聖女ですが、なにか?
たはら
第1話 聖女ですが、なにか?
私はオッサンである。
ただし、世間様がもてはやすような、素敵なオッサンではない。だいたいあれはオッサンではなく、オジサマという奴だ。
薄毛で(断じてハゲではない)腹の出た、大して仕事も出来ない、由緒正しいまるでダメな方のオッサンである。
いま、私の目の前には、貴族の獣車にはねられた
「立てますか? それとも、まだどこか痛みますか?」
私の問いかけに、母親ははっとした様子できょとんとしている娘の様子を確かめ、服についた血や土汚れやら以外に問題がないことに安堵の吐息をもらし、それから自分の体にも怪我が残っていないことに驚いた。
無理もない。
なんせ、不注意に車道へ飛び出した娘を庇って覆い被さったまではよかったが、そのまま獣車を引く重量級の魔獣たちに
母娘そろって手足が明後日の方向を向いていたし、娘さんはビクンビクンしていたし、指先一つ動かせなくなったお母さんが、血だまりの中で「○○を助けて……」と、うつろな目で囁くような声を血の泡と一緒にゴボゴボと絞り出していた。
そんな状況から服の汚れ以外は問題なく回復したのだから、混乱した母娘や野次馬の気持ちもよく分かる。
でもね……
「貴方は、一体?」
母親だけでなく、野次馬までが固唾をのんで耳を澄ます。
野次馬の中に、ニコニコと笑う一人の少女が、その背後の男女を呼ぶのを見つけ、黙っていてもどうせバラされてしまうだろうと諦めた。
私は右手で人差し指と中指をピンと伸ばして剣指印を結び、その白い光を放つ指先で、自分の左肩、右肩、額、お臍の下に触れた。
光の十字から純白の翼が広がり、花びらが散るかのように、光の羽根が舞い散る。
奇跡の力を行使する際に発露する、
浄化の奇跡によって、母娘の着ている服に付着していたしつこい血と油と土と垢汚れなどの乙女の名誉に関わるアレやコレやが、綺麗さっぱり消滅して下ろしたてのようになった。
「聖女ですが、なにか?」
しん、とその場が静まり返った。
私の仲間の三人以外、誰も彼もが硬直し、一拍の溜のあと……
「「「「「工工工エエェェ(゚Д゚)ェェエエ工工工」」」」」
野次馬どころか助けた母娘までが、口をそろえて不本意そうに叫んだ。
私だって、好きで聖女になったんじゃあ、ない!
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