第7話 国のこと

 武蔵はその攻撃を右側に避けることで回避すると、避けれなかった部下たち数十名が吹き飛ばされていた。豪徳寺はその隙を見逃さずに、戦斧を用いて武蔵に斬りかかる。


「ここは退かせてもらう! ここで死ぬわけにはいかないのでな!」


 豪徳寺が部下が逃げる時間を稼ごうとするが、武蔵は左腰に帯刀している刀でその攻撃を防いだ。武蔵は押さることなく豪徳寺と鍔迫り合いをする。その様子を見ていた美桜たちは強すぎると一様に声を揃えて言っていた。


「あんな強さなんて思わなかった……今の私たちじゃ勝てない……」


 美桜と茉莉は驕っていた思わせられた。どうして勝てると思ったのか、どうして二人でなら倒せると思ったのか。今の二人が何人いようと勝てるはずがないと二人は感じていた。


「二人とも! 今のうちに村人の人たちを逃がさないと!」


 琴葉が美桜と茉莉に言うと、この状況を利用しない手はないわねと二人で頷いていた。美桜と茉莉は村人の集まっている場所に駆け寄ると、茉莉がこっちに来てと炭鉱の奥に先導をする形で走って行った。


「お前たちは村人を守りながら来なさい! 絶対に村人を傷つけないように!」

「分かりました! お頭!」


 数人の部下たちはそう叫ぶと、行くよと茉莉は炭鉱の奥に入っていく。その際に村人たちは本当について行っていいのかと言い争っているが、美桜と琴葉が今は私たちを信じてと言うと、渋々茉莉の後ろを走って行った。炭鉱の中は鉱石採掘に使っていたり、レールを敷いてトロッコを配置していたりと本格的に長期間運営していたようである。


「こっちよ! ここの右奥にある扉を抜けると……」


 茉莉が炭鉱の右奥にある木製の扉を開けると、そこに映った景色は水郷村の側で見た景色と似ていた。水郷村の人たちがその景色を見ると、思い思いの言葉を発していた。


「おぉ……数週間ぶりの水郷村だ……」

「一年ぶりだ……やっと帰ってこれた……」


 数週間から一年と幅広い期間で囚われていたことが村人の言葉から推測することが出来た。美桜たちは先に村の中に走って入ると、愛を探した。


「愛ちゃーん! どこにいるのー!?」

「愛ちゃーん! どこだー!?」


 美桜と伊織が愛の名前を叫んで村中を探し回った。美桜と伊織が愛を探しているのを見ていた村人は、愛ちゃんがいないのかと焦っていた。


「愛ちゃんがいないの!?」

「愛ちゃんはどこだ!? どこにいる!?」


 村人の老若男女問わず愛の名前を叫んで探し回っていた。伊織は農業武具店に入ったが、そこにもいなかったのでどこに行ったのか不安を感じていた。


「愛ちゃんどこに行ったんだ! どこに!」


 伊織は美桜と別れて二人で別々に村の中を探し回る。美桜は伊織に北側を見るからと言うと、伊織は東側を探すと返答して周囲を見渡しながら村の東側に走って行く。


「どこだ! どこにいる!」


 伊織が焦りながら愛を探していると、村の東側にある花畑の中心にいる愛の姿が見えた。


「愛ちゃん!」


 伊織が花畑の中に入って、中心にいる愛に話しかけた。すると伊織の方を見た愛が、お兄ちゃんと右手を振って花畑のなかにある綺麗な青色の花を掴んで綺麗な花と呟いていた。


「村の皆が解放されたから! 早く愛ちゃんも会いに行こう!」


 伊織が愛に近づいて愛と視線が合う態勢にすると、愛の後ろに淡い光を放つ表情などが一切見えない不思議な生命体がそこにいた。


「き、君は何だ!? 愛ちゃんに何しようとしてる!?」


 伊織は謎の淡い光を放つ生命体を見ると、愛を抱えて花畑から慌てて出て行った。後ろを振り向くことなく一心不乱に村人たちがいる場所に走って行く。


「お、お兄ちゃんどうしたの!? 何があったの!?」

「大丈夫だ! 何もないから心配しなくて平気だよ!」

「うん……分かった……」


 愛は伊織が言った大丈夫という言葉を信じることにした。伊織が愛を抱えながら五分程度走ると、美桜が村人たちがいる池に到着した。


「美桜! 琴葉さーん!」

「なによって……愛ちゃん! 愛ちゃんじゃない!」

「愛ちゃんいたんだ、良かった!」


 美桜と琴葉が安堵の表所をしながら屈んで愛の頭や頬を触っていた。そんな四人を見ていた村人たちは、愛の姿を見て喜んでいた。


「愛ちゃん! 一人にさせてごめんな!」

「心配かけてごめんね!」


 若い村人の人たちが愛を抱きしめてただいまと言っていた。三人、四人と続いて愛に泣いたり笑ったりしながら話している姿を美桜が見ていると、ふと伊織にどうしてあんなに焦って来たのか話しかけた。


