自称人魚のお嬢様と出会ったのだが…醤油とわさびはどこにある?

甲斐八雲

序章 『人魚と転移者の出会い』

プロローグ

 カッビィーと呼ばれるカビた餅のようなモンスターに襲われていた女性を助けた。

 そこそこ高額で新品な装備を身に付けている美人だ。きっとお金持ちのお嬢様がスリルを求めて低級モンスターが出るフィールドに来たのだろう。


 近くには発展途上中の村しかないけれど、たぶん何かしらの移動手段があるに違いない。

 この世界の魔法とか良く知らないからたぶんその流れかと。


『お礼がしたいです。食事でも……』と言われれば断る理由は無い。

 だって相手は美人なのだから。


 ただモンスターとの戦いで泥だらけになっている相手がその汚れを気にしていた。

 どうにかする方法を知っているのなら提案するのは自然なことだ。


『俺が借りることになった部屋に湯船があるけど? お湯は有料だけど……』

『湯船ですか! お湯なんて要りません! 水で十分です!』


 前のめりで食い気味に迫って来た。

 水って……まだ寒いけど本人が良いというなら無理強いはしない。

 村に戻って宿屋へ向かう。


『覗かないで下さいね。絶対ですからね』などと念を押されれば覗くのが礼儀だろう。

 鶴の恩返しだって人の良いお爺さんは結局覗いた。好奇心に対して年齢も性別も関係ない。


 何より美人女性の入浴シーンをリアルで見れる。なぜ迷う?

 ここは警官も居ない。刑法も無い。日本とは違うのだから。

 異世界万歳と、自然な動きで風呂場のドアを開いた。


「きゃああああ~!」

「……」

「いやぁあああ~!」

「……」

「……何そんな難しそうな顔で見てるんですか!」

「いや、意外と着痩せするタイプだなって」

「下半身じゃ無くてそっち? って見ないでください!」


 湯船でパニック状態の相手がようやく晒していた胸を腕で覆った。悪くない大きさと形だ。

 ただそっちを隠さず最初股の方を隠したのは本能なのだろうか?

 隠す意味が全く分からない。だって魚だし。


 そう。彼女の腰から下は魚の胴体……つまり人魚スタイルなのだ。

 それが湯船から飛び出している。立派な尾びれだ。


「何なんですか! 見ないでください!」

「うむ。ここって内陸だから魚って基本川魚だろ?」

「……まあそうですね」


『なに言ってるのこの人は?』って言う蔑みの視線が貫く。

 だが彼は全く気にせず言葉を続けた。


「俺って生の魚を、海の魚を食べる文化のある所に居たからさ」

「……」

「この世界って醤油とわさびってあるのかな?」


 サッと彼女の顔色が赤から青へ。そして血の気を失い白くなった。

 胸を隠すことも忘れて両手を頬に添えてガタガタと震える。


「いゃぁああ~! 貞操よりも身の危険を感じるその呪いの言葉は何ですか!」

「日本人の誇り?」

「怖い! 醤油にワサビ……何て怖い言葉! 怖い、怖いよ~」


 流れ落ちる涙が滂沱のようだ。


 本能で醤油とわさびの恐怖を感じ取ったのだと思う。

 まあ良い。形が魚であってもたぶん下半身は肉だろう。肉だよね?


「その足って……三枚に下ろしたらどうなる?」

「いゃぁああ~! 何なんですか! 貴方はわたしに対して恨みでもあるんですか!」

「恨みは無いがちょっと刺身が食べたい」

「怖い~! どこの魔法の言葉ですか!」


 改めてガタガタと震えだす。

 寒いのか? 湯船の中身がただの真水だからだろう。

 この部屋は宿屋の店主の趣味で湯船を置かれているが、お湯は有料だから使う予定はない。


「新鮮な魚って食べたくなるだろ?」

「海に居た頃は海藻ばかりで……ってあの頃は魚とか食べて無かったですから!」

「まあ同族なら食べないよな。でも俺は食いたい」

「いゃぁ~! 暗闇で強姦魔に会うよりもストレートに怖い告白です!」

「人のことを悪く言うな。ただの食事の話だ」

「だからそれがわたしからすれば恐怖話なんです!」

「醤油とわさびがあればな……焼いたのに醤油も良いけど。ん? 塩振りで挑戦するか?」

「いゃぁあああ~! それだったら一層のこと、貞操の方を狙って下さい! 食べないで~!」

「貞操って……魚相手だと卵でしょ? イクラとかあまり好きじゃ無いんだよね。やっぱり焼くか」

「この人で無し~!」


 我が儘な相手だなと思いつつ、彼は考えた。

 つい魚を前に色々と口を滑らせ続けている。

 まあ相手は馬鹿そうだから問題は無いだろう。

 胸を隠すことを忘れて全力で吠えているし。実に眼福である。


 何よりこの世界で前の世界のことを言っても無意味なのは、先日の商人との会話で悟りを得た。

 異世界転移して……元の世界のことを必死に黙って居る人に言いたい。

 証拠が無ければ、ただの"痛い人"認定されるだけだから心配するなと。


 実際日本に居て、『私は異世界から来たんです』とか知り合いに告白されたとしよう。どんな受け答えをする?

 大半は生暖かい視線を向けて『中二の病が出たか……』と思うことだろう。

 それでもしつこく言い張るのならば『病院に行ったら?』と思うことだろう。

 それでもなお頑張り続けるのならば『末期だ』と思い露骨に避けるようになるだろう。


 つまりそう言うことだ。


 あっちの技術の転用などは『物知りですね。研究職か何かですか?』で片づけられる。

 作った道具だって知らない人から見ればただの便利道具だ。

 その真理に辿り着き……もう前の世界のことは気にしないことにした。


 口を滑らせても証拠が無いから実証など不可能だ。

 だったら痛い人でも物知りな人でも好きに呼べと。

 どうしてこうなったのか……彼は人魚らしき相手の胸をガン見しながら振り返った。

 本当に良い形に大きさだ。




~作者より~


 この物語は、ギャグ&ライトエッチが基本ベースなので嫌いな人は静かに退場願います。

 不真面目を笑って許せる人たちに読んで貰えればと思います。




(C) 甲斐八雲

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