毛皮などをまとい、なんというか……ぼろい。馬車を追いかける印象としてはズバリ ”盗賊”だ。槍を持ったのが3人に剣が2人。


 対して馬車の側は御者の人は武装していないが、荷台に乗っている2人は暗い色の鎧を装備し、1人は弓、1人は剣を持っている。


 街道が広い草原へ抜けて、少し横に広がった騎馬が馬車を追い抜き、剣を持った騎馬が右側から御者に切りかかる。

 首すじへと向かう横殴りの剣戟を、御者も間一髪身をよじり避けた!


……が、いつの間にか反対側から張り付いた盗賊の繰り出した槍が、御者の横腹へと突き刺さった。


 御者を刺した盗賊は少し速度の落ちた馬車に乗り移り、御者を蹴落とした。

 荷台の剣士が御者席の盗賊へせまるも、背後から狙われてしまう。



 そこをカバーするように弓を持っていた荷台の人が剣を抜いて牽制するも、3人に囲まれ槍に刺されてしまう。

 5人に囲まれた剣士はとうとう剣を手放し、降伏したようだ。


 馬車が止められ、盗賊らしき者どもが荷台をあさると、荷物の中から小柄な少年らしき人影が発見されたようで暴れていたが、荷台から引きずり降ろされ殴る蹴るされておとなしくなったようだ。

 剣士は2人がかりで拘束され、遠くてよく聞こえないが、「命だけは!」とか言っているようだが、地面に頭を固定され首を落とされた。


 現代日本からあまりにも乖離した光景に理解が追い付かない。呆然と見入ってしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る