「愛ちゃんが村の東側の花畑にいたんだけど、愛ちゃんの後ろに淡い光を放つ人型の何かがいて、慌てて抱えて来たの!」


 伊織が先ほどのことを思い出して怖がっていると、美桜がそれってと考え始めてしまう。


「もしかしてそれって……精霊?」

「精霊? 精霊ってなに?」

「あんたそれも知らないの!? 一体どういう風に今まで生きて来たのよ!」


 美桜に怒られてしまった伊織は、普通に生きてきたと胸を張っていた。美桜はそうじゃないのよと頭を抱えていると、伊織に義務教育よと指をさして怒っていた。


「ご、ごめんなさい……学校は卒業したはずなんだけどなぁ……」


 伊織が自身の頭部を掻きながら謝っていると、伊織たちのもとに武蔵が部下を数人連れてやってきた。


「ここが西邦大陸にある我が大和神国の領地の端にある水郷村か。 こんな辺境の村に派遣されて、侵略してきた敵国の兵士と戦わされて大変だったぞ」


 服に付いた埃を払いながら美桜たちに話しかけていると、一人の女性が武蔵の前に慌てて出てきた。


「お手数をおかけして申し訳ありません! 私がこの村の臨時の長を務めさせていただいております、草木若葉です。 この娘である愛の母親です!」


 愛のフルネームは草木愛らしい。愛の母親が武蔵に謝っていると、武蔵はこの村を襲った奴らが悪いがと話し始める。


「なぜもっと国に支援を早く求めなかった?」


 武蔵に言われた若葉は、夫が何度も支援を求めていたはずですと反論をした。その言葉を聞いた武蔵は、そんな話は私は聞いていないと武蔵は悩み始めた。

その二人の話を聞いていた茉莉は、不敵に笑い始めた。


「知らないのか? お前たちの国は既に北方連合の侵略を受けていますよ? 事実私はこの村を焼き払って前線基地を作る手伝いをしろと言われました。 でも私はそれを断って、大和皇国に無下に扱われた村人を率いて水郷村の人たちを奴隷のように扱ってましたけどね」


 武蔵はその言葉を聞いて、国中に裏切り者がいるのかと呟いていた。武蔵は数分考えると、若葉に向けて話し始めた。


「信頼を置ける部下にこの村とその周辺の警戒にあたらせます。 私は信じられませんが、国の裏切り者を探そうと思います」


 若葉は警戒にあたらせると聞いて、これで村が安全になると安堵の表情を浮かべていた。愛は二人の話が終わったと感じると、母親にお父さんはどこにいると聞いた。


「あ、お父さんはね……お父さんは……」

「お父さんはどこいったのー? 早く会いたいよ! ねぇどこ行ったの!」


 愛の必死の言葉を聞いた若葉は、両目に涙を浮かべてしまう。愛がその涙に気が付くと、若葉がお父さんはねと愛に話す。


「お父さんは、崩落から私を守るために庇って岩の下敷きになってしまったの……私のせいで天国に旅立ったのよ……」

「天国ってなに? 別のところに行っちゃったの?」

「そうよ……お父さんは先に別のところに行っちゃったの……」


 遠くに行っちゃったと言われた愛は、早く会いたいなと何度も言っていた。その愛を見ていた茉莉は、愛の前に出て抱きしめた。


「私がこの村の人を炭鉱で働かせちゃったからなの! ごめんなさい!」


 茉莉が愛を抱きしめながら泣いてしまうと、茉莉の部下たちがお頭と言いながら泣き始めていた。


「お頭! 俺たちは罪滅ぼしでこの村を守っていきます! 若葉さん、大丈夫ですか!?」

「え、そ、それは……村の人たちが大丈夫ならいいですけど、そう簡単には……」


 若葉がそう言うと、村人の全員が顔を伏して悩んでいた。その様子を見ていた茉莉の部下たちはそうだよなとお互いの顔を見合わせていた。


「長い期間酷いことをしていた人たちを急に信じるなんてできるわけないよな……」


 そんなことを部下たちが言っていると、茉莉がすぐに信じてくれなんて言わないと村人に向かって言い始めた。


「これからの私たちを見て決めて欲しい。 私たちはあなたたちに酷いことをした事実は変わらない。 でも、良い方向に変わっていく私たちを見て決めて欲しい!」


 茉莉の言葉を聞いた村人たちは、そこまで言うならと口を揃えていた。


「ありがとうございます!」


 茉莉はその言葉と共に村人全員に向けて頭を下げた。茉莉が頭を下げたと全員が驚いていると、武蔵が終わったかなと口を挟んでくる。


「初めて来たときから不思議に思っていたが、そこにいる美桜と呼ばれていた少女は神聖王国の第二王女じゃないか? 今じゃ敵国に落とされて、西邦大陸の侵略の最前線の国となっている場所だ」


 美桜は現在の自身の国のことを言われて、武蔵に国が落とされたのかと詰め寄った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る