うさきつね電想譚 ~0から独力で創るVtuber生活~

flow

0.その日までの出来事です


あなたは「バ美肉」と言う言葉を知っているでしょうか?


「バーチャル美少女受肉」の略で


電脳世界で望む姿の肉体を持って活動出来るようになる


そんな魔法のような不思議な技術です。




机の上に置かれたモニターに映し出されているのは一人の女性


水色の髪に水色の眼、黒を基調としたドレスは腰の辺りまで描かれています


そして頭の上には髪の毛と同じ色をした二等辺三角形の耳


フリルの付いた黒のヘッドドレスに、その両端から伸びるような形で生える細長い耳と


普通の人間には見られない特徴が付いた女性の姿でした。




「バ美肉」とは、本来は男性が女性の体を使って活動する事を指すようですが


ここに描かれているのは少しそれから逸脱いつだつしたものでした


その姿は、私の姿に瓜二つだったのです。




狐の耳とウサギの耳を併せ持つ種族、うさきつね族


私、水待みずまちコトはうさきつね族として生まれ


そして物心がついた時には、親切な人間さんと一緒に暮らすようになっていました。




なぜ同族とではなく人間さんと暮らしているのか


一度も会った事のない他のうさきつね族はどこにいるのか


それらを知りたいがために電脳の世界へと飛び込もうと言うのです。




電脳世界には本当に様々なモノが集まります


人間だけでもただのゲーマーから占い師、物書きなど様々な身分や肩書を持つモノ


私と似たような狐やウサギの特徴を持つモノ


それ以外にも爬虫類や昆虫の特徴を持つモノ


さらには妖怪や宇宙人、アンドロイドと言った現代に存在しないと思われてる種族のモノまで


数えきれない多種多様に集まります。




そんな中なら


きっと私以外これまで10年以上生きて来て一度たりとも会った事のない同族もいるのではないか


直接は会えなくても、何か情報が手に入るのではないか


そう思ったからこそ、自分も「バ美肉」の力によって電脳世界へと足を踏み入れようと思ったのです。




さて、そう言うわけで電脳世界で活動するための姿は描けました


ただし、これだけではまだ足りません


Live2dと呼ばれる絵を自由自在に動かす技術


それを加えてやっと電脳世界での活動が可能になるのです。




今まで絵を描いたことはあっても


それを動かしたことなんて1度もありません


初めて触れるLive2dの編集ソフトのマニュアルと睨めっこをしながら


1つずつ手順を踏んで自分の似姿が動くようにして行きます。




まずまばたきをするようになり


続いて口を自由に動かせるようになり


視線が動くようになって行きました


ただの絵だったものが自分の思ったように動くようになって行く様は


とても不思議で、作業が進むにつれて自分が高揚していくのが分かりました。




それから数週間ほど時が流れ


ついには腰から上だけの私の肖像は


頭を、体を、自由に動かせるようになったのです。






電脳世界で活動するための体を準備すると同時に


並行してさらにいくつかの準備を進めておきます。




まずは活動のための機材集めです


現実世界の自分と、電脳世界の自分を同期させるために使うカメラを購入し


家に置いてあった人間用のヘッドセットを使わせてもらいます


これは電脳世界へと声を届けるのに使うものであり


人間用なので耳の形は合いませんが、マイクの部分は使えそうなので


しばらくの間使わせてもらう事にします


機材に関してはこれだけ揃えば当座は大丈夫でしょう


必要になればまたその時に増やしていく事にします。




次にSNSへの登録です


SNS、ソーシャルネットワーキングサービスとは


インターネット上で不特定多数の他人と交流するためのサービスです


ここで使用するのは「つぶやき」と呼ばれる短文を用いて交流をするサイトで


これを使用する事で自分の活動を呟いて宣伝したり


他人の呟きを見る事で電脳世界の動向を把握したりと


情報のやり取りを円滑にするために使われます。




SNS上で最初に行う事は人間関係の構築です


見ず知らずの他人より、知り合いが多い方が多くの情報が集まりますし


何より困った時に助け合える仲間が電脳世界上にもいる事は


精神的にも非常に心強いものとなります。




だから毎日のように何人もが電脳世界デビューを果たす中から


近い時期に活動を開始して親近感が持てるモノ


自分がかれるほど優れた容姿を持ったモノ


自分の呟きに興味を示して相手から接触を図ってきたモノ


互いに高めあうライバルとして、困った時に頼れる仲間として


様々な相手と交友関係を結んでおきます




最初に言ったように、数えきれないぐらい多種多様な方がこの界隈にはいるので


実際に活動を行っていなくても


そう言った方々と交流するだけでも面白いものです


もちろん、それだけで満足してしまっては困るのですが。






さて、ここまで全てをこなしてやっと準備が終了です


自分にそっくりな姿をした体


それに動きと声を吹き込むためのあらゆる機材


そして小規模ながらも頼れる人脈


これだけ揃っているなら問題なく電脳世界での活動を開始できるでしょう




一通りの事をこなしてモチベーションが上がっているうちに次の手を打ちます


それが、自分の活動開始の告知です


日程は3日後、時間は私がお風呂から上がって一息つけるぐらいに設定しておきます




さて、ここからは大忙しです


とりあえず初の顔見せならやる事は自己紹介としておきます


喋るだけなら大掛かりな仕掛けは必要ないですが


それでも何もない空間にぽつんと立って喋るだけではないので


背景や音響と言った舞台装置を準備します


基本的にローコスト運営を心掛けているので


無料の素材屋さんから借りて来る事とします。




それらを組み合わせて配信時のメイン画面を確保


これだけを映し続けるとメリハリが足りないので


タイトル画面を追加で生産


そこで表示するこれからの活動でも使うロゴも制作


と、このようにどんどん必要だと思われる素材が増えていきます。




ついでに自己紹介だけで長時間喋れるほど


自分の話術が優れているわけではないと思っているので


視聴者さんの側からの質問に答えやすいように


事前に匿名のメッセージボックスを借りて話題を募集しておきます。






そんなこんなで準備に追われているうちに


あっと言う間に自分が配信を行うと宣言した期間、3日が過ぎて行き


ついにデビュー当日がやって来ました


私、水待コトは


電脳世界で情報の配信を行うモノ、通称「バーチャルライバー」として


無事に活動を開始できるのでしょうか!?

